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『俺は悩みができると、幼馴染の押し入れに閉じこもる』

作者: 醍醐乙兎
掲載日:2026/05/24

 俺は昔から、悩みがあると押し入れに閉じこもる。

 三角座りで額を膝につけ、湿度のあるベニヤ板の匂いと衣服の香り、耳に届く息遣いに集中する。

 体が成長した今も変わらない。

 昔より広く、大人が二人並んでも余裕のある空間。

 一番安心できて、一番素直になれる場所。


「あのさぁ……」


 押し入れの外から声をかけられる。

 この声は俺の幼馴染。

 彼女とは高校が別になったが、昔からよく押し入れに入って遊んだ。


 そんな幼馴染の声で、俺の安心は揺らぐ。


「あんたそろそろ――私の押し入れから出てきたら?」

「いやだ。まだここにいたい」





 俺を押し入れから引きずり出した幼馴染は、部屋の真ん中を叩いた。

 指示に従い、正座の姿勢を取る。


「もう高校生なんだから、勝手に部屋に入るのはダメでしょ」

「おばさんには挨拶したし……」

「それであんたがお母さんの押し入れに入るなら文句はないよ?」


 ジト目でおばさんの部屋を指差す幼馴染。


「せめて私の許可は取ろうよ」


 確かに、連絡先は持っている。

 けど……。


「恥ずかしい」

「乙女の押し入れに無断で入る以上の恥は早々ないよ」





「――じゃあ、始めようか」


 声のトーンを落とした彼女は、俺の腕を掴み、押し入れに向かった。


「……大人二人分のスペースを作ってあるのわかったでしょ」


 掴まれた腕に爪が刺さる。


「高校に進学するときに約束したよね。押し入れに入るときは一緒じゃないとダメって」

「ごめんなさい」

「でも、もう一つの約束は守ってくれたね」

「……はい」

「悩みができたら必ず、私の押し入れに入るって」


 彼女は空いた手で押し入れの扉を開き、振り向いた。

 その瞳は激しく揺れている。


「それであんた。なにを悩んでるの?」


(告白されて返事に迷ってる、って言っても大丈夫かな……)


「まぁ……知ってるけどね」

「えっ――」


 そのまま押し入れに引きずり込まれ、扉を閉められた。

 暗闇の中、荒い息遣いが近づいてくる。

 熱い吐息が、耳にかかった。


「ねぇ…………断ってよ」





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