連れ出す~魅影said~
「あれ……やられちゃったな。まぁ、どうせ早く倒して追いかけるからいいんだけどね。」
真白は大して気に留めることもなくにっこりと微笑んでくる。
「そうならないように私たちは精一杯相手させて頂きます。」
雪月花はポーチから数種類の薬草を取り出した。薬の調合は時間がかかるはず……。まさか今から調合するの!?
雪月花は薬草を持ったまま両手をパンっと合わせる。手を離すと……そこには小さな小瓶が。流石、薬の使い手といったところか。
「これは私なりの調合の方法です。そしてこれは相手の意識を錯乱させる薬です。今の間に紅の所に向かってください!」
……正直、鎖乃と渉と大和と雪月花では相手にならないであろう。それでもあたしを紅の所に行かせてくれる。仲間って……いいな。
あたしは急いで紅の元へ走った。
暗い地下に降りていくと、可愛らしい扉が目の前にあった。ゆっくりと開き足を踏み入れる。メルヘンチックな可愛らしい部屋が広がっていた。ふわふわふりふりの白いカーテンやピンクの大きなリボンがついたクッションなど女の子らしいお姫様のような部屋だ。おそらく紅の趣味だろう。
「あれ?お客さん?」
黒っぽいような紫色のふりふりの衣装を纏ったお姫様……紅が現れた。綺麗な顔立ちで本当にお人形のようだ。
「え……お、お客さん?」
「うん!あたしがお客さん来てほしいって銀に言ったの。まさか本当に連れてきてくれるなんて!アップルパイとレモンティーは好き?紫の淹れてくれるレモンティーはとっても美味しいの。」
銀がいないとなると、今この場にいるのは紅とあたしだけか……。紅は高級そうなティーカップに高級そうなレモンティーを注ぎ、アップルパイをのせる。いい香りがするがあたしはアップルパイを食べに来たわけではない。……が下手をすると紅の毒で何をされるかわからない……。慎重に機会を伺って紅をとりあえず連れ出さなくては……!
「どう?スッゴク美味しいでしょ?」
「うん。紅はいつもこんなのを食べてるの?」
「そう……って何であたしの名前知ってるの?」
「……紅が初めてこの街に来たとき話しかけてくれたじゃない。この町は明るくて楽しそうって。」
「あぁ、あのときのお姉さんか!だからあたしのこと知ってるんだ。」
怪しまれてはいけない。慎重に、且つ素早く……。早くしなければ銀が帰ってくる……!
「……紅、誰……?」
扉の開く音と足音と声。銀が帰ってきた!すぐさま振り向いて見ると、長く艶やかな銀色の髪に緑のストールを身につけた青年が立っていて一発で銀とわかった。あたしが紅に会ったとき銀はいなかったから今日が初対面だ。
「え?銀が連れてきてくれたお客さんじゃないの?」
「……お客なんて……連れてきてない……それに……使い手じゃん……。」
紅の表情がみるみると怖くなっていく。ヤバい……ヤバい!急いでドアに向かったが銀に腕を捕まれてしまった。
「……逃がさない……。二人が帰ってくるまで……大人しく…………。」
突如銀の手が緩んだ。両手を両耳にあててうずくまっている。これはまさか……。
「魅影、遅くなってごめん。紅連れて早くここから出よう。」
現れたのは……鎖乃だった。鎖乃はあたしと紅の手を引いていきなり走り始めた。
「銀からなるべく遠ざからなきゃ。」