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どうか、彼女が幸せになりますように─────…。




 彼女と出会ったのは、中学校の入学式当日。

これからの学校生活への期待と不安で落ち着かないまま、新しい教室の自分の席についていた。

 俺の席は窓側の一番前。

 彼女の席は廊下側の一番後ろ。

目が合って互いに互いを見た。

それが見つめ合うって行為だとは自覚がないまま、ただ目が放せなくて彼女を見る。


 それが一目惚れした瞬間だと、気が付いたのは一ヶ月後。


一番中の良い異性になって、彼女から告白してくれて、喜んで付き合うことになった。

 彼女は、可愛い子。

外見も中身も、無垢で明るくて甘え上手。

 初めての交際に戸惑っていた俺に、自分から距離を縮めてきてくれた。

付き合う前は学ランの袖を掴んで話し掛けてきた彼女は、交際してから手を握ってくる。

 「勉強を教えて」と進んで学業に取り組んだし、ソフトボール部で活躍していた。俺が生徒会長を目指すと言えば、「手伝いたいから、あたしも入っていい?」と俺の腕をとって無邪気に笑う。

 真っ直ぐに向けられた、"俺を好きだ"って気持ちが凄く嬉しかった。

毎日が楽しくて、登校から下校まで彼女と一緒なのが嬉しくて、夜更かしするくらい長電話して眠るまでふわふわしてて、幸せだった。

 明るくて甘え上手で、ちょっと小悪魔みたいな天然で、寂しがり屋。俺に頼ってばかりいる可愛い女の子。それが俺の恋人。


 そうだと、思っていた。


彼女は、腕を絡めて寄り添ってくる。俯いたまま何も言わない。

俺はただ見下ろすだけ。

彼女は、そっと俺の背中に抱き付く。そのまま何も言わない。

俺はただ背中に抱き付く彼女の手を握るだけ。

彼女は、俺の胸にしがみつく。そのまま何も言わずに、啜り泣く。

俺は両腕で抱き締めるだけ。

 手を握って、寄り添って、抱き付いてきて、ほっぺにキスして、唇にキスして、抱き締めてきた。

 だけど俺は───彼女を知らない。

彼女の家庭の事情が複雑だと言うことを、彼女の幼馴染みから聞いた時、気付いた。


彼女は、俺を頼っていなかったんだ。


彼女は家族の話題は嫌がり、交際して一年経っても、話してくれなかった。家族の事情で、彼女は苦しんでいる。

だから時々、悲しげな顔で俺の腕にすがり付く。

だから時々、苦しそうな顔で俺の背中を抱き締める。

だから時々、泣きそうな顔で俺の腕に抱き付く。

その原因が、全て家族のことだった。

だけど一度も、俺には話してくれなかった。



 別れよう、と切り出したのは、二年生の夏。

「どうして?」と彼女は震える声で理由を訊いた。

「もうあたしのこと好きじゃないの?」と悲しげに潤んだ瞳が問う。

そんなじゃない。

そんなじゃないよ。

君のことが、好きだ。

好き。好きだから、だから。


「……俺は君を知らない」

「…え?」

「君は悲しい時、苦しい時、泣きたい時───…俺のそばにくるだけで何も話してくれなかった」



 好きだから、辛いんだ。

君が悲しい時、腕に寄り添ってきても、俺は知らない。

君が苦しい時、背中にすがり付いても、俺は知らない。

君が泣きたい時、両腕で抱き締めても、俺は知らない。

 どうして悲しいのか、どうして苦しいのか、どうして泣きたいのか、俺は知らない。

君は話してくれない。

俺に助けを求めない。


「なにもしてやれないことが辛い────…だから、別れよう」


 好きだから、君を支えたいんだ。

好きだから、君の支えになりたい。

だけど、君には、必要がないんだろう?

苦しくてしかたない。

でももしかしたら、別れたくないから話してくれるかもしれない。頼ってくれるかもしれない。

そんな期待を抱いた。

寂しがり屋の彼女なら、俺にしがみつく。そんな打算があって別れ話を切り出した。


「そうだね、別れよう」


 彼女は笑って頷く。

俺の好きな彼女の笑顔で、別れることを承諾した。

苦しくて胸が張り裂けそうになる。

彼女は笑いながら、ポロポロと涙が落としていく。ほんの少しだけ歪んだけれど、明るい笑顔を作る。


 ───…嫌だよ、別れないで

独りにしないで。

お願い、そばにいて。

あたしを、あたしを、捨てないで…。

あたしには君しかいないんだよ…?────。


「今までありがとう。君がいて幸せでした、ありがとう」


 彼女は本音を押し殺して、精一杯笑って言う。

零れ落ちる涙が、聴こえない悲鳴を発しているようだった───…。

 嗚呼、俺に君を助けられないのか。

俺は俺の非力さを思い知る。

押し殺された本音が涙になって落ちていくのを、俺はただ見ているしか出来なかった。

明るく振る舞おうとして出した彼女の鼻かかった高い声は、微かに震えている。


 本当に幸せだった?

 俺といて、幸せだった?


その問いをチクチクと痛む喉の中に飲み込んで、最後に彼女を抱き締めた。

俺も幸せだったよ。今までありがとう。俺も幸せだったよ。今までありがとう。

啜り泣いて震える彼女を、そっと両腕で包み込んで祈る。


 口にしたことがなかったけれど───…君を愛してる。


 どうか、どうか。

君が誰かに助けを求めることができますように。

君が本当に誰かに頼れることができますように。

誰かが君を支えることができますように。

誰かが君を、愛してくれますように。


どうか、彼女が幸せになりますように─────…。










大好きだけど、

自分では支えられそうにもないと、自己判断して離れる男子の心情を書いてみたいなぁ、と随分前から思っていました。

なので、書きました!



実は掃除機かけている最中に思い付いて、ついに乙女ゲーネタに手を出して、折角だからその男子の心情も取り入れようってことになりまして


初っぱなからフラれる、ていうヒロインの長編を書き留めている最中でございます。


小悪魔なやや天然だけど、相談するや助けてもらうって選択肢が思い浮かべることができないという家庭の事情が複雑なヒロインが、リアルの恋愛にブランクがあり臆病になってしまったヒロインが

気付けば乙女ゲーの世界にいた!

的な逆ハーの物語です。



その長編の、序章の

元カレ視点がコレでした。


元カレの出番はないです、ヒロインの過去でしかありません。



学園もので

学生の甘酸っぱいものと

胸焼けするものが

書きたかったので、一応学生にありがちなイベントを利用して、イチャイチャさせたいなぁ、と考えております。



ここまで読んでくださった読者様

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読んでくださり、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 彼女の気持ちと男の子の気持ち、両方が伝わってきて良かったです‼ [一言] 他の作品も楽しみにしています(*^^*)
[良い点] 思春期の甘酸っぱさや、好きなのに、好きだから手放す相手を思いやる愛情が伝わってきました☆ [一言] いつも楽しく拝見させていただいてます! 長編も他の作品と平行して期待してますね♪
[一言] 幸せになってほしい… イチャイチャ読みたいですっ!
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