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幸せな令嬢の話

恐ろしい娘

作者: ぺいた
掲載日:2026/08/01

幸せな令嬢の話

https://ncode.syosetu.com/s6462k/


シリーズの3作目です。クラウディアの父親視点です。


どこから読んでも大丈夫だと思いますが、1作目から順に読んだほうが、気楽に読めるような気がします。


8月2日、[日間]ハイファンタジー〔ファンタジー〕 - 短編

    [日間]異世界転生/転移〔ファンタジー〕 - すべて

で1位になってました!( ;∀;)なにそれ夢みたい! ありがとうございます!

私と妻は、政略結婚だった。

政略だとしても、愛を育む夫婦もいると思うが、うちではまったく育たなかった。


妻の母親は侯爵の出だったことで、伯爵である父親を下に見ていた。

妻もその影響を受けて、「伯爵ふぜいが」と思っているのが丸わかりだった。


それでも子供を作るまでは私と寝室を共にしていたが、妊娠がわかったら「もういいでしょ」と言わんばかりに拒否し、必要最小限の関わりを持つだけになった。娘を産んだ後は「お互い自由に暮らしたほうが幸せだと思うの」と、愛人を作って遊び始めたので、私も愛人を作った。愛人との間に娘も生まれたが、妻はそれを知っても何も言わなかった。何か言うほどの愛情もなかったのだろうと思う。


そんな夫婦だったので、クラウディアと名付けた娘に対する愛情も湧かなかった。世話は乳母にまかせ、愛人と、愛人との子供に癒しを求めた。


クラウディアが3歳のころ、「おとうさま」と話しかけてきたので、「なんだ、今忙しい」とスルーしようとしたが、クラウディアが持ってる物を見て血の気が引いた。


「それは! 忠誠の誓いで王から賜った白磁の盃! そ、それを壊したら忠誠を疑われてしまうやつ! な、なんでそんなもの持ってるの!」


大声にびびったのか、盃を持つ手に力が入る。やめてやめて薄いんだからそれ! すぐ欠けそうなんだから!


「クラウディアちゃん、いい子だから、お父様に、それを、ちょうだい。ね?」

必死でなだめすかす。


「え~、これほしい」


「それはダメなの。お父様の大事なものなの」私は侍女に「おい! クラウディアの好きそうなおもちゃを持ってこい!」と言いつけた。侍女があわてて人形を持ってきたので、「ほらほら、お人形だよ~~~」とクラウディアに見せると、「お人形じゃないよ、サリーちゃん」と言う。


「サ、サリーちゃんか。クラウディアちゃーん、遊んでー!」と人形を動かして言った。


「いいよ! このお皿で遊ぼう!」


「だからそれはダメええええ、サリーの言うこと聞いてえええええ」


こんなやりとりを10分ぐらい続けて、やっと盃を手放してくれた。寿命が縮んだ。

なんで金庫にしまっておいたはずの盃を娘が持っていたのか、使用人の誰に聞いてもわからなかった。

娘が自分で開けた? 魔術回路の鍵を? まさか…。


疑問のまま過ごしていたある日、決算書を読んでいると、クラウディアがドアから顔をのぞかせた。


「クラウディア! お父様は仕事中…」と追い払おうとした娘の手を見て蒼白になった。


それは!!! 超高値だった毛生え薬! ビンだから! 落としたら割れちゃうから!

風呂場に隠しておいたはずなのに! なんで見つけてくるの!


こうしてこの時は「くまのぴーちゃん」と10分お話して返してもらった。


妻の侍女に聞いたところ、妻も、クラウディアが「愛人との手紙を外に持ち出そうとした」り「高額の宝石の請求書をお父様に見せにいこうとした」りするたびに、ぴーちゃんやサリーちゃんで遊ぶことになったらしい。


そういう生活を送っていたクラウディアは、「お父様もお母様も、本当に私に優しくて、一緒におままごとやお人形遊びをしてくれて、嬉しかったです。私は幸せ者ですね~」と、ことあるごとに感謝してくれるが、私の心情は複雑だ。


クラウディアが8歳の時、「まっくらなお部屋で遊びたい」と言い出して、窓という窓に黒布を貼って、外からの光を遮断したことがある。「昼間なのに、ランプをつけて過ごすなんて」と不満だったが、その頃には、妻も私も「クラウディアの言うことに従ったほうがいい」という暗黙の了解があった。というのも、クラウディアのおかげで、我が家は何度も危機を逃れていたからだ。


最初の盃の時。なぜここから3歳児が取り出せたのかと、金庫を詳しく調べてみた。すると、その頃に契約が切れる借用書が見つかったのだ。そのまま放置していたら、莫大な延滞金を取られていたところだった。


