◆魔剣名鑑◆♯10
◆魔剣名鑑 #34【〈朧月の白刃〉】◆
スヴェルアーク製の魔剣。隕鉄利用。序列・九十八位。
光に翳すと刀身に数多の三日月が浮かぶ長大な片刃の剣であるが、使い手は自在にその刀身及び刃の与えた影響の――“存在”を希釈する。
存在とは、いわば現世への影響力。
まったく希釈を行わない場合は単なる切れ味の鋭い魔剣に過ぎないが、完全に刀身の存在を希釈しきった場合――――現世の万物へ影響を与えることができなくなり、また同時に、現世のあらゆるものからの影響を受けることもなくなる。
完全に希釈しきった刀身は光を含めるあらゆるものに影響を受けぬために不可視となり、そして破壊不可能となる。
希釈を行うにつれ「切れ味や打撃力が下がり」それに比例して「受ける破壊の程度や衝撃も減る」――と考えるのが良いだろうか。
完全に希釈した刀身を再度発現する場合、重なり合っていたものは強度によらず破壊されるが、その再発現の際の希釈度を半ばに留めることであえて破壊せずに押し飛ばすことも可能。
そしてこの効果は刀身の一部分のみに及ばせることも可能であるため、刀身の一部隠蔽や発現による間合いの錯覚や反動での移動、
多層的に完全希釈化・発現を行い光を内部に格納し、目くらましのように放つことを可能としていた。
おそらくその特性が故に古来は「練習用」として使われていた剣であり、またこの剣に限らず、序列の低い剣は殺傷力を制限できる傾向にある。
使い手であるカムダンプは、淫魔の身では本来利用できぬ魔剣を例外的に利用できる淫法の持ち主である。
“卑”の淫魔では扱えぬ“貴”の魔剣を以下にして扱うかという命題に対し、
彼女は『“卑”である部分を極めて薄めればいい』という結論を出した。
その首から下を、千年帝国――レイパイプが経営していた人間牧場の『魔剣に最適化された子どもたち』の肉体を『寄り集めて』作成。
そして本来の自分の肉体を『レイパイプ死亡後に突如空から降ってきた千年古竜』と混ぜ合わせた上で、
『四肢』『臓腑』『皮膚』『背骨』と銘打って、獣人族たちへと移植し、異形化していた。
それが故に、頭部以外への攻撃では『カムダンプが絶命しない』という状況を作り上げたのだった。




