【第6話】ギルドへ(後編)※三人称
※ユウキが…トロトロに…なったから…三人称ご~。
ヴィクトルがレインハルトに持ちかけた『折り入っての頼み』とは、魔界勇者であるユウキをギルドに登録してほしい、というのと、身分証明書の発行だった。
普通であれば魔姫の名の元に魔界で身分証明書が発行されるはずだったが、その魔界が滅んでしまったからである。
その為、詳細を記した魔法書類…『パーソナリティーカード』の発行を王都のギルドマスターであるレインハルトにたのんだのであった。
その話を聞いたレインハルトは嬉々としてそれを快諾、すぐに発行するからここで待っていろと言い残して部屋を出ていった…。
「…サクラ…終わった…。」
「ああ、お疲れ様、ヴィー。」
「うにゅ~…。」
サクラに頭を撫でられ、気持ち良さそうに目を細めるヴィー、この夫婦の何時ものやり取りである。
「ゆぅちゃん、あーん♡
ケーキ美味しい~?」
「むぐむぐ…んっ…。
うんっ♪お姉ちゃんに食べさせてもらうと更においしいよ♪
ほら!お姉ちゃんもあーん♪」
「はむっ…
ん~っ♪美味しいわ~♪」
一方のユウキは、ノエルの膝の上でトロットロになっていた…
見た目も相まってとても23歳には見えない。
見た目…ふわふわの狐耳が目立つ黒髪、髪型はショート。
丸くて大きめの瞳は、右目がオレンジ、左目が琥珀色のオッドアイ。
因みに右目はノエルと契約した影響、左目は魔眼。
元は両目共にダークブラウンだった。
小さな鼻や口…
全体的に『保護欲掻き立てられる可愛い系の童顔』に纏まっている事に本人はまだ気付いていない。
更に身長は現在140㎝前後。
今のユウキはまるで小学生…どれだけ大人に見ても中学生が限界だろう。
それだけ、転生後のユウキは幼い見た目になっていた。
「…。」
『姫様、近衛騎士隊の隊長夫婦と最強のメイド長と魔界勇者があんなので良いの…?;
(´・ωー)=3』
「あっ…あれでもサクラとヴィーは魔界最強の夫婦ですから…;
それに、ノエルさんだってああ見えてやるときはやるんですよ。
ユウキも…今はまだ頼り無いかもしれませんが、きっと強くなるって信じてますから。」
そう語るティエサの顔は、とても優しく、ユウキを見る目はまるで―
「…。」
『姫様…恋をしていますな?
(・∀・)ニヤニヤ』
「…恋…そうかもしれませんね…。」
「…?」
『おや…?自分の気持ちを分かってない…?
(´・ω・`)』
「そうですね…正直わたしでわたしが分かりませんよ…。
だってユウキは男の子…ですよね?」
「…?」
『…仮に…ユウキが男の子だとして何か問題が??
女の子が男の子を好きになるのは自然な事でしょう??
(´・ω・`)?』
「…。
わたしは…ユウキ程では無いですが、お父様やヴィー以外の男が嫌いです。
友達程度ならまだ我慢出来ますが。
だって、男なんて汚いじゃないですか…
わたしがダークエルフだと知ると、途端に肉欲を浮かべた汚い顔をしますし。
大体、お母様に聞いた話、『男主人公』という人種は『はぷにんぐえっち』とか『らっきーすけべ』と称して着替え中や入浴中に堂々と入ってくるそうじゃないですか。
過去、実際にわたしもやられました。
ユウキにも…やられました…///
でも、ユウキはわたしがダークエルフだと分かっていても、わたしの裸を見ても、汚い顔をしなかったんです…。
まるで…お母様から聞いた『魔界勇者』様の様に…。」
そう語るティエサは、勇者が理想の魔界勇者で在って嬉しそうだ。
ただ、それを聞いたルーシーは複雑そうな顔をする、『姉』のヴィーとは違い、ルーシーはあまり喋らないだけで表情自体は豊かだった。
因みにルーシーのコメントが表示されるプラカードは頭から直に生えてくる。
ルーシーの髪が変化したものだ。
そんなルーシーの見た目は、玉虫色の膝まで届くロングヘア、丸くて大きな緑色の瞳、高い鼻に小さな口はピンクの唇、そんな10人居たら5~6人は振り向きそうな美少女…的な見た目をしている。
美人過ぎず野暮った過ぎずを考えた結果の微妙な美少女加減であるが、本人にとっては最早これがデフォルトの姿だ。
「…;」
『へっ…偏見だよ…;
魔妃様の偏った知識…と言うかからかいだよ…;
男と言うかその人達が汚かっただけだよ…;
女だって汚い奴は汚いよ…;』
「…あはは…まぁ…今では理解…していますよ…?
