雪月花の元へ~魅影said~
「痛いっ!離してよ!」
もうどれだけ走っただろうか。紅は肩で息をしながら苦しそうに叫んだ。
「あなた……銀に何したの!?あたしの仲間に手を出すならあたしがあなたを排除する!」
鎖乃の方を見上げ、手を合わせる。紫色の煙がたち毒々しい小さな小瓶が現れた。これは雪月花と同じ……!?素早く中の液体をあたしたちに撒いてくる。
「げぇっ!」
小瓶の中にあるくらいだから少量だと思っていたが予想以上に毒の量は多い。避けたけれど毒が髪に掠めて溶けてしまった。
「髪が溶けたっ!?」
「これは触れたものすべてを溶かす毒。今あたしの身体にこの毒を纏った。それでも触れたいならいいけど。」
紅はただ無表情で睨み付けてくる。鎖乃は……クスクス笑った。嘲笑うかのように冷たい目で……。
「……ねぇ、紅。あなた家族はいる?」
はっきりいってどうでもいい話のような気がするが鎖乃のことだ、何かしらの意図があるんだろう。紅は黙っていたがやがて小さな声でいると言った。
「兄弟いる?」
「……いない。あたし……一人っ子。」
鎖乃の口角がみるみる上がる。ちょっと不気味だ。鎖乃は確信したように頷き紅に歩み寄る。
「ち、ちょっと鎖乃!?何してるの、溶けるよ!?」
鎖乃は何も言わずこちらも向かず真っ直ぐと紅に近づく。そして何の前触れもなくいきなり紅の頭を掴んだ。鎖乃の手はジュワッと音をたてどんどん紫色に変色していく。けれど鎖乃は離そうとしない。
「鎖乃!?何考えてるの!?早く手を……「今離したらダメ。」
鎖乃の肘より上まで紫色に変色している。指先なんて溶け始めている。見ているだけでも辛いほどなのに鎖乃は止めない。何をしているの?紅の方を見ると……紅は目を見開いている。どこか遠くを見つめるかのように。
鎖乃が手を離した。汗でびっしょりになって腕を押さえている。
「早く雪月花のとこ行こっ!?雪月花なら薬くれるから!」
「予め雪月花に薄いバリアが張れる薬貰っといたんだけどやっぱりダメか。でもその分毒は回りにくかったし雪月花のとこには行かない。」
「でも鎖乃の指溶けてる!早く治療しないとっ!」
早く治療しなければ鎖乃はどうなってしまうのか。ふとあたしの頭に過ったのは昔のこと。あたしの家族の二の舞にだけはさせない。あたしは闇を作り出してそこに鎖乃と気を失っている紅を入れて雪月花の元へ行くことにした。