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始まりの悪意

 俺は地面に横たわっていた。


 好きで寝ているのではない。

 体中が痛くて動けないからだ。

 先程まで『あいつら』に体中を殴られ、蹴られ、踏まれていたのだ。




---

 



 俺は普通の中学生だ。

 しかし、通っている中学が普通ではない。

 新興宗教の教祖が設立した全寮制の私立中学。

 両親が熱心な信者なせいで俺までこんな学校に通わされている。

 正直な話、非常に迷惑だ。

 第一、俺はこんなカルト宗教なんて信じていない。

 それなのに、毎日のように教祖を称えるような映画を見せられて感想文の提出を求められたり、ボランティア活動と称して教団の雑用をさせられたり、放課後は定期的に教団の集会に参加しなければいけなかったり……。

 こんな学校生活はひどく苦痛だ。


 だが本当に苦痛なのはこんなことではない。 


 俺は孤立していたのだ。

 まさに学校中が俺の敵だった。


 そうなった切っ掛けは単純だった。

 ある男子生徒が泣き叫ぶ女子生徒の体を無理やり撫で回していたのを止めたからだ。

 それまで何度もその男子生徒が他の女子生徒や女教師とイチャイチャするのを見かけてはいたのだが、なぜか女性たちはむしろ喜んでいるようにみえたので痴女などの見られて興奮するタイプなのかと思ってスルーしていた。

 世の中には色んな趣味の人がいるから、たまたまこの学校にそういう痴女が集まったのだろうと。

 それに、単に男子生徒がモテるタイプなのだと勝手に思いこんでいたせいもある。


 しかし後から知ったことだが、その男子生徒は教祖の孫だった。

 おそらく喜んでいた女子生徒や女教師は熱心な信者で、嫌がっていた女子生徒は信仰心の薄い二世だったのだろう。


 入学してある程度たってから知ったことだが、この中学では教団内での地位が何よりモノを言う。 

 教師であろうと教団幹部の息子には逆らえない。

 教祖の孫ともなれば、まさに神のような敬われようだ。


 そんな『神』に逆らった俺はまさに地獄のような学校生活を送ることになる。


 何度もこの学校を辞めたいと思った。

 だが、俺にはこの学校をやめることも出来ない。

 電話で両親に相談した時に、「お前が悪い」「転校するなんてとんでもない」「神孫様はお前の魂を清めてくださっているのよ」などと言われたからだ。

 この時、わずかに残っていた親への情というか未練が完全に失くなった。

 今でも思い出すと涙が止まらない。

 思えば、親と完全に縁を切ることを心に決めたのはこの時だった。

 

 ちなみにあの嫌がっていた女子生徒はあの事件後すぐに転校していった。

 少なくても彼女の親は俺の親よりはまともだったのだろう。




---




「さあ、今日も邪悪な魂を少しでも清めるために頑張ろうじゃないか」


 武田類――教祖の孫、が俺への暴行開始を宣言した。

 奴の取り巻きに羽交い締めにされた俺は逃げ出すことも出来ない。


「……」


 岩壁宏が無言で俺の腹を殴ってきた。

 岩壁は巨漢で力が強い。

 俺は情けないことにパンチ一発で吐き出した。

  

「うわ。キタネ」


 俺を羽交い締めにしていた柿本大輔が俺から手を離した。

 支えを失った俺は情けなく地面にうずくまる。

 そんな俺を柿本が蹴り飛ばす。


「本当にお前は笑えるほどのカスだな、ワラカス」


 さらに、千葉洋次が俺の体を蹴りながらそんなことを言ってきた。

 俺の名前はスガワラカズキ。

 それをもじって、武田とその取り巻き達は俺のことをワラカスと呼んでいるのだ。


「ギャハッ。超ウケルんですけど」


 上野加代が俺の頭をぐりぐりと踏んだ。

 思わず俺は上野のスカートの中のパンツを睨みつけてしまった。


「キモすぎる。死ね。変態は死ね。すぐに死ね」


 しかし、すぐにそれに気がついた上野に何度も頭を踏みつけられたのだった。




---




 学校には味方は一人もいない。

 生徒はもちろん教師にいたるまで、全員俺の敵だ。

 それどころかカルト宗教のお膝元の町なので警察でさえ味方になってくれるか非常に疑わしい。

 実際、一度警察に相談に行ったのだが、警察から学校に連絡されて寮に連れ戻されたのだ。


 こんな生活を一年近く耐えてきた。


 しかし、もう我慢の限界だ。

 五月生まれの俺はもうすぐ十四才になる。

 それまでにどうするのか決断しなければならない。


 十四才からは刑事処分の対象になる。

 しかし、十三才の今ならこいつらを皆殺しにしてもせいぜい少年院止まりだ。


 やるか……。


 だけど、俺にはどうしてもその最後の決断ができなかった。


 

 そんなある日、突然、学校が白い光に包まれた。



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