千春1
私たち家族にはお母さんが居ない。
私が中学1年生の時に倒れて、そのまま還らぬ人となってしまった。
お母さんが居なくなった日から私が実川家のお母さんがわりとなった。
「千夏ー、早く行かないと遅刻するよー!」
「わかってるー!けど、髪の毛が!」
中学3年生の次女の千夏は、おしゃれ。
「千秋!ラケット忘れてるよ!」
「わっ!危なかったー!」
中学1年生の三女の千秋は、スポーツマン。
「千冬、鍵は持った?」
「……大丈夫。」
小学5年生の四女の千冬は、大人しい子。
「「「いってきまーす」」」
「行ってらっしゃーい」
そして、私、高校2年生の長女の千春です。
お父さんは居ますが海外で仕事をしており、ほとんど帰って来ないので保護者関係のは近くに住む叔母にやってもらいます。
「さっ、私もいかなきゃ」
エプロンを外し、忘れ物をないかとチェックし、お母さんに手を合わせてから学校に向かった。
「千春おっはよー!」
教室に入ると親友の里紗が私に話しかけてきた。
「おはよ、里紗」
「ねぇ、千春!今日からくる教育実習の先生かっこいいかな!?」
「また、そんなこと言ってー」
2年生になってから、まだ半月しか経っていなかった。だから、里紗は同じクラスになったことがなかった人ですぐに自分の好みだったら「あの人かっこいいよねー」とか言っていた。
──キーンコーンカーンコーン。
「おーい、チャイム鳴ったぞ、席につけー。」
みんなが一斉に席についた。
「今日から2週間教育実習に来た滝野先生だ。挨拶おねがいします。」
「はい、今日から2週間教育実習でお世話になる、滝野です。よろしくお願いします。」
ペコッと滝野先生は頭を下げた。
私の第一印象は爽やかな先生だなと思った。
HRが終わったあと、滝野先生の周りには女子が沢山集まっていた。滝野先生は職員室に戻らないといけないのに女子の質問に一つ一つ答えていた。
「ねぇ!千春!滝野先生ねー、彼女いないんだってー!」
キャーっ!と里紗は一人で盛り上がっていた。
私にはわからない。あの先生のどこがいいのかなんて。
(やばい、委員会で遅くなっちゃった。)
今日に限って委員会が長引いてしまった。
(こんなに遅くなっちゃったから千冬がご飯作ってくれてるかな)
千冬は私の帰りが遅い時には夕飯を作っといてくれる。千夏は料理は下手だし、千秋は部活に入ってるため作るのは千冬になる。
学校の廊下はオレンジに染まっていた。
窓を見ると夕日が映っていた。
私は夕日が綺麗だったので、少し見とれてしまった。
(屋上で見たらもっと綺麗かも……)
私の足取りが屋上に向かっていた。
屋上の重たい扉を開いた。
──キィ。
夕日が街を照らしていた。全部オレンジ色になっているのが綺麗で新鮮だった。
「綺麗……。」
「本当に綺麗だよね。」
朝に聞いた声がした。
「あ、えっと……滝野先生?」
「名前覚えててくれたんだ」
滝野先生は私の隣に来た。いつから居たのか聞きたかったけど、私は少し人見知りなので聞けなかった。
「ここの街に初めて来たとき、この夕日を始めてみた時、感動したよ。こんな綺麗な場所があるんだとね。」
「そうなんですか…わ、私も好きです。ここの夕日……。」
そっか。と滝野先生は笑った。
「えっとー……。」
「あ、実川です。実川千春です……今日の朝、滝野先生が挨拶しに行ったクラスに居ました。」
「実川さんね、改めて2週間よろしく!」
「よろしくお願いします」
滝野先生は笑顔だ。さわやかで愛想もいいから女子たちがキャーキャー言うんだと思った。
「滝野先生は、人気者ですよね。私の友達も滝野先生の話してましたし。」
「そうかな?けど結構性格悪いんだよねー。」
私はクスッと笑ってしまった。
「じゃあ、正直今日女子に囲まれてどう思いましたか?」
滝野先生もクスッと笑い。
「正直、うざいなーって思ったよ」
「本当に先生になれるんですかねー?」
ふふっと笑ってしまった。
「なるよ、絶対。」
滝野先生は真面目な顔になった。
「滝野先生は……きっといい先生になれますよ」
「そっか、ありがとう」
その後も二人でいろんな話をした。
私は家庭のことや妹たちのこと。
先生は大学のことなど。
私と先生は明日の放課後も、ここで会うことにした。
家に帰ると、美味しそうな匂いが空腹のお腹を刺激した。
「ごめんね、千冬。ご飯作らせちゃって」
「別に、これくらい大丈夫。」
「それで千冬……悪いんだけど明日も遅くなりそうなの、だから……。」
「わかった。作っとく」
「ありがとうね。」
早く明日にならいないかな。と私は寝る時まで思っていた。