『俺は悩みができると、幼馴染の押し入れに閉じこもる』
俺は昔から、悩みがあると押し入れに閉じこもる。
三角座りで額を膝につけ、湿度のあるベニヤ板の匂いと衣服の香り、耳に届く息遣いに集中する。
体が成長した今も変わらない。
昔より広く、大人が二人並んでも余裕のある空間。
一番安心できて、一番素直になれる場所。
「あのさぁ……」
押し入れの外から声をかけられる。
この声は俺の幼馴染。
彼女とは高校が別になったが、昔からよく押し入れに入って遊んだ。
そんな幼馴染の声で、俺の安心は揺らぐ。
「あんたそろそろ――私の押し入れから出てきたら?」
「いやだ。まだここにいたい」
俺を押し入れから引きずり出した幼馴染は、部屋の真ん中を叩いた。
指示に従い、正座の姿勢を取る。
「もう高校生なんだから、勝手に部屋に入るのはダメでしょ」
「おばさんには挨拶したし……」
「それであんたがお母さんの押し入れに入るなら文句はないよ?」
ジト目でおばさんの部屋を指差す幼馴染。
「せめて私の許可は取ろうよ」
確かに、連絡先は持っている。
けど……。
「恥ずかしい」
「乙女の押し入れに無断で入る以上の恥は早々ないよ」
「――じゃあ、始めようか」
声のトーンを落とした彼女は、俺の腕を掴み、押し入れに向かった。
「……大人二人分のスペースを作ってあるのわかったでしょ」
掴まれた腕に爪が刺さる。
「高校に進学するときに約束したよね。押し入れに入るときは一緒じゃないとダメって」
「ごめんなさい」
「でも、もう一つの約束は守ってくれたね」
「……はい」
「悩みができたら必ず、私の押し入れに入るって」
彼女は空いた手で押し入れの扉を開き、振り向いた。
その瞳は激しく揺れている。
「それであんた。なにを悩んでるの?」
(告白されて返事に迷ってる、って言っても大丈夫かな……)
「まぁ……知ってるけどね」
「えっ――」
そのまま押し入れに引きずり込まれ、扉を閉められた。
暗闇の中、荒い息遣いが近づいてくる。
熱い吐息が、耳にかかった。
「ねぇ…………断ってよ」




