◆魔剣名鑑◆#5
◆魔剣名鑑 #27【〈石花の杭剣〉】◆
カインザック窟製の魔剣。業物。序列・五十七位。
細身の刀身は石の如き鈍い色で長大。身体の正中線から指の先まで程度の長さがある直刃の両手剣。
使い手の視界から刀身を外し、そして対戦者から刀身を隠すことでその力は露わになる。
見られていないということは、どこにいてもおかしくないということ。そう看做される。
剣の刃の射程において、その刀身は『どこにでもいて』『どこにもいない』という不可思議な効果を持ち合わせる。
そしてその攻撃もまた同じ。
本来相手を斬り殺すことで意味を持つ剣にとって、敵を斬り殺せていない斬撃というのは放たれてもいないと同じこと。
相手を殺せぬ斬撃となる度にその攻撃は『放とうとし』『しかし放たれなかった』『放たれるべき一撃』として扱われる。
それを任意に、全く同時に(或いは時間を置いて)放つことがこの剣の権能。
仕損じれば仕損じるだけ当たるまで無限に増える斬撃――――理論上、回避不能の魔剣である。
敵を殺せなかった場合、放たれなかった一撃として扱われて取り消される為に持続時間は短い。
しかし、この能力において生まれた刃を砕いてもその大元が砕かれることはない為、今回は魔剣破壊者のシラノと相対しても生き残った。
もしこの魔剣に女神が宿っていたならば、その豊満な胸を安堵で撫で下ろしつつも、技術による魔剣で自分を下した使い手の熱心な追っかけになっていたかもしれない。
今は街の衛士の押収品の中に回収されている。
どうやら夢の王子様に再び出会えるのを心待ちにしているらしい。彼女もまた恋をしたのだ。




