一番弟子
少し過去編にさかのぼります。
「フェラリオ師匠、ようやく形になりました。どうかご検分をっ!」
捧げるように両手で手渡してきた剣を無造作に持ち上げ、垂直に立てて鑑賞する。
「馬鹿野郎!こんなもんを作るのにどれだけ材料を無駄にしやがった!お前は俺の何を見てやがったんだ!?」
自分でもゾッとする声がでた。
自分で言うものじゃあないが、俺はそれなりに名の知れた鍛冶師である。
馬鹿な貴族がコレクションにするために囲おうとしたり、弟子と認められればそれだけで自分の腕が上がるとでも思っているような能無しが集まるほどには。
そんなやつらにかける労力はないってんで、俺は人知れず山奥に移り住んだ。俺に依頼、もしくは弟子入りしたいってんなら、せめて俺の元に辿りつくくらいの根性は見せろ、ということだ。
俺に剣を見せに来たのはデパルスというドワーフの若者で、弟子入りのために俺を探し当てたので、俺の側に控えさせている。
俺は現役の鍛冶師なので、今でも最高の一本を目指して鍛錬をしている。手取り足取り教えるつもりはないのだ。
俺の”仕事”から自分で学び取る機会を与えてやるだけだ。
今回のデパルスの剣でいえば、熱した鋼の打つのが早かったのだろう。だが口でそれを言ってやることはない。
次に俺が打つ時に、「鋼の色をよく見ていろ」というだけだ。
「そんなんじゃいつまで経っても合格はやれんな」
「申し訳ありません、一番弟子として恥かしくないよう精進して参る所存です」
デパルスはドワーフにしてはまじめすぎる。
「そいつは無理だ」
「っ!それほど私には才能がないのですか!?」
「そうじゃない。お前は2番だ。1番弟子は他にいる」
そういうとデパルスは口をだらしなく開けて呆然としていた。
「私はお会いしたことがありませんが…」
「ああ。あいつは今のところ俺が唯一合格を出した弟子だからな。後はあいつ自身が自分で探っていくしかない。俺の元からは巣立ったんだ」
「フェラリオ師匠に認められたなんて…とても才能のある方だったんですね」
「この馬鹿野郎が!!!!」
「そんな一言で済ませるんじゃねぇ。あいつの執念を、努力をまだ何もできてねぇお前が偉そうに語るんじゃねぇぞ!」
握っていた剣を地面に叩きつけてへし折ってしまった。
とても続きができる心境ではなくなって、俺は自分の部屋に戻って酒に手を伸ばした。
今頃あいつはどうしているのだろうか。
不器用で頑固で、明らかに才能がないというより向いていないことは自分自身承知していたであろう。
にも関わらずその瞳は曇ることなく最後まで輝いていたのが忘れられない。
カランという氷の割れる音を聞きながら少し昔のことを思い出していた。