紅という少女の元へ~鎖乃said~
魅影に一通りこの街に起きたことを聞き終えた。色々あったのはわかったけれど、その紅っていう子をほっておくわけにはいかない。魅影が言うには未だに紅の居場所は判明していないそうだが妃茉莉に聞けばわかる気がした。彼女は心理学も研究しているからだ。
「と言うわけだからここから出して?」
「……ねぇ……鎖乃何とも違和感ないの?」
……違和感?私は全然何ともない。家の外にいたときはすごい眠気に誘われていたが、今は全く眠たくもない。魅影は口をあんぐりと開け呆然としている。
「さっきからここ、今までに吸い込んだ人達の心の闇で埋め尽くされてるんだけど。ちなみにここはあたしが造り出した闇の中ね。」
全然気がつかなかった。そもそも私は心の使い手。人間が心の中に光か闇どちらを多く抱えているかと言えば勿論闇だ。それゆえ私は人間の心の闇に慣れてしまっていた。
「少しずつ心の闇の濃度を高めてたのに平気そうにしてるから心配した。」
「……魅影、わざわざ嘘をつかなくてもいいよ?本当は私を試したかったんでしょ?」
魅影の表情が僅かに曇る。やっぱり人間なんて所詮こんなものさ。必ずしも人を試したくなる。私も、魅影も、彼女も……。
「ごめんなさい、ちょっとした出来心だったの。鎖乃なら大丈夫ってわかってたから……ごめん。」
「いいよ、別に。それよりも早くあの四人を起こさなくちゃ。もしかしたらもう起きてるかもしれない。」
「それはない。絶対。」
否定された。けれど、時間的にはもう起きていてもおかしくない時間である。魅影の造り出した闇から出してもらい四人の状態を確かめてみた。
「……何で?」
魅影のいうとおりだった。皆まだスヤスヤと寝息をたてている。
「睡眠効果のあるあの空気を吸ったからだよ。」
ふとさっき魅影が行っていたことを思い出した。「一度寝てしまったらもう二度と目覚めない」……。もしかして皆もう目覚めないの……?
「大丈夫!完全な眠りには入ってないから、この香りを嗅がせれば目覚めるよ。」
そう言って持ってきたのはミルクティー。どうしてミルクティー?よくわからないけど皆の顔にミルクティーを近づける。すると、徐々に目を覚ましていった。
「ほらね。この睡眠作用は何故かミルクティーに弱くて完全な眠りに入らない限り目を覚ますようになってんの。」
だから魅影の部屋……と言うか魅影の家は甘い香りがするのか。納得だ。皆はよくわかっていない状態だった。でもボーッとしている暇はない。早く紅を探さないと……。
「ほら、目が覚めたなら行くよ!」