第四十二話 アレクサンド・リターンズ その一
◆「フォーティファイド・シティ・イン・フレイム」 第二幕◆
◆「アレクサンド・リターンズ」その一◆
しとしとと、雨音がする。暗い冬の夜の中、冷たく氷雨が降り注ぎ石畳と音を立てる。
目が覚めると、そこは見知らぬ天井であった。身体にかかっていた毛布が落ちる。
「……ここは?」
「おはよ。……まあ、そうは言ってもまだ夜だけど。雨が降る前にこっちにこれてよかったわね。上水道、通れなくなっちゃうところだったわ」
見れば、足を組んだアンセラが椅子に腰かけていた。フローはベッドに上半身をもたれかからせて眠っている。看病していてくれたらしい。
「……時間は大丈夫なのか? 俺は、どれぐらい眠ってたんだ……?」
「気にしなくていいわよ。どうせ、夜を待ってから動こうって話だったから。この暗さなら、城壁からもこっちを見れないでしょ? それにこっちには狼の鼻がいるし」
「……」
不敵な笑みであった。いくらか消耗しているが、まだ問題ないと思える。
「皆は?」
「交信屋で働いてた娘を保護してる。あとは細かい打ち合わせね」
「そうか」
通信手段は抑えられていなかった。となれば、敵は攻城戦や占領戦に向かない素人か、そこまで手が回らなかったかだ。
吐息を漏らす。
左の鼓膜が破れているのを、呼び出した触手で補った。これで少なくとも音を聞く分には問題ない。
あの、奇妙な暴走とも言える感覚は収まっていた。無理に触手を呼び出そうとした、その弊害だろうか。
「……戦ったばっかりで悪いんだけど、あんたも話に加わってくれる?」
「うす」
是非もない。
眠っているフローを起こさないように注意を払い、シラノは部屋を後にした。
◇ ◆ ◇
入った部屋にいたのは、精悍な髪形のリュディガー。そして顎に髭を生やしたレオディゲル。前髪を眉のラインで整えた交信屋の少女だった。
その誰もの顔色が優れていない。街の地図を置いたテーブルの上で顔を突き合わせている。
二・三言、挨拶を交わし本題に入る。やはりというか、仕切るのはアンセラだった。
「今のところ、街の中で大きな争いは起きてない。特に虐殺も……暴力もなく落ち着いてるわ。そう、逆に不思議なくらいだけど……」
「……」
アンセラが、木の板を差し出した。
「見ての通り、この五角形が街の地図。右上だけは壁が短くて、その他の四辺には門がある……これがこの街よ。いい?」
「うす」
シラノの為に、また整理して話してくれようというのだろう。
蝋を塗りたくった木板の上には、簡単に城塞都市の見取り図が描いてある。
南に目掛けて頂点が突き出した歪な五角形の街。北側が一直線の城壁となっており、そこには門が描かれていた。普段シラノたちが利用する門だ。
そして街には、四分割するように水路――堀が張り巡らせてある。北西から東側の頂点に目掛けた一区画、東から南東への一区画、南東から南西の一区画、南西から北西への一区画。
それぞれに、春・夏・秋・冬と記されている。
街の中心には島のような本丸と思しきものがあり、そこには塔が描かれていた。
「中心には〈浄化の塔〉と統治議会の施設があるわ。ここへ渡る橋は西かそれとも北東にしかない……ここまではいい?」
「ああ。……その二つはどうなってたんだ? もう、占領されてたか?」
問いかければアンセラは首を振った。どうやら、調査というのもそれほど芳しくはないらしい。
中心の島に到達するのは春の区画かそれとも冬の区画か。いずれにせよ道は限られている。
他に地図に記されている物標は、春の区画の北東の頂点――見張り塔の近くにある冒険酒場。冬の区画にある神殿と公民館。そして南西の物見の塔の傍に、練兵場とある。
