◆魔剣名鑑◆♯9
◆魔剣名鑑 #32【〈言矢の韋剣〉】◆
スヴェルアーク製の魔剣。隕鉄利用。序列・六十二位。
管轄する神は〈疾行と慧目と伝搬の神〉。
刀身に触れたものを、破壊力・速度・方向・強度・形状を無視して先端めがけて『滑らせる』権能。
対象の速度に応じて能力の速度も上昇するため、その際に本体自身も『滑り』、相手へ詰め寄って斬りつけることを得手とする。
触れさえすれば衝撃や破壊なども滑らせることが可能であるため、『破壊不可能』の魔剣である。
またスヴェルアーク製の魔剣に特有であるが、この権能は刀身に物体の像を映すことでも作用する。
事実上、あらゆる遠隔攻撃に対して強烈な防御能力を持つ。
◆魔剣名鑑 #33【〈無音の凱剣〉】◆
スヴェルアーク製の魔剣。隕鉄利用。序列・三十一位。
管轄する神は〈機織りと蜘蛛の女神〉。
運命の赤い糸――という言葉があるが、この剣は斬撃の運命を糸として発現する。
その糸を自在に手繰り寄せることで、対象への不可避の剣撃を発動させる。
運命を確定させるものであるためこの権能の優先度は高く、それ故に接続と同時にそれまで対象が持っていた速度や運動力は無視される――つまり『停止』する。
対象にできる重量・強度・速度・数量・形状に限りはなく、またスヴェルアーク製の魔剣に特有であるが、この権能は刀身に物体の像を映すことでも作用する。
一度接続してしまったこの糸を更に切断するには、『斬撃がある』という概念よりも上位の……『虚無がある』ということを――つまり『傷』を押し付ける権能を持つ魔剣が必要。
それ以外の万物に対して、一方的な破壊権を持つ恐るべき魔剣である。
◆魔剣名鑑 #15【〈水鏡の月刃〉】◆
制作工房不明。古物。写剣。序列・二十三位。
内刃。蒼銀の刀身。二振りで一つの片手剣。
写し元は〈竜魔の邪剣〉であり、管轄する神は〈月と狩猟の女神〉。
三日月を模した刀身は月が起こす干潮や満潮――その際の水面と空の距離のように、剣同士を近付けたり離したりする力を持つ。
それは刀身のみならず剣の作った傷痕や、剣を握る剣士当人にも及ぶ。
そして、現在の使い手セレーネ・シェフィールドは剣の権能が傷にも及ぶことから能力を応用させ、
『刀身を傷と看做す』ことにより『剣がつける傷の大きさに刀身を分割』し、『それら同士の斥力にて弾き飛ばす』――という絶技を手にした。
その速度は単純に雷の速度を凌駕し、そして、その『分割した複数の刃にて』『刀身を常に弾き合う』という特性上、
『斥力』での防御状態……ということに限定すれば〈竜魔の邪剣〉の防御圏をも貫き、死に至らしめることが可能。
また、その際の衝撃波が作る真空――空気の傷――や高熱による物体への損壊(破壊)も含めて『第二の刃』として振るうこともできる。
破壊痕――つまり『虚無がある』ということを押し付けるという理屈からして、理論上この世で破壊できぬものはないという極限の刃である。
大元の神造魔剣を凌駕し得る、人の手による写剣――……セレーネ・シェフィールドという女が、どれほどまでの超越者かは論ずるまでもないだろう。
人が魔剣を使うのではなく、魔剣が人を使う……そう言わしめる世にあっても魔剣を使いこなす者こそ、剣鬼と言えよう。