毛生え薬の時は、ビンを隠していた棚を調べたら、瘴気がたまっていた。神官に来てもらって祓ってもらったが、「このまま放置したら魔物が生まれていたかもしれない」と言われた。


妻の愛人の手紙の時は、すでに侍女や庭師に見られてしまっていたせいで「この人は結婚詐欺」と知ることができた。


宝石の請求書は、よくよく確認したら二重の支払いを巧妙に仕掛けられていたので、払う前に罪に問うことができた。


そういうわけで、クラウディアが何をしようと、止めるつもりはなかったのである。


はたして、光を遮断した日、屋敷の近くに「動く物に反応して襲ってくる魔物」が現れていたことを知った。布で隠していたせいで、外からは何も見えなかったので、攻撃対象にならずにすんだ。


クラウディアが13歳になった時、投資の話が持ち込まれた。親しくしていた貴族がみんな参加していたし、私も勧められたが、クラウディアが強硬に反対したので、素直に従った。その結果、詐欺に遭わずにすんだ。


15歳で王立学園に進んだクラウディアは、この国の第三王子であるアラン殿下に婚約を申し込まれた。

どういうきっかけでこんな大物と親しくなったのかわからないが、この娘ならきっと、なんでもありなんだろう、と納得した。


クラウディアが17歳の時、私の妻がアソコカ領に行くと言い出した。最近新しくつきあい始めた愛人がいるようだったので、浮気旅行だろうと見当はついたが、浮気はお互い様なので黙っていた。その時、珍しくクラウディアが「通り道のココドコ村でお土産を買ってきて」と頼んでいたので、「何かあるのかな?」と思っていた。


もちろん妻も、「クラウディアの言うことに従わないと大変なことになる」と今までの経験からわかっていたので、最優先で従ったのだと思う。そして、ココドコ村に蔓延していた病気にかかって死んだ。


私は戦慄した。クラウディアの言動は、私や妻を守るためではないのだ。

妻は確実に、クラウディアの言葉に従ったせいで死んだのだ。


この妻の行動について、アラン殿下が調べた結果を教えてくれた。妻は敵国のスパイに会おうとしていたのだという。家族が敵国のスパイと通じていたとなれば、どんな処分が下されるかわからない。私や娘にも及んでいたかもしれない。


ということは、この娘は、自分に危険が及びそうになると、躊躇なく実の母親さえ切り捨てるのだ。

「お母様、私がお土産なんて頼んだせいで!」と泣き続ける娘を見ていると、とてもそんな冷徹なことができるようには思えないのに。


恐ろしい。この娘だけは敵に回しちゃいけない。私は肝に銘じた。


妻が死んだので、長年の愛人が「早く再婚しろ」と急かしてきたが、意地でも喪が明けるまでは再婚しなかった。クラウディアに悪い印象を持たれたくなかったからだ。


喪が明けたので再婚して、愛人と、その娘であるエリーを屋敷に迎えた。


後妻とエリーは、ものすごい勢いでクラウディアを殺そうとしていた。


私が「クラウディアには昔から野生の勘のようなものがあって、何度も危険を回避してきた、妻もそのせいで死んだと思っている。手出しはしないほうがいい」と説明したのに、「あんな頭弱そうな娘のどこにそんな能力が? 偶然でしょ」と信じようとしなかった。


うちで働く使用人もみんな、クラウディアの言動の力を信じていたので、後妻とエリーの企みを手伝おうとはしなかったし、「命が惜しかったら変なことは考えないほうがいいですよ」と忠告もしていた。


それなのに毒は盛るわ、馬車には細工するわ、ドレスには呪詛を込めるわ、階段から突き落とそうとするわ、池には突き落とそうとするわで、てんこもりで安直な殺し方をしようとしていた。


はじめのうちは、「やめてくれ! おまえたちをこの家に連れてきたのは私だ! 私が危険因子として排除されてしまう!」と止めていたが、次第に本当に怖くなってきた。


クラウディアは、これだけ命の危険にさらされてるのに「おふたりとも、とても私に優しく接してくださるので幸せです」と、その殺意に気づきもしないで、にこにこして躱しているのだ。悪意に鈍感すぎて怖い。怖すぎて、「いっそ亡き者になったほうが、安心して暮らせるのではないか」という気持ちになってしまい、後妻たちを止めることもなくなった。止めなくても、クラウディアは絶対死なないような気もしたし。クラウディアの勘が勝つか、後妻とエリーの執念が勝つか。もう恐怖でおかしくなっていたのだろう。傍観者に徹していた。


