過去の断片的な記憶?2~紅said~
振り向くと父が立っていた。唖然としている様子だったがすぐにあたしの手を引いて外へ連れ出した。この短時間で火はどんどんと広まり敷地の外からでもわかるほどになる。
「防火センサーが作動しなかったようだ。執事たちに消火させてはいるが……恐らく、全焼となるだろう。」
……おかしい。こんなに早く火がまわるなんて……。あたしが見たときはあの部屋しか燃えていなかったというのに。そもそも父はどうしてすぐに消火しなかった?おかしすぎる。
……しかも、ちょっと待て……。
「あの子は?」
少女がいない……見当たらないのだ。母もいない。どんどん燃えている……早く、早く助けなければ……!
「ああ、いいんだよ。別に。」
……は?今……何て?
「父さんは紅が生きていてくれたらそれでいいんだよ。父さんにとって大切なのは紅だけだからね。」
「……あの子を見殺しにするの?あたしは助けに行く!」
あたしの記憶があるのは少しだけだけどあの子には世話になった。あたしだって……力になりたい!でもあたしの腕を捕む力が強くて振りほどけない。
「離して!あたしはあの子……お姉ちゃんを助けたいの!!」
「ふざけるな!雪月花は今頃燃えている!もう無理だ!」
…………雪月花?姉の名は……雪月花……?どこかで聞いたことのある……。
「……あ。」
そうだ、鎖乃という人と魅影という人が話してた。薬がどうこうって……あたしの意識が途切れる直前だったからあまり覚えていないけど……。
待って、つまり姉は生きてる?もしかして逃げられたの?でもこんな業火のなか逃げられるとは到底考えられない。ここはどこ?いつ?
…………どこのいつの何の記憶?
わからない…………。
わからないっっ!!!!
こんな記憶あたしにはないはずなのに!
「あああああああああああああ!!!!!」
苦しい。苦しくて……。
頭が割れそうだ。
意識が途切れる前に見えたのは赤い薔薇だったのか白い薔薇だったのかわからなくなった風に舞う真っ黒焦げの薔薇の花びらたちだった…………。