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雲の上で遊びたい

作者: おかよ
掲載日:2017/03/29

 Tシャツが汗ばむ午後一時。


 ソーダ味のアイスには歯形が付いている。


「雲の上で遊びたい」


 君はそう言い、真っ白のワンピースを翻す。


「フワフワしてて、楽しいんだろうなあ」


 きらめく瞳が、忘れられない。


『雲の上には立てないよ』


 勉強が得意な僕は言う。


「ロマンがないな」と君が呆れる。


『出来ないものは出来ないよ』と僕はムキになる。


 溶けたアイスが地面に落ちて、君は笑った。




 まず、やってみたいこと。


 両手を広げて仰向けに。


 空の青が広がる中、時間を忘れて眠りたい。


『ふかふかのベッドで十分だ』


 冷房の効いた君の部屋。


 布団しかない我が家を嘆く。


 僕は面白がって端から端へ転がる。


 勢い余って転げ落ちた僕を、君は笑う。


 君の机からノートを奪ってページをめくる。


『雲みたいに真っ白だ』


 僕が指摘する。


「カレンダーのバツ印にはまだ猶予がある」


 ピースを浮かべ、君は得意げに笑った。


 真っ白のノートが埋まることはなかった。




 しんとした空間に、薬品の独特の匂いが広がる。


 あまり縁がない場所だ。


 好きか嫌いかで言えば、嫌い。


 横開きの扉を開ける。


 カラカラと、小気味の良い音が鳴る。


 君は外が見える真っ白のベッドで、雲を見ている。


「いらっしゃい」


 僕に気付いて、君は笑顔を浮かべた。


 少しだけ、元気がない。


 僕は背負ったリュックサックを開ける。


 お母さんに持たされたりんごと、買ってもらった本を渡す。


 色々な形の雲の写真が載っている本だ。


 僕がりんごの皮を剥き、君が食べる。


「食べさせて」


『ばか』


 しゃりしゃりという気持ちのよい音がする。


 君が申し訳なさそうな顔を浮かべる。


 枕元から、君は何かを手に取った。


 僕が持ってきた本と同じ物だ。


 僕と君は笑いあった。




 また今日も、真っ白な部屋に向かう。


 真っ白なベッドの上で、君は真っ白の雲を見ている。


 君の顔も、以前より白い。


 君は新しく、真っ白のページを開く。


 教科書を手に持つ僕と、ノートを書き込む君。


 気付けばすでに陽は沈んでいる。


「この部屋は真っ白で、まるで雲みたいでしょう?」


 頷いた僕は、荷物をまとめ退室する。


 カラカラと扉を鳴らす。


 奥ですすり泣く声が聞こえる。




 ここ最近、雲を見上げることが増えた。


 すっかり君の影響を受けてしまったようだ。


 僕の席からは外が見やすい。


 頭への痛みを受けて、僕は現実に引き戻される。


 教科書を丸めた担任が呆れた顔をして、クラスメイトが笑った。


 軽い謝罪をして、担任の背を見送る。


 僕はもう一度空を見上げる。


 机の上に開いたノートは、流れる雲と同じ色だ。




 ソーダ味のアイスに歯形を付ける。


 額を大粒の汗が伝う。


 抜けるような空の中、流れる雲に身を任せるイメージを膨らませる。


 君は今頃、何をしているのか。


 雲の上でーー遊んでいるだろうか。




 頭への痛みを受けて、僕は現実に引き戻される。


 拳を丸めた君が呆れ顔をして、僕は笑った。


「勝手に殺すな」と君は怒った。


 君は強引に僕のアイスを奪う。


 君が歯形をつけ、僕が奪い返す。


 何度も繰り返すうちにアイスは溶けて地面に落ちた。


「雲の上で遊びたい」


 変わらぬ笑顔で君は言う。


『雲の上には立てないよ』


 変わらぬ口調で、僕も言う。


「ロマンがないな」と呆れる君が、行き先も決めず駆け出した。


 負けじと僕も、駆け出した。


『雲の上には立てないけれど』


 僕は心の中で言う。


 君とだったら__君となら。


 雲の上でも、遊んでみたい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 切ない終わりじゃなくて良かったw Twitterから通りがかりでした。 詩的で情緒的な表現が良いと思いました。語彙が貧弱で申し訳ないです。
[良い点] 忘れてしまった青春が揺り起こされるような気分になり、心が温かくなりました この流れで「勝手に殺すな」なんて続くのは予想外で、思わず笑ってしますね [気になる点] __の部分が、最初、何か入…
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