魅影の過去~魅影said~
真っ暗闇の空間に鎖乃とあたしの二人きり。鎖乃は必死に隠してるけど手が微かに震えている。そんな鎖乃の姿を見てあたしはバレないように微笑んだ。
心の使い手って言うから極悪人だと思ってたのに鎖乃はそんな悪い人じゃなかった。そもそもあたしが鎖乃を知ったのは学園に入学して少し落ち着いてきた頃。あたしは闇の使い手で闇の世界と行き来出来る能力を持っているからか友達があまり出来なかった。闇の世界は真っ暗で相手に絶望とかを感じさせることが出来るからだ。普通の暗いところとしても使うことが出来るのだけど、その当時は制限するのが苦手で引き込んだ相手を絶望に導いてしまったため全員あたしを恐れた。あたしは皆と仲良くなりたいのに……。そんなときだったと思う。
「痛い……深く傷ついた心を持っている……。心まで闇に連れていかれないようにね。」
学園のベンチに腰かけていたあたしに話しかけてくれた女の子。この女の子が鎖乃だった。後で知ったが彼女は心の使い手で人の心の全てが読めてしまうらしい。あの頃の鎖乃はまだ力の制限が出来なくて、近づいた人の心は全て読めるので人に近づくことが出来ない……のに鎖乃はあたしに話しかけてくれた。
闇の使い手は心に闇を抱えると自分の心が闇に食われると言われていることを知り、あたしに警告してくれたのがすごく嬉しくて。制限出来るようになったって報告が出来たら友達になりたいなって思って頑張った。
「あたしの家族もさ、応援してくれてたんだ。でも……この街は眠りの街になった。」
ある日いつもと同じように学園から帰ってきたらこの街に異臭が漂っていた。色んな人が倒れている。おかしい……今まで一度もこんなことがなかったのに。あたしは急いで家に帰った。弟たちは既に倒れていた……が母さんは辛うじて話せる状態だったので慌てて事情を聞く。
「魅影、この空気を吸っちゃダメ。いきなり使い手が来たのよ……。」
母さんが残した言葉はそれだけ。偶然にもあたしは小型の闇を造り出してその闇に空気を吸わせていたので全然眠たくなっていなかった。どうやらこの空気には睡眠効果が含まれているらしい。でもあたしが違和感を感じたのはビルギに入ってからだ。この空気はビルギに閉じ込められている……。
「ビルギを眠りの街にして何がしたいのっっ……!?」
むなしく一人で大声を出す。わからない。……いや、一つだけ思い当たった。ここは情報の街だ……いい情報も悪い情報も流れている。
「自分たちにとってよくない情報をこれ以上知られないようにするため…?」
だとすれば許せない……!
急いで家を飛び出て特大の闇を造り上げた。とりあえずこの街の空気に含まれる睡眠効果だけを全部吸わせる。そしてまだ息のある人たち全員の頭に小型の透明な睡眠効果のある空気だけを吸わせる闇を被せた。これなら睡眠効果のある空気は闇に呑まれ、それ以外の空気は体内にいく。
でも時既に遅しで。多くの人が眠りに落ちてしまった。仕方なく闇に眠ってしまった人々を入れ、街の外に出す。街の外に出したのに、空気は前と変わらない美しい空気なのに、誰一人として目覚めることはなかった。……あたしの家族も……。
「そう……だったんだ。犯人はわかったの?」
「毒の使い手、紅って知ってる?彼女がこの街で実験をしているそうなんだけどその時に発生した成分が原因かなって睨んでる。」
「……じゃあ、その子のところ行こうよ。」
……!?鎖乃ってもしかしてバカなの?そんなにあっさり言ってるけどあたしだって紅の居場所がわかってたらとっくに乗り込んでるよ。でも鎖乃の瞳は本気だったから、あたしは鎖乃についていくことにした。