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千の刃のリリアンローゼ  作者: 夢辺 流離
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ひと時のやすらぎ

 リリアムは取り出した素材の中から、まず晶角狼の角である晶角---とりわけ水を操る性質を帯びたソレは蒼晶角とでもいうべきか---を取り出して目の高さまで掲げると射るように見た。

当初想定していたよりも、大きくて堅いようだった。


底が丸みを帯びた円錐の水晶の中に水を流し込んだようなものを想像してもらえればいいだろう。

但し、燐光を放ち、青空よりも濃く、それでいて透き通ったその色は幻想的で下手な宝石よりも美しかった。


 若干の修正を頭の隅におきながら、非常に目の細かい紙やすりで表面を磨いていく。

天然物の素材だけに表面に傷がついているのは当然なのだ。

 無駄に力を込めず、丁寧に繊細にやすりがけを行い、頬を伝って幾度雫が地に染みこんだか分からなくなったころ、洞窟の外では太陽が最も高くなっていた。

ようやく手を止めたリリアムの手の中の蒼晶角はやすりをかけただけであるが、元々のものと比べれば圧倒的に作業後のもののほうが輝きを増していた。

蒼晶角を通り抜けた光が洞窟の壁に当たると、そこだけ海になったかのように錯覚するほどである。

---思った以上に手間取ってしまった。

それがリリアムの偽りのない感想である。

贅沢をいえば今日中に完成させてしまいたかったのだが。

刀でいえば「鍔」に当たる「ガード」と、「柄」に当たる「グリップ」、そして「柄頭」に当たる「ポメル」という剣のパーツ一式は事前に揃えておいたが、蒼晶角が大きめであったため多少修正が必要なのだ。

 今からやれば日が落ちることもあって、慌てずに日を改めて作業をすることにしたリリアムは一式を次元の孔に放り込んで、代わりに一つの鞄を取り出すと、洞窟を出て森の中を歩き出す。

道中枝を拾い集め、果物を採り行儀悪く食べ歩きながら湖へと向かう。

洞窟を流れる川は湧き水というほどの小さいもので、多少使う分には問題ないが、これから行うことを思えば役不足だったのだ。



 リリアムは周囲に誰もいないのを気配で探ると、湖の側の木陰に隠すように荷物を置くと、着ているものを脱いで畳むと湖へと飛び込んだ。

しばらくポコポコと泡が水面に浮かんでいたかと思うと、リリアムが顔を出し、ぷはっと息を吐き、吸い込んだ。

相変わらず無表情だが、口角が少しだけ上がっている---。


 しばらく泳いで、布で頭、全身を拭うと、磨かれた褐色の肌は見違えるように生命力に満ち、くすんでいた髪は汚れなき純白である。

色が落ちたのとは違う白の髪は、本来黒よりも濃い紺色が一般的なダークエルフよりも目立つ。希少なダークエルフとして奴隷商などに目をつけられる可能性もあるのだ。

 それはリリアムにとって好ましいものではなかったため、きれい好きにとっては苦痛なのだが町中ではあえて薄汚れたままでいることにしている。

 必要なものを購入してしまえば、町の外で暮らすほうが快適なのだ。

元々森の奥地で暮らすエルフであれば、当然であった。

少し昔の生活を思い出して切なくなったリリアムは湖から上がり、着替えると今まで着ていた服を洗い、集めた枝で焚き火を起こし服を乾かすと同時に、捕った魚を枝に刺して焼く。

自然の恵みに感謝するのはダークエルフとなっても変わらない。

気力を回復したリリアムの瞳は再び力強く輝いていた。


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