過去の断片的な記憶?~紅said~
「……あれ……。ここどこ……。夢?」
さっきまでいた場所と違い大きな豪邸……を取り巻く薔薇たちがあたしの目の前に広がる。どこもかしこも薔薇。
赤い薔薇。
庭一面を覆い尽くすほどの真っ赤な薔薇。
白い薔薇。
オープンテラスの回りにだけだが控えめに、けれど華やかに咲き誇っている。
ここは……どこか懐かしい。私の家……に、似ているけれどどこか違う。どこだったか……。
「べーにー!」
綺麗で繊細なワンピースを着た白薔薇のような控えめで華やかな少女がこちらに向かってきた。
「ほらいくよ!」
よく状況を理解していないまま手を引かれ館の中に入る。
少女の手は温かい。今まで繋いできたなかで一番……。
「紅!どこにいたんだ?父さんたち心配して家中探し回ったぞ!」
「ご、ごめんなさい……。ちょっと外に……。」
「まぁまぁあなた、紅はお姉ちゃんが見つけてくれたことだし、無事でよかったじゃないの。」
優しく微笑む父。……ということはこの人は母か。あたしは母に会ったことがなかった。こんな穏やかな人の娘だったんだ……。
そして横にいる白薔薇のような少女は……あたしの姉?でも……あたしに姉なんて……。
「っっ、……。」
「紅、どうしたんだ?頭が痛いのか?」
頭が割れそうだ。何か大切なものを忘れてしまっている気がするのに、何か思い出せない。…………わからない。
「きっと疲れたんだわ。早くお休みなさい。」
またしても少女に手を引かれ連れてこられたのは……大きな部屋。その壁全て本棚で埋め尽くされており、謎めいた薬品なども机の上に散らばっていた。まさか、こんなところで寝るの……?
「あ、今日は研究しないで寝るんだよね、間違えちゃった。」
……確かにいつもあたしは毒の研究をしながらそのまま寝落ちするパターンが多い。それを知っているということは……やはり身内の人間なんだろうか。でもそうだとしても何故今までの記憶から消されているんだろうー……。
隣の部屋はふかふかで大きなベッドとクローゼットくらいしかない広々とした空間だった。少女は別の部屋らしかったがあたしは思わず少女の手を掴んだ。
「お願い、今日は一緒に寝て?」
少女は驚いた表情をしたがすぐに笑顔で頷いてくれた。あたしはいつもは一人で寝ているが今のよくわからない状況はとても不安。……誰かにそばにいてほしい。
眠りはじめてしばらくたった頃、あたしは目が覚めてしまった。すぐに眠れそうもなかったのでぶらりと屋敷の中を歩く。迷ってしまいそうなほど広いけれど不思議と迷うことはない。やっぱりここは懐かしい気がするような……。ふと灯りのついている部屋を見つけた。
……誰か起きているの?こんな時間に?
……何だかすごく嫌な予感がする。心がざわめいて落ち着かない。勇気を出して扉を開くとその部屋は真っ赤な炎に包まれていた。初めは状況がのみ込めなかったけどしばらくして我にかえる。
「誰か……呼ばなきゃ……!!」
急いで後ろを振り向いた瞬間何かにぶつかった。置物ではない。
「……お父さん?」