情報の街ビルギへ~鎖乃said~
「ビルギ……どこ?」
十六夜が帰ってこないため、私たちは迷っていた。雪月花の体力を一時的に回復させる薬を飲んだおかげでまだ体力は残っているのだが、それでも体力がない妃茉莉は普段決して見られないようなすごい顔をしていた。意外にも雪月花は体力があってかなり驚きである。彼女曰く、よく色んな薬草を摘みに行くので体力はそこそこありますよー!とのことだった。
「鎖乃……死ぬ……。」
「妃茉莉……昔より更に体力なくなってない?研究とかばっかりしてるからだよ。」
それが妃茉莉の役目なので仕方がないんだが……妃茉莉はあまりにも遅すぎる。始めは渉か大和がおぶるはずだったんだが、妃茉莉のプライドがそれを許さず仕方なく鎖乃がおぶることにした。しばらくして何か目印のようなものが見えてくる。
「あ、あれですかね?看板がありますよ。」
雪月花が指差したのは木の看板だった。珍しい字体で確かにビルギと書かれている。どうやらこの先からビルギらしい。……にしても、活気がない。情報の街だと聞いていたから常にお祭り騒ぎとまではいかなくてもそれなりに盛り上がっているものだと思っていたのだが、街には人が全くいない。情報を仕入れるにも何も、人がいなければ話にならないじゃないか。
「……何か寂しくね?十六夜もいねーし。」
「ここ、空気が悪いな……。少し異臭もする。」
大和の言うように確かに鼻をつくような臭い空気が漂っている。住宅街なのでとりあえず一軒、家を見つけて訪れることにした。
「すみません。お話を伺いたいのですが……。」
ドアをノックすると勢いよく三歳くらいの男の子がドアを開ける。嬉しそうな満面の笑みだったが、すぐに顔をしかめ泣き出した。それを聞いたおばあちゃんが慌ててやって来て私たちのことをきつく睨んだ。
「この子に無駄な期待を抱かせないでやってくれよ!……お前たち、使い手だね……!もう近づかないでおくれ!」
大きな音をたててドアを閉める。この街では使い手は嫌われているのか?その後更に数件まわったが、どの家も同じような対応しかしてくれなかった。
「……情報……聞けないですね。」
「この街……おかしすぎんだろ。」
暗い雰囲気に包まれていた私たちの前をすっと金色の髪の少女が通りすぎた。この街で初めて見る外を歩いている子だ。あの子に聞けば何か事情がわかるかもしれない。
「さっきの子なら何か知ってるかも。追いかけるよ!」
「鎖乃正気!?走るの!?」
一斉にバタバタと少女を追いかける。それに気づいたのか少女も走り始めた。また走るのが速いこと速いこと。あっという間に差をつけられ、少女を見失ってしまった。
「いなくなっちゃったな……。」
「どこに行っちゃったんでしょう……?」
「死ぬ……おえっ……ごほっごほ……。」
大和と雪月花が辺りを見渡すがどこにもいる気配がしない。
妃茉莉の体力が限界に達したのでしばらく休憩することにした。私もおぶってあげたいが自分自身が疲れきっている。とりあえず休憩することが最優先だ。
疲れきっていたからか徐々に眠たくなってきた。皆も眠たそうに目を擦っている。寝てしまいたいところだがどうも腑に落ちない。どうしてだろうか、寝てはいけない気がするんだ。それなのに眠気はどんどん増していく。
「鎖乃……眠い。俺寝てもいい?」
「私も眠い。鎖乃膝枕して。」
妃茉莉が私の膝に頭をのせてすやすやと眠り始める。私も寝そうになったとき、頭上から声がした。
「そこで寝てしまうと、永遠に起きることが出来なくなるよ。」
眠いのを堪えて必死に上を向くと、さっきの少女が立っていた。眠たすぎて目が霞んで視界がぼやける。そんななか彼女の声だけははっきりと聞こえていた。
「ここは眠りの街と化したんだから。」