捨て子
一瞬の赤。
薄暗い廃墟ビルの中、一人の女と男が居た。
女は白いカットの入ったシャツに、黒のホットパンツを着用。股まであるニーハイソックスは細い脚を殊更強く締め上げていた。
対して男は満身創痍だった。高級そうなスーツは至る所に解れを作り、地べたを這う度に汚く穢れていく。
「私は……子供に暴力を振るう事が愛だとは思わない。そんな事を愛だとほざくのは、心が腐っている証拠だろう!!」
女の双眸は血が滴る程に赤く染まっていた。闘志に燃える顔は、美しくも憤怒の色を示す。
対して男は蔑みの目を向け、もう引き攣る事しか出来ない口で吐き捨てた。
「御前には分かるまい。俺の望みが、渇望が。彼奴をあの方に近付ける為に何処までやって来たと思っているんだ」
女は背丈を超える程の大きな刃に力を込める。怒りで沸騰しそうだ。そして胸からはオイルにも似た、どろりとした黒い感情が沸き出してくる。
女は一度は捨てられた身だった。しかし一人の男に育てられ、並々ならない愛情を受けて育ってきた。だからだろうか、この男の存在が、言葉が目障りで仕方がないのは。
男は一度口から真っ赤な血を吐き出すと、見る者を震え上がらせるような下卑た笑みを浮かべる。
「捨てられて、拾われて、また捨てられた者が何を……」
「黙れ、死ね」
一振りの刃が空を裂き、胴真っ二つに斬り捨てた。噴水の如く飛び散る生き血が刃に収束し、全て吸収される。
女は男の潰えた男の亡骸を冷ややかな目で見下すと、振り返る事無く歩き出した。辺りにゴロゴロと転がる瓦礫を踏みつけ、一心不乱に。
「まだ……まだ……甘いなぁ、あの男の事になると。急所さえ狙えなくなるのか、本当に愚かだなぁ、デウス・エ」
「てめえの汚い口で私の名を言い掛けた事、後悔させてやるよ」
そう言って、今度は頭頂から股間までを真っ二つに裂く。今度こそ、男は絶命した。四つに分けられた男の死骸を、ゴツいミリタリーブーツで蹴り飛ばし、今度こそこの場を後にする。
「私は……捨てられてなんか無い……」
女、デウス・エクス・マキナの目に雫が浮かんだ事を知るものは、本人も含めて誰も居なかった。
─終─
過去に触れるような所が出て来ました(´-ω-`)
たまにはコメディーに戻ろうかな……Σ(゜Д゜;≡;゜д゜)