アレニエの仕事
薄暗い地下牢。地下牢と言っても天井が高く造られ、高さを考えても数十メートル以上はあるだろう。
その天井から一つ一つぶら下がっているのは、鳥籠のような檻。俗に“ジベット”と呼ばれる拷問具なのだが、室内では余り意味を成さないのでは無いかと思われがちだ。実際にそうなのだが、其れはメンバーの趣味や好みが入っている。
俺、“アレニエ・シェーヌ”は指を鳴らすとその中の一つを下ろす。中に入っている囚人は、俺の顔を見ると、怯えたように竦み上がった。
「さぁ…………時間になりました。今日はどうしましょう? 双子に行った“人体実験”? やる方はさぞ愉快でしょうねぇ。体を真っ二つに裂かれ、また繋ぐのは…………」
そう言ってまた指を鳴らす。足下から這い出た“鎖”が相手を拘束し、締め上げる。皮膚を裂いて滲んだ血と、骨の折れる音が聞こえる。しかし此奴がやったのはそんな“生易しいもの”ではない。
相手に与えた対価と同等の罰を与えねば、相手の気持ちは救われない。そんな事はただの自己満足だとは分かっている。だが罰も与えられず、日々をのうのうと過ごすだけの塵を、『放っておけ』というのが無理な話だった。
「やっ…………止めてくれ………………。俺が何をしたって…………」
「ちゃぁぁぁぁんと、この目に焼き付けて置きましたよ? あの双子に行った惨劇。寿命的な死を持たない私達に、そもそも人体実験など不要なのです。其れを己の娯楽に費やして、生きる価値すらない屑が」
立てた人差し指をくるりと回すと、それに呼応するかのように鎖の太さが細くなり、一瞬にして血肉を粉砕した。だがそれで死ぬ俺達じゃない。急所に当たらない攻撃など、“死に値するものではない”のだから。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
歪な断末魔と共に、吹き出る血液。辺りには散り散りになった骨と肉が散らばっていた。
次に口笛を吹く。肉片が集まり、また新たな体を合成する間に、一度鎖を自らの元に戻す。
さて、縦から斬られるのがお好みか? 横から輪切りにされるのがお好みか? どちらを先に行うべきか?
考えている内に再生が終了する。絶望に満ちた、まがまがしい目が俺を見据えていた。
俺は罪人に指を差し、鎖に指示を出す。命を受けた鎖は頭頂部から股関までを一つの輪で結び、交差させるようにして降りてくる。
一瞬にして左右真っ二つに分かれた半端な死骸。其れを見下してからもう一度鎖を戻した。輪切りも行おうかと思ったが、止めにしておこう。
地上に降り立ったジベットを、掌を上げる動作をして戻す。今日の俺が行う刑期は終わりだ。
そうしてこの埃臭い監獄を後にした。
──終──
おまけ(心がとても広い人だけ見て下さい…………(;´Д`)
パラレル+メタ。
読者様がアレニエに質問してみた。
アレニエのメタ視点……。
何時出すか分からない長編のネタバレ(世界観)。
OKな方だけどうぞ…………。
最後までこの小説を読んで下さり、有り難う御座います。私はアレニエ。“アレニエ・シェーヌ”と申します。
えっ? さっきと一人称が違うって? 初対面の人に“俺”というのも……って思ったんですけど……砕けた感じが良いならそうしますね。
はい、質問があるのですよね? 分かる範囲でお応え致しますよ。……って、そんなに一気に聞かないで下さい…………。
では順番に。看守服を着ている理由…………ですか…………。看守長を勤めているから、看守服って言うんじゃ駄目……ですか?
他にも……いや……あるのですけど、『私服を着ると、上司にメイド服を着させられるという極刑が……』って言っても伝わらないですよね……。あっ、納得してくれたようで嬉しいです。
次に、さっきの鎖はどうやって操っていたのか……ですか。
私を人間だと思っているのなら、其れは間違いです。はい、人間ではありませんよ。そもそもこの世界観に人間は居ません。存在するのは吸血鬼、人狼、魔法使い、エルフの四つの種族です。その点、貴方は例外中の例外って奴ですね。
全く……まだ長編を公表していないのに、短編を書くという無茶をするから、世界観が伝わっていないじゃないですか。後でキツく言っておかねば。
すみません。独り言です。
えっ? はい、御名答。そう、私は魔法使いです。主に“鎖”を媒体とした……ね。
最後だからきちんと答えてね……って。はい、勿論です。
さっきと人格が違う……? あぁ、其れは貴方にも言える事ですよ。持っている人格が一つとは限りません。好きな人の前で見せる顔と、嫌いな人に見せる顔……違うのは当たり前です。それを私は極端に見せているだけ………。
はぐらかしてませんよ。これが私の答えです。
隙有りっ……です。ん? このクッキー美味しくないですか?
最後の無茶ぶりなおまけを読んでくれた方はいらっしゃるのか……(;´Д`)
先行登場の恐ろしさを今知り得た(@_@)(@_@)