ただ、頭で理解しているのと心が受け入れるのは全くの別物です。
相手が男の娘でもそれは一緒です。
だから…分からないんですよ…この気持ちがなんなのか…。
ユウキなら信用できる…ユウキなら素直に頼れる…そうは思うのですが…恋愛対象となると…話は変わりますから…。」
「…。」
『それはまた難儀な事で…;
┐(´д`)┌』
「そうですねぇ…。」
「…。」
(そうは言いつつ、やっぱりユウキを優しい目で見つめているんだよね…。
後は…何か切っ掛けがあれば良いのかもねぇ…。)
ルーシーは困り顔でため息をつき、それから静かに紅茶をすすりながら、ユウキを見つめるティエサを見るのだった。
しばらくして、レインハルトが1枚のカードと水晶玉をもって戻ってきた。
「お待たせヴィーちゃん!!パーソナリティーカードと魔力測定器を持ってきたよ!!」
「…んっ…レインハルト…仕事早い…普通なら…1日かかる…えらいえらい…。」
「はっはっはっ!!城に気安く入れるのはギルドマスターの特権だよ!
後は魔姫様の名前を出したら魔術師長が快く貸してくれた!!」
因みに、ユウキが『人間』であれば全てギルドにある測定器だけで済んだのだが、『魔族』が人間用の器具を使うと往々にして破壊してしまうので城にある『魔族用の魔力測定器』を借りてきたのである。
そしてこの国では騎士団(警察騎士)と共に、いざという時に戦力となる冒険者達も重要視されている、その為、王都のギルドマスターであるレインハルトは城に入れるのである。
ひとえにそれは、レインハルト達『星降る夜』が国王に信頼されている…と言う意味でもあるのだが、普段から城への出入りが自由なこの面子は、子供の時から知っているのも相まってか今一つそんな大手ギルドのギルドマスターをしているレインハルトの凄さが分かっていない。
それ故の気安さをレインハルトも気に入っているのでこれが彼等の『普通』なのだが。
「それでは、ユウキ君…だったかな?
先ずはこの水晶を持ってくれ。
パーソナリティーカードは姫様が分かる所のみ頼みます。」
「はい。」
「わかりました!」
ティエサがさらさらとユウキのパーソナリティーを書いていく横で水晶を持つユウキ、すると、水晶は赤く輝いた後力強く金色に光った。
「フム…属性は火と光で光がメインだな。
魔力量は平均的な魔族のそれだ。
尤も、延びしろはまだまだあるがね。
流石に幼い妖狐と言ったところか。」
(幼い妖狐…?;
僕、大人なんだけど…;)
「書き終わりましたよ。」
「ありがとうございます姫様。
さて…むむっ…子狐かと思えば23歳だったか…;
すまないなユウキ君。
フム…パーソナリティー詳細が抜けているな?