ここは、場所でいえば南東――秋の区画の一部であった。
都市の南の大街道に近い為に土産屋なども並んでおり、人の行き来も多い場所だ。以前、ジゼルたちとこの街の名産を探してきたときにも訪れた区画。
だが、夏の区画が以前シラノが踏み入ったならず者どもの溢れる世紀末街とすれば、非常に近しいところに居た。
「衛士の庁舎と冒険酒場には近寄れなかったわ。塔が近いし……どれだけあんたが暴れててくれてもまだ見張りはいるだろうし、流石にあいつらだって見逃しちゃくれないだろうし……」
「ああ……それにしても、確かに変だな」
「変?」
「何も動きがないんだよな? 騒ぎとか、火の手とか……」
「ええ。それぐらい完璧に抑えられてると思ったけど……何が変なのよ?」
聞き返すアンセラに、首肯で返す。
言い切るには頼りない根拠かもしれないが――。
「セレーネが暴れてない。街を占領されるぐらいなら動かないかもしれない……ただ、流石に襲いかかられたら剣を抜く……筈だ」
「……あー、うん。それでもう負けちゃったとか、剣を抜く時間すらなかったとかは?」
「あり得ない。セレーネ・シェフィールドはそんなに生易しくない」
腹を貫かれてもなおシラノに向かってきた剣鬼だ。殺されるならそれこそ、最後に〈水鏡の月刃〉による全力の突撃を行ってもおかしくないし、とにかく――魔剣使い全般に言えることだが――やたらと勘がいい。
そんな彼女が、襲いかかられて戦いもせずに負けるとは言い難かった。
「他にも衛士や冒険者が……全く暴れてないなんてことがあるのか? 大人しくするんスか?」
「する訳ないわね。……正直接触できなかったから理由までは分かんないんだけど、人質かしら。それとも、〈浄化の塔〉を壊すって脅して……?」
「人質はともかく……壊せるならもう壊してるんじゃないスか? 少なくとも“やりかねない”って思わせるぐらいに手札に収めてるなら、もう実行してるのが自然だと思った方が……。住民を魔物化するって言ってるんだよな」
「うーん……なら、まだ〈浄化の塔〉は無事って考えてもいいのかしら」
「相手の作戦目標が、本当にこっちの聞いてる限りなら」
それとも、建物は既に手中に収めておきながら作業に手間取っているか、何か記念日的に策を実行しようとしているかだ。
ただ、後者の可能性はほぼ否定される。それほどまでに、シラノは暴れまわったのだ。我が身可愛さに戦力を欲しがってもおかしくない。
そこで、隊長が手を上げた。
「なあ……例えば奴らが企んでた作戦ってのは嘘で、街の人を人質に王宮と交渉するってのは?」
「……数年前に街ごと焼き払われてるなら、同じことはしないと思うんスけど。いや、脳味噌が沸いてる馬鹿ならあり得なくもねーっスけど」
「難しいところだな……あの邪教徒どもだから」
「うす。……ただ、末端は馬鹿でも上はもう少し考えがあるかとは――いや、そうなってくると本気で街の住民を魔物にして国に戦うかって言うと……」
「……あー、難しいな。やっぱり狂ってる相手は読めん。クソッ!」
忌々しげにレオディゲルが漏らした。
彼の言う通りだった。常識的な理や利が通じぬ愉快犯相手ほど、動機から行動を探ると言うのは意味をなさない。
宗教的に狂信に飲まれた相手も愉快犯と同じだ。損害や損得勘定の外に理屈が置いてある。
普通はそんな相手は大成する筈がないのだが、今回はまかり間違って都市を占領してしまった。そうなると非常に厄介であった。
その要求というのも、
「それじゃあ、本当に何もなかったんだな?」
「うん……その、『この街を支配した』って黒ずくめの集団が急に仕切りだして……幾ら待っても衛士の人たちは来ないし……」