そして、「こんなに殺意を持って近づいてくる義母と義妹を、排除しないのはなぜだ?」と不思議に思っていた時、エリーが馬車から落ちて重傷を負った。


同乗していたクラウディアは、泣きながら「床にイヤリングが落ちていたので、腰をかがめて拾おうとしたら、エリーが馬車から飛び出したんです。どうして走っている馬車から飛び降りたりしたのか…!」と言っていた。


その言葉を聞いていた人間はみんな「突き落とそうとして失敗したんだな」と察していたが、クラウディアだけは「エリーのばかばか! なんでそんなにオッチョコチョイなのよ! 死んだりしたら承知しないから!」と泣いていた。いい子なんだけど…本当に優しくて家族思いのいい子だと思うんだけど…怖すぎる。


エリーがなんとか死の淵から脱した時、さすがの後妻も身に染みたのだろう。

「クラウディア様はきっと、神に愛されている子供なのでしょう。だから、手出しをしようとした娘が、このような罰を受けたのだと思います。今まで本当に申し訳ありませんでした。エリーが動けるようになり次第、私たち母娘は修道院に入ろうと思います。そして一生、罪を悔い改めて生きていきます」と言っていた。


クラウディアは「え? なんで? 罪って何? お義母様もエリーも、ずっと私に優しくしてくださっていたのに」と言った。


侍女のマチルダが「あの手この手でお嬢様を害そうとしていましたよ」と言うと、「うっそー! ほんとに? 全然気づかなかった!」と驚いていた。


婚約者のアラン殿下が「はっはっは、相変わらずのんきだなあ」と笑っていた。


私は驚いた。

笑えるんだ…この恐ろしい娘の言動を見聞きして……。私にはとてもできない…。


つくづく人間としての器の違いを知った私は、「私も妻やエリーの企みを知っていたのに見て見ぬふりをしておりました。私も同罪です。この伯爵領をアラン殿下にお任せして、僻地の別邸で隠居したいと思います。殿下、娘をお願いしてもよろしいでしょうか」と言った。


「なるほど、自主的に罪を認める人たちだったから、見逃されていたのかもしれないな。でも、罪は罪だから、きちんとした裁きは受けてもらいますよ」とアラン殿下が言ったので、それも当然か、と受け入れようと思った。しかし、


「なんで! お父様は何もしてないわ! 罪なんてない! 裁きなんて必要ないわ!」と、娘が必死になってかばってくれた。ほんと、いい子なんだけどな…。怖いと思うことに罪悪感も感じるんだけど、やっぱり怖い。娘よ、お父様の一番の罪は、おまえを怖がってることだと思うよ…。


エリーの傷がひどかったことと、充分反省していること、被害者(クラウディア)の訴えもあって、私たちが罪に問われることはなかった。


◇◇◇


僻地に越してからずいぶんたつ。時折、クラウディアから手紙が届く。

体調はどうか、ちゃんと食べているか、不自由してないか。

幼いころ、お人形やぬいぐるみで遊んでもらったことを今でも思い出し、感謝を忘れてないこと。


クラウディアは本当に優しい親思いの娘に育ってくれた。

こんなに慕ってくれている娘が、どうしてあんなに怖かったのか。

母親のことも、偶然だったんじゃないのだろうか。

クラウディアはちょっと運がいいだけで、普通の可愛い娘なんじゃないだろうか。


そんな気持ちになってきた頃、アラン殿下との結婚式の招待状が届いた。


そうか、とうとう結婚か。この愚父を結婚式に招待してくれるのか。

嬉しいな、必ず行こう、お祝いに何を買っていこう…と顔をほころばせながら招待状を読み、最後の文で固まった。


―追伸 王都への通り道で、ヘナチョコ村に寄って、珍しい石を買ってきてください。


これって…。

クラウディア…あの、私は…、ヘナチョコ村に行くと、どうなるの?

クラウディアちゃんに危害を加えるつもりなんて、これっぽっちもないし、王族と敵対するような貴族とうっかり仲良くなるのが怖くてつきあいを断ってるし、絶対絶対クラウディアちゃんに迷惑かけないように生きていくつもりだよ? だからこのお願いって、他意はないよね? ね?


ただの、娘からのおねだりだと思うのだけれど、そうだと思うのだけれども、冷や汗と震えが止まらなかった。

追伸は、アランがクラウディアに「これ追伸で頼んでおいて」と言って付け足した嫌がらせです。まだ父親に怒ってたので。でもびびって結婚式を欠席されたら困るので、ちゃんと数日後に「お土産を頼んだのはアラン様ですよ」というお手紙を出します。


誤字報告ありがとうございます! 敬語ができてなかったです! すみません!

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― 新着の感想 ―
ほんと面白い。続編希望です。
どっちか分からないもんねw 行かないと危険なのかもだし( ≖ᴗ≖)
面白すぎて何度も読み返しにきてしまいます。 よき作品に感謝です。
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