こちらはまだ姫様に見せていないのかな?」
「あ…そうです、まだ僕自身、パーソナリティーを見た事が無いので…。」
「フム…それではユウキ君。
差し支えなければ自分のパーソナリティーを見て書いてもらえるかな?」
「あ、はい。」
ユウキが自分に魔眼を向け、カードに記入し、レインハルトへ手渡した。
渡されたレインハルトは、何やらカードに向けて呟いた後、一瞬目を見開いた気がした…が、すぐにパーソナリティーカードをユウキの額へ当てた。
額に当てられたカードは粒子になって消え、ユウキの身体が数秒、淡く光った。
「これで終わりだ、後は身分証明書を求められたら念じれば出てくる、クラスやパーソナリティーに変更があればその都度自動更新されていくからな。」
「それは便利ですね。」
「うむ、犯罪歴も自動更新されていくからバカな事はしないようにな。
まぁ…魔界勇者ならその心配は無さそうだが。」
「…仮に…ティエサを…悲しませたら…我が…ユウキを…喰らう…。」
「いっ…いえすまぁむ!?;」
「…冗談…。
でも…ノエル…や…我が嫁…からの…制裁は…覚悟…。」
「は~い♪その時は~ゆぅちゃんを~全力で殴りま~す♡」
そう言いつつもノエルは語尾にハートを付けるような甘い声を出している、
つまり殴るつもりは無いみたいだ。
だがナニをされるのかは分かったものでは無い。
恐らく天国と地獄を同時に味わう様なナニかであろう。
尤も…この激甘姉がユウキにナニかをするより先に―
「いや、その時は私が苦しまない様に頭と胴体をさよならさせて殺るから安心しろ。」
そう言いつつ刃を少し見せるサクラに斬り伏せられそうだが…。
それを見たユウキは苦笑いだった。
まぁ全員本気で言っている訳では無いのが分かっているからであろう。
「…。」
『仲が良いのは善き事かな。
(*´ω`*)』
「その顔(文字)は流行らないし流行らせない。です…!」
無事に身分証明書の発行が終わり、ギルドを後にしたユウキ達は、続いて道具類の調達の為に市場へ繰り出した。
因みに、当初はユウキの防具を揃えるのも目的に有ったのだが、どうやらユウキにはその防具の類いは必要無いらしい。
何せユウキの装備品は『ブレイジングノエル』だけでも十分な攻撃力及び防御力を誇るからだ。
因みに、腕以外は身体に纏わせた『魔力障壁』による防御なのだが、これが下手な防具よりずっと強力で武具職人泣かせな奴なのである。
それこそ、傀儡とは言え帝国勇者の鎧を斬り裂くサクラの刀を弾く程度に。
しかし、これを普通の武具精霊がこれをやると装備者の魔力を吸い尽くして1日で廃人にしてしまう…
だがノエルは大精霊であるが故に自然から吸収出来る魔力が膨大であり、更にユウキ自身が積極的に『口径魔力補給』をしてくれる為、自身が常にSランク装備と同義になるので魔力の消費量及び装備者からの魔力吸収が極限まで抑えられている。
それもこれもノエルとユウキの姉弟愛が成せる『大精霊の業』なのだが、それは誰も知らない。
そしてユウキ自身も毎日の何気無いちゅーのお陰で最強の盾を装備して命拾いしている事なんて知るよしもなかった。
そんなユウキは今、姫様と二人で市場を歩いていた。
サクラとヴィクトルの魔界最強夫婦、ノエルとルーシーのメイドコンビは各々デートと買い出しで別行動。
それと言うのも装備品『ブレイジングノエル』のお陰で普通の人間相手なら今のユウキでも充分撃退可能だからだ。
それに、ティエサだってただ守られているだけの姫様ではない、何かあっても魔法で戦える。
「「…。」」
それにしてもこの二人、さっきから無言な上、離れて歩いている。
確かに『姫と従者』で見れば何も問題が無い様に見えるが…
ティエサは顔がほんのり赤く、ユウキも何処か緊張した面持ちで、まるで初々しいカップルみたいになっているのを本人達は知らない。
後、ユウキがさっきから手を伸ばしては引っ込めるを繰り返している。
これではまるで、初デートの男の子だ。
対するティエサもそわそわして落ち着かない様子…
見た目も相まってまるで小学生のカップルだ。
「…ひっ…姫様っ!!」
「Σひゃいっ!?///」
「は…はぐれたら…いけないので手を繋ぎませんかっ!?///」
(王都何て初めてだし。)
「そそそそうディすにゃ!?//」
(あぅ~噛んだ~…;)
「では失礼して…
「・・・・・。」
「…姫様?」
「あ…いえ…。」
(男性に手を捕まれたのに…悪寒を感じません…。
でも…ユウキの見た目が幼いだけでは無い…はず…。)
ティエサは感触を確かめる様にユウキの手をにぎにぎする、が、やられる方のユウキはたまったもんじゃない。
「あの…姫様…?;」
(にぎにぎしないでー!///可愛すぎる~!///)
「…ユウキの手…スベスベで綺麗ですね…。
男なんかとは違う…優しい手…。
おかしいですね…ユウキも男性…なのに…。」
「はぁ…?///」
(あぁ~もう限界~!///)
ユウキは、握られてない方の手をティエサの頭へ伸ばし、撫で始めた。
ティエサは最初こそビクッとしたが、すぐにユウキへ体を預けはじめた。
「…///」
「~っ///」
うん…ワロスッ!!砂糖じゃないかッ…!!#
ヘイッ!!壁殴り代行!!
ふぅ…
とりあえず、二人はお互いの感触を確め合い、それからは安心しきった姫様がユウキに寄り添うように歩いていくのだった…。