「……それだけかよ。せめて、なんか手がかりさえありゃな……下っ端をふん縛っても碌な情報を持ってやがらなかったし」
交信屋の話を聞いたレオディゲルが忌々しそうに髪を掻く。
敵の意図――不明。敵の規模――不明。被害状況――不明。無力化の手段――不明。
残る団員は情報収集に向かっているのだろうか。彼らにとっては住み慣れた筈の街が、一日で敵地へと変貌していた。
「どうする? セレーネたちと合流を?」
「いや……駄目よ。下手に冒険酒場に近付いたら、城壁の敵を刺激するかもしれないから……」
「できればおれたちも他の仲間と合流したいが、状況の読めない今だとそう動くには早すぎる……」
何もかも、不鮮明というのが不味い。
どうしたものかと顔を突き合わせ――
「ハッハッハ、話の内容が分からないんだが! いや、少しばかり難しすぎてついていけないんだが!」
「リュディガーさん……」
「うん、ともあれ――つまりまだ街には時間がある。そう考えてよろしい、ということですかな?」
「うす。おそらくは……」
最悪の事態には至っていない。シラノから判別できるのはそれだけだった。
「なら、当初からの作戦を実行するしかないと! いざ、やりましょう!」
ドン、とリュディガーが胸を叩く。そして力強く笑った。
◇ ◆ ◇
雨の中、闇に紛れる黒色の外套の一行は腰を落としながら辺りを伺うように進む。
戦闘はリュディガー。そして殿をシラノとアンセラが務める形の、五名という少数精鋭での移動だった。
「雨は都合よかったわね」
「都合?」
「雨が降ってる場所なら、簡単に“同じ”と見なせないでしょ? だから相似――“遠見”の魔術で監視ができないのよ」
「……なるほど」
「ま、〈浄化の塔〉のお陰で簡単にはできっこないんだけどね。……あたしの鼻の効きがちょっと悪くなるのは困りものかぁ」
やれやれ、と肩を竦めるアンセラには若干の疲労の色が覗いているが、それを気にしないのは流石の〈銀の竪琴級〉の冒険者だろう。
同じくリュディガーも鍛えているだけはある。影から影へ、音も立てずに手早く移動していく。
問題は、というと……。
「……先輩、なんで一緒に来たんスか?」
「なんでって……だってシラノくん、無茶するじゃないか。さっきだって本当に心配したんだからね?」
「……」
「それにほら、ボクの触手なら隠密も治療も無力化も自由自在だよ? 頼りになるんだよ? お姉ちゃんなんだよ? これはもう一緒にいるしかないんじゃないかな?」
「……そういうのは膝を震わせながら言っても意味ねーっス」
なんとか恐怖を誤魔化そうとした笑みを浮かべていたが、隠しきれていない。
素質的には誰よりも対人戦に向いてはいるが、性格が伴っていないのだ。フローに他人と争うというのは無理に近い。
とは言っても彼女がそう言い出し、そして衛士たちが受け入れてしまっては反対もし続けられない。
シラノとて状況は判っているのだ。
結局、シラノも不承不承折れた。この街は今や安全な場所ではない。なら、目の届く範囲にいてくれた方がよかった。
「いやあ、フロー嬢がまさか触手使いであるとは! 正直触手使いにはいい印象のある団員ばかりではないが、シラノ殿のあの奮戦を見ればそれも過去の話! ましてやシラノ殿の師匠とあっては是非もありませんな!」
「あ、リュディガーさん。……うん、ボクはシラノくんの師匠だからね! すっごく頼りになる師匠なんだよ!」
「……俺はまだ納得してねーっスからね、先輩」
本音なら今すぐ、シラノがかつて暮らしていた家に帰したいのだ。
クソと後頭部を描きながら、フローの隣で俯いている影に声をかける。この作戦での、一番の要である。
「ええと、ジュエルさん……でしたっけ? 大丈夫スか?」
「うん。ええと……あなた前にうちに来て、過保護な文を送ってた人……だよね?」
「……覚えてるんスか?」
「まぁ、お客さんだからね……歌劇の女優さんたちと一緒だったし……」
それすら酷く遠く思えた。あの時も修羅場に違いなかったが、今は完全に戦地同然であった。
作戦の要訣はこうだ。
街の南北ごとにある交信屋。そのいずれかに到達し、そして別の都市までの交信を行う。
ひとまず今のところまでで得られた情報を伝え、王宮に対して判断の猶予を求めようというものである。
「……交信、飛ばせるんスか? 街の外まで……」
「普段はやんないけど……一応長距離用の通信板もあるし、私ともう一人魔術士が居てくれたなら、なんとか……」
「それがアンセラっすか」
ジュエルが小さく頷いた。故にこの五人での行動であった。
だがここでいざ交信を始めてしまえば、護衛を務められるのはシラノとリュディガーしか居なくなる。
責任は重大であった。
そして監視の目を掻い潜りながらも石畳の街を進む。狼の嗅覚を持ち、本人も経験豊富な冒険者というアンセラは心強い味方であった。
だが、
「……やっぱり、交信屋は抑えられてるかぁ。見張りは居なくなりそうにないわね」
「変だな」
「変?」
「こんな風に封じるぐらいなら……丸ごと焼き払えば物理的に交信なんてできなくなるんスけど……」
呟けば、全員が引き気味に見てきた。解せない。
「人はそんなに暴力的じゃないのよ、シラノ」
「街乗っとって魔物に変えようとする馬鹿は十二分に暴力的じゃないんスかね」
「ううむ、シラノ殿はこう……思い立ったら最短効率の道な人なのだな」
「……可能性の話っス。可能性の」
「冗談でも職場に火をつけるとか言わないでよ……」
「うす。……すみません」
「ボクはシラノくんの味方だよ? お姉ちゃんだからね!」
「……うす。ども」
散々な言われようであった。解せない。
通信区画を無事に残しておく――――利用するつもりならばそれは十二分に頷けたが、街の人間を魔物に変えるという破壊的な相手ではそれは似つかわしくない。
となれば、その相手の最終目標とやらに誤りがあるか。それともシラノの考え過ぎか、だ。
(……やっぱり、得意じゃねぇな。こういうのは)
他人より前世での歴史を知っている自信はあるが、特に実践的に磨いた訳でもなければ実務経験がある訳でもない。
所詮、知識だけだ。知識だけの奴など何の役にも立たない。前世が警察官や軍人なら違った結果にもなったろう。
結局、シラノ・ア・ローにはただ斬ることしか能がないのだ。
「どうする? 城壁に乗り込んで騒ぎでも起こしてくるか?」
「うーん、この区画自体に他所から警備が集まり兼ねないし……」
二人で顔を突き合わせていれば、仁王立ちするリュディガーが胸を叩いた。
に、と歯を見せる。
この状況で彼が何を言うかなど――あまりにも容易く想像がついた。
◇ ◆ ◇
ギシ、と床が音を立てる。
外套の下に隠した〈金管の豪剣群〉を携えて、片目を瞑ったシラノは腰を落として先頭を進む。最後列はアンセラが担っている。
灯りも落とされ、すっかりと人気のなくなった交信屋。囮を務めたリュディガーを除く四人で、荒らされた室内を進んでいた。
「うぇぇぇぇ……」
「なんスか、先輩?」
「外で待ってちゃ駄目かなあ? 怖いなぁーって……。駄目かなぁ……お姉ちゃんも本当に一緒じゃなきゃ本当に駄目かなぁ……」
キョロキョロと辺りを見回しながら半ば涙目で呟くフローに、溜め息で返した。
「……外の方が危ないっスよ。俺の手の届くところに居てください」
「でもさぁ……何かいたらって思うと……」
「……自分の技を信じて下さい。あとはまぁ、その、俺のことも。……先輩に近付く奴は全部斬ります。生かして帰しません」
「怖いよシラノくん……」
「半分は冗談です。帰さないだけっス」
流石に殺しは論外だ。人の命はそう軽くない。それはそれとして、この場では流石に笑えない冗談だったとも思う。
四人は面頬めいた触手のマスクを着用して室内にいた。戸口から、気化させたフローの麻酔液を流し込んだのだ。
これで何かいたとしても行動を起こすまでもなく昏倒する――その間に探索を行うつもりであった。
可能であればこの場で発信。できずとも、用具一式を奪って隠れ家まで逃げる。そんな約束でリュディガーとは一旦別れている。
「……アンセラ」
「ええ。……気を付けて。何かいるわ」
狼の耳をそばだてたアンセラが腰を落として形意魔術の札を構えた。
フローの“號雨”の誘眠剤によって沈黙させられている筈の室内にはしかし、何かの気配が満ちている。
頷きあって、廊下の壁に背をつける。剣によって扉を押し開いた――その瞬間であった。
「――ッ」
室内から振りかぶられた平たい鉄鞭が〈金管の豪剣群〉の刀身に巻き付いた。
そして、何かが頭上から飛び出してくる。
密林の猿めいた身のこなしであった。壁と天井を蹴り、逆手に握った爪の如きナイフがシラノの首筋を狙う。
だが、
「イアーッ!」
右腕から弾ける紫電が襲撃者を照らし〈金管の豪剣群〉から鉄鞭に伝うと同時、攻撃を迎え討つは触手の技。
既に外套の下に召喚陣を仕込んでいた。
――――白神一刀流・八ノ太刀“帯域”並びに九ノ太刀“陰矛・表”。
触腕により押し上げられた外套が襲撃者を包み込む。そのまま縛り、モーニングスターめいて振り回して壁に叩き付けた。
「アンセラ、二人を!」
前蹴りで扉を押し開き室内に転がり込む。
室内には三人。小さな影が三つ。だが、一名は電撃で沈黙。残る二名は暗闇を裂き割った紫電に目が眩んでいるらしい。
「イアーッ!」
暗順応の為に閉じた片目を開き、呼び出すは六本の触手。
――――白神一刀流・一ノ太刀“身卜”並びに五ノ太刀“矢重”。
縛り上げたそのまま、関節を極め砕く。そのやけに小さな人影が暴れるが構うことはない。気道を締め上げて意識を落とした。
「先輩、ジュエルさん!」
二人を手早く室内に押し込み、アンセラが転がり入ったのを確認して“甲王”で扉を塞いだ。
そこでようやく息を漏らす。
暗闇の室内戦。野太刀自顕流との相性は悪く、破裂音が響く触手抜刀も使用できない。そこを、待ち伏せされた。
……いや、待ち伏せは予期していた。
ただ、予想と異なったのは――
「なんでだよぉ……なんで動いてるんだよぉ……。麻酔使ったのに反則じゃないかよぉ……なんでだよぉ……」
「なんか気つけ薬でも使ったんスかね。……切り替えていきましょう。物理的に黙らせるしかない」
呼吸を絞り、両腕両足に触手を巻き付けて硬化させた。
言うならば、触手ブレーサー(手甲)と触手レガース(脚甲)か。擬似的な防具であるが、この室内戦での効果は高かろう。
「気を付けて……アレ、多分小人族の斥候猟兵よ。小さくて身のこなしは素早いし、靴も履かずにどんな場所でも足場にして走り回れるわ。それに、夜目も利く……暗殺の道だと有名な傭兵よ」
「……ああ」
腰の〈金管の豪剣群〉は鞘ごと外した。この室内戦では重荷になろう。リアムに心中で詫び、フローに預けた。
そしてしっかりと首にマフラーを巻き付け、ゆっくりと身を起こす。
「……目がいいのは、俺も同じだ」
感触を確かめるように両手を打ち合わせたシラノの色違いの右目が、線香めいて暗闇に赤く光った。
◇ ◆ ◇
◆「フォーティファイド・シティ・イン・フレイム」 第二幕◆
◆「アレクサンド・リターンズ」その二へ続く◆




