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レベル1冒険者のちょっとだけ冒険譚

作者: 藤岡ブライ
掲載日:2026/01/05


俺が住んでる町の向かいには魔王の城がある。

向かいと云っても魔王の城は高い山に作られていて、更に深い渓谷を挟んで村があるから魔物(モンスター)たちは滅多にやって来なかった。

「この町の近くには森がある。その森の先の沼地の先、そこにある洞窟を抜けると魔王の城がある山に行ける。」

町の老人たちがこの町に来た冒険者やどこかの城の兵隊たちに、いつもそう言っていた。

何人もの冒険者や兵隊たちが挑み…そして、誰一人として帰って来なかった。


16歳を迎えた朝、町の長老が(うち)にやってきて言った。

「この町では16歳を迎えた男子が旅へ出る習わしなんだ。」

そんな習わしは今まで一度も聞いた事が無かったし、何ならお隣の宿屋の兄ちゃんは俺と2歳しか違わないけど町を出たなんて話は見た事も聞いた事も無かった。

俺はその習わしに半信半疑だったし、町の長老と母さんの距離感がちょっと怪しいなーなんて思いつつ、渡された金貨3枚と、物置から引っ張り出した親父の形見の剣を手に町を出た。


初めての外の世界は何もかもが輝いて見えた。

町に居た頃と変わらないはずの日差しも、町に生えてるのと大差が無い木々の露草も、その辺を歩く魔物(モンスター)さえも輝いて見えた。

いや、輝いていたのは…魔法陣だった。俺の意識は途絶えた。


「うひぃぃぃっ!も、モンスタぁーーー!」

気が付くと俺は教会に居た。

俺は一瞬にして何かの魔法で身体を焼かれたはずだったが、どうやら父親の形見の剣には女神の加護が付与されていて、所有者が一撃で死ぬような状況に陥った場合に最も近くにある女神の教会へ転移させる効果があったらしい。

目の前に突然現れた俺を魔物と勘違いしていた町の神父が、剣の秘密をちゃんと教えてくれた。知ってたならもっと前に教えてくれれば…飾ったのに。


「次は死ぬなよ~」

顔見知りの神父に送り出されて町の裏門から再び旅に出た俺は、隣町を目指す事にした。

隣町と云っても道程は険しい。元々は川に立派な石橋が掛かっていて行き来も盛んだったらしいけど、この辺を治める城の討伐隊が魔王に敗北した話を聞いた連中によって破壊されてしまっていた。

そして、位置的に石橋の辺りは隣町に近い。

だから…!

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ハァッ…ここで、し、死ねば…俺は…」

魔物(モンスター)を引き寄せて石橋まで全力疾走した俺は、意識が途切れた。


「うわぁぁぁっ!も、モンスターだーーーっ!」

隣町の教会でもリアクションは同じだった。

現代の魔法において転移魔法なんて高等なものを人間が使えるはずは無いと決め付けているんだろう。

俺は持ち前のコミュ力で事情を説明した所、牢屋に放り込まれた。解せぬ。

「ハァ…これで俺の冒険もおしまいかぁ…」

形見の剣は檻を隔てた向こう側、とてもじゃないけど手足は届かない。手元にあればワンチャン自分に突き刺して教会へ転移(とべた)かもしれないが、ダメだった。


「あんた冒険者?」

隣の牢屋から話し掛けられた。男勝りな声色だけど女の声だった。

「あぁ、そうだよ。」

「アタシは踊り子の『パンジー』。よろしくね!」

「そうか。よろしく。」

「なによ…随分不機嫌ね?よかったら話してごらんよ。」

俺はここまでの経緯を話した。

「つまり…母親が権力目当てで町の長老と再婚したくてアンタを追い出したって事かい?」

「そこかよっ!」

「大事だろー?アンタの冒険の理由だぞ?」

「理由なんてねぇよ…町の習わしだ。な・ら・わ・し!」

と云う事にしておきたい。マジで。切に。


「けど、そっか…じゃあアタシと同じだ。アタシも追い出されたんだよ。」

「そうなのか?」

急に親近感が湧いてきた。

「きっとこの美貌に嫉妬したんだと思うんだけど。」

壁越しだからわかんねぇよ!でもちょっと見たい。

「じゃあなんで今も牢屋に居るんだよ?」

「ちょっとだけミスってねー…財布取り零してさぁ。」

「スリかよっ!」

「アタシみたいな美人に近付けたんだから見物料くらい取ったっていいだろぉ?」

「お前…踊り子ならダンスで金取れよ。」

「祭でやる奴なら得意なんだけどなぁ。」

こいつ…踊り子じゃなくて遊び人じゃねぇか…?


それからも身の上話は続いた。

冒険者パーティの仲間に加わって男たちのやらしい視線を浴びた事や、それを利用して全員に色目を使ってたらパーティが崩壊した事、その後もっと強そうなパーティに加わってたら女賢者に自分のポジションを奪われて追放された事など…ロクな話が聞けなかった。


「なぁ、なんかおかしくないか?」

「ん?何が…?」

「これだけ喋ってても衛兵がひとりも来ないって変だろ?」

「確かに…じゃあ、脱獄しよっか!」

隣の牢屋から光を漏れたと思ったら、檻が吹き飛んだ。

「す、すげぇ…」

「踊りの演出で使う爆発も使い方次第、って事かしらね?」

(ようや)く姿を見られたパンジーは、嘘偽り無く美人だった。整った顔立ちで、スタイルも良い。あまり見ると金を取りそうだからチラ見だ。

「さてと、下がって?アンタも逃がしてあげるよ。」

俺が下がる間も無く檻が爆破された。

「おいっ!殺す気かっ!」

「あれ?死んでも教会に飛べるんでしょ?」

「それは武器のお陰なの!そう話しただろ…」

「そうだっけ?ま、いいじゃん。生きてるし。」

「まぁ…でも、助かった。ありがとう。」

「えへへ…どういたしまして!」

普通にしてれば可愛いと思う。マジで。


牢屋を抜け出しても衛兵の姿は無かった。結構な爆発音だったはずだけど誰ひとり来なかった。

「やっぱおかしい…どうなってんだ?」

「わかんない。けどそんなのどうでもいいよ。早く逃げよ。」

「そ、そうだな…」

詰所を出て広場の方に出ると、そこには魔王軍の姿があった。町の人たちも殆どが集められて、真ん中に座ってる感じだ。

俺もパンジーも咄嗟に身を潜めた。

「何してんだろ?」

「さぁね。ただ、俺は神父に魔物(モンスター)と間違えられて捕まったから、ここが魔王に友好的な町って訳じゃないと思うけど…」


「そこに居るのは誰だッ!」

油断した。光の弾が俺に向かって飛んでくる…しかし、見える事と反応できる事は別の話。俺の意識が途切れた。


気が付くと教会に居た。

「しまった!」

俺はパンジーを置いてきてしまった。

「腕とか掴んでたら一緒に飛べたかもしれないのに!」

どうする…?ここは女神像がある教会だ。聖なる力で魔物(モンスター)を寄せ付けないかもしれない。

つまり、ここに居れば俺は助かる可能性がある。

だけど…


俺はパンジーの顔が(よぎ)った。決して美人だったからでは無く、牢屋から出してくれた恩が返せて無いからだ。性格的にも後で何を言い出すかわからない。

俺はパンジーを助けに行く事にした。


町の広場にはまだ魔王軍の兵隊たちが居た。

「おいっ!」