ビルギを知る少女~鎖乃said~
頭も身体も重い。……私は何をしていたんだっけ……。重い瞼をゆっくり開ける。真っ暗な空間に渉、雪月花、大和、妃茉莉と私だけがいる状態。それにしても暗い……皆が辛うじて見えるほどでここがどこなのかわからなかった。
「あ、そろそろ出してあげなきゃダメかも。」
小さな独り言が聞こえてくる。どこかに閉じ込められているのか……。しかもこの声……さっきの女の子の声だ。
私が色々考えているといきなり視界が明るくなった。突然の光が眩しい。目の前にはさっきの少女が驚いたような顔で立っていた。
「ここはどこ……?」
「すご……目が覚めたんだ。あなただけだよ、自力で目が覚めたのは。」
私の質問に答えてくれない。心を読み取ろうか……。
「あたしは悪いやつじゃない。あなたがわざわざあたしの心を覗かなくても……ね。」
……!私のこと知ってる……?
少女は微笑んでまだ眠っている四人に毛布をかける。そして私を別の部屋に招いた。落ち着いた色調の可愛らしい部屋。ほんのり甘い香りがする。木で作られた机の上にどうぞ、とミルクティーを二つ置いて私の前に座った。甘い香りはこれのせいか。
「あなたは法魔学園第158期卒業生、心の使い手の鎖乃で間違いない?」
「うん。」
「あたしはあなたと同じ第158期卒業生、闇の使い手の魅影。使い手唯一のビルギ出身なの。以後お見知りおきを。……で、とりあえずビルギに来た経緯を聞いてもいいかな?」
私は法魔石の情報を探していると話した。魅影の表情は変わらない。むしろ少し笑っているように見える。
「昔は鎖乃みたいに色んな情報を求めて色んな人が行き来する盛んな街だったんだけどね……。今じゃそんなことあり得ないよ。」
「どうして情報の街に人がいないの?」
「……言ったはずでしょ。ここは眠りの街と化したの。」
真剣な目で私を見る。そんな魅影を見て少し視線が動いてしまった。先程までのどちらかと言えば軽い感じの雰囲気はなくなり重大な話をするときの重い空気を放つ魅影。耐えられない……そんな気がする。それを見越したのか魅影は顔を緩めてミルクティー冷めちゃうよと言った。冷めて、僅かに温かいミルクティーを口に運ぶと気分がすごく落ち着く。ほっ……と小さいため息をついて正面を見ると見覚えのある黒い小鳥がいた。
「あれ……十六夜、ここにいたの?」
「あぁ、この鳥あたしが歩いてるときにたまたま前を飛んでたんだけど眠っちゃって。飼い主が近くにいないようだったし連れてきたの。」
……十六夜に触れるのは霊の使い手の渉だけのはずなのに魅影は一体どうやってここまで運んだのだろう?そもそも私たち五人をどうやって……。
「鎖乃、色々謎があるみたいだね。心の使い手がそんなに顔に表情出したら逆に心読まれちゃうよ?」
深く考えすぎて眉間に皺がよっていた。心の使い手としてはあるまじき醜態で顔が仄かに赤く染まる。魅影は笑いをこらえきれずい大笑いした。余程すごい顔をしていたのか……。更に恥ずかしくなる。
「ごめん、笑いすぎちゃった。でもあたし嬉しい。こんなにあたしの街のことに向き合おうとしてくれたのは鎖乃が初めてだから。」
じゃあ、あたしもこの街に起きたこと一通り説明するね。魅影はそういいながら片手を上にあげる。突如現れた巨大なブラックホールのような真っ黒い穴。どこに続いているのかもわからない。この中に入れと魅影は言うのだ。
「……お邪魔します……。」
躊躇いなんかいらない。法魔石のため、彼女のために必要なことなんだから。私は心に言い聞かせながらゆっくりと足を踏み出した。