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プロローグ~始まりは香ばしい匂いから

この作品はフィクションです。

この作品に登場する人物名、地名、団体名、その他固有名詞は、実在するものと同一であっても、関係ありません。


誤字・脱字がございましたら、お知らせいただけると幸いです。

 朝霧桜(あさぎりさくら)は困っていた。

「朝霧ちゃ~ん。別に変なこと言ってないでしょ」

「そうそう。俺等とお昼一緒に食べようぜって言ってるだけなんだからよ~」

 学校内でナンパを受けているのだ。

 周りの人たちが言うには、自分は容姿が優れていて、人付き合いも良く、初対面の人ともすぐに打ち解けられるのだそうだ。

 正直、過大評価と勘違い、思い込みに妄想その他諸々が混じり過ぎてると思う。自分はそこまで出来た人間ではない。しかし、周りがそう認識するとそういうことになってしまい、結果としてこうした事態が起こるようになる。具体的に言うと、声を掛けてくる人が増える。もちろん良くも悪くもだ。ちなみに今目の前にいる人たちは言うまでもなく悪い方。

「いえ、ですから」

「何?俺等先輩の頼みを断っちゃうわけ?」

「せっかくこうして頼んでるのにそれはないんじゃない?」

 断ろうとすると、強引に自分たちの都合の良い方に持って行こうとする。

(本当に面倒だなぁ…)

 自分としては、昼食はゆっくり食べたいのだ。それをこんな、人として思うところのある人たちのせいで潰されるのは、腹立たしいとまでは言わないけど、嫌だ。

 こっちも強引に断っちゃおうかな、と桜が口を開こうとしたその時、


「無理やりなの、良くない」


 外から声を掛けられた。

 声に全員が振り向く。

「あぁん?誰だてめえ?」

「俺等がせっかく楽しく話してるのに邪魔すんなよ」

 先程までの安っぽい笑顔はどこへやら。今来た男子生徒に凄む二人。

「それ、お前達だけ。彼女、あからさまに困ってる」

「今来たばっかのてめぇに何がわかんだよ」

「逆に。今来たばっかでも分かることが分からない時点で、色々終わってる」

(何か、面白い人だなぁ)

 言い合う三人を尻目に桜はそんなことを考えていた。

 その生徒は同じ一年で、話し方がゆっくりで、何となくほのぼのとした印象を受ける。そんなことしか分からないのにそんな風に思った。

「だから、てめぇには関係のないことなんだから引っ込んでろ!」

「もうここまで関わった。お前達が絡んでくるから」

 そんな桜とは少し離れたところで三人が問答を繰り返す。正確には二人が一方的に俺達が正しいったら正しいんだからお前帰れよ、と言い、一人はちゃんとした正しさでお前達のそれは違う、と言っている。

「それはてめぇが!」

「話を戻す」

 いい加減に飽きたのか、一人側の生徒が区切りを入れる。

「彼女はお前達と食事を取りたくない。なのに無理矢理自分達の思い通りにしようとお前達は食い下がって迷惑を掛けていた」

「だからそれは」

「困っているのが明らかなのにそれを無視」

「まだ答えをもらってなかったんだよ!」

「嘘。断ろうとすると言葉をかぶせて言わせなかっただけ」

「それがなんだよ」

「良くない。男らしくない。人として問題。潔くさっさと去る」

「何でてめぇにそこまで言われる必要があんだよ!」

 その言葉に激怒したのか、拳を振り上げる。

「すぐに暴力に頼るのは言葉で負けたことをもみ消す証拠。負けたなら去る」

「この野郎…っ!」

「言わせておけば…っ!」

 それを言われては言い返せない二人。

「さっさと去る」

 もう一度言うとそれに今度こそキレたのか二人側の一人が殴りかかる。

「っ!」

 桜は止めようとするが、間に合わない。自分を助けようとしてくれた人を庇うこともできないままその拳が顔面に入る、と思ったそのとき。

「がはっ!」

「え?」

 その生徒が殴りかかった生徒に見事なカウンターを入れていた。

「見た目で人を軽んじるのも、良くない」

 まだ、何もしていない方の生徒に向かって言う。

「これでも、強い。まだやる?」

「い、いいいいや、いい。そろそろ俺達は帰るとするよ」

 言うが早いか、倒れた生徒を引っ張って教室へ帰っていく。

「ん」

 それを見て頷く生徒。

「あの、ありがとう」

「ん~……」

 桜が礼を述べると、一緒に持ってた袋を漁り始めた。

「あっ」

 しばらくすると、お目当ての品を見つけたのか、嬉しそうに取り出す。

「あげる」

 その手に握られていたのは、

「クッキー?」

「うん!」

 小さなビニール袋に入った幾つかのクッキーだった。

「えっと…どうして?」

「疲れた時は甘い物」

(あっ、いい匂い)

 受け取って口を開くと、香ばしい匂いが広がる。

「元気出す」

「え?」

 顔を上げると、男子生徒はその場を去ろうとしていた。

「ま、待って!えっと、その…名前!聞かせて下さい」

「ん~?」

 ゆっくり振り返る男子生徒。

「一年A組。亜麻ヶ瀬大和(あまがせやまと)

 そこで一度区切って、

遊休部(ゆうきゅうぶ)―――通称猫部部長」

 柔らかな笑顔でそう言った。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

初めましての方は初めまして。

他の作品も読んでいただいた方は重ねてありがとうございます。


この作品が、読者様の元気の一部になることを願って。

まだまだ拙いですが、よろしくお願い致します。

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