たくましい女
たくましい女だ。
相撲取りのような身体のことではない。
乾杯してから手当たり次第食べまくり、物を押し込まれている胃袋のことでもない。
彼女が浮かべる満面の笑みのことだ。
3対3の合コン、彼女の食べっぷりの良さで盛り上がっていた。
彼女の友達がやりすぎじゃないかと思うほど、彼女によく食べさせていた。
彼女はそれを笑顔で、全て食べて見せた。
男陣は面白がってはいたが、恋愛対象から外している。
俺は少々引いていた。
食べることにしか興味のなさそうな彼女と、そんな彼女を合コンに連れてきた友達に。
たくさん食べさせたくて合コンに呼ぶだろうか?
大食いで健康的なことを見せびらかしにでも来たのか?
それは友達内だけの食事でしてほしい。
きっと彼女の友達がわざと彼女を盛り上げ役に連れて来たのだろう。
あわよくば彼女を引き立て役にして自分たちを可愛いと見せる彼女の友達の魂胆にみえた。
女の友情とは恐ろしい。
計算高い彼女らとの合コンは自分に合わない気がして、早く帰りたかった。
彼女の友達が化粧直しに席を外すと、彼女がそこに残っているのにも関わらず、俺の友人は誰が気になると相談を始める。
彼女を初めからその選択肢に入れていないようなので、俺は彼女が気になるといい、せっかくだからと席を隣にしてもらい、思いきって話しかけてみた。
「それ、おいしい?」
「うん」
「君が食べているものは何でもうまそうに見えるな」
「ふふ、デブだからね。笑っていいよ。そのために呼ばれたんだもの」
どうやら、彼女は自分が引き立て役だと気づいているらしかった。
気づいていながら協力しているのか。
利用された、見下された、バカにされたと知っても怒るどころか、悔しさもないらしい。
「可哀想だもの」
「どこが?」
「私が引き立て役にならなきゃ、あの子たちには恋人ができないの」
「そうかな?可愛いから恋人なんてすぐできそうだけど」
「この間まではいたよ」
「やっぱり」
「でも、いなくなったから次が必要なの。友達を蹴落としてでも男性が欲しいみたい。さみしがり屋なんだよ」
「蹴落とされて辛くない?」
「私は引き立て役だけど、蹴落とされてはないよ。今すぐ恋人が欲しいとは思ってないの、協力してるだけよ」
彼女自身は恋人を求めていないから、競争心がなく、踏み台にされた感覚はないようだ。
強がりではないだろう。
友達に恋人ができるよう彼女も心底願ってるように見えた。
「必死なんだよ。どうにかしたいって強い気持ちがあるんだと思うわ。高いお金をかけて可愛い服を買って、長い時間をかけて化粧して、外見がどんなに素敵になっても、自信がもてないんだよ。私を引き立て役にしてないと勇気が出せないの」
「ただ性格がひねくれてるだけじゃないか?」
「そう見えるよね。でもあの子たちは頑張りすぎて空回りしちゃうだけなの。『私は性悪な女なの。宜しくね』って自己紹介してるようなものなのに、純粋な男性は気づかないから、うまく恋人を手に入れて、仲良くできるみたい」
「そういう女性には、そういう男性がお似合いってわけだな」
「誰でもいいからたくさんの男性と付き合って、相性を確かめて、うまくいけば結婚っていう考えらしいわ。私にはあの子たちほどパワーもエネルギーもないから、そのやり方はできないわ。そうでもして必死にならなきゃ結婚相手が見つからないのでしょうけど」
「あんな風に友達を利用してでも自分をよく見せようとする猫かぶりも苦労してるってことか」
「だから私は猫かぶりより引き立て役でいいわ、気楽だもの」
たくましい考えに感服する。
奥深い友情にお手上げだ。
彼女の満面の笑みがたくましい。
そんな彼女の日常はどんなものかと気になり出す。
外見の可愛い子にしとけばいいのに、俺はつい彼女と連絡先を交換した。
「おいしいラーメン屋を紹介してあげる」
「ああ、それいいな」
俺もたくましい腹になりそうだ。
こんな出会いがあってもいいな、なんて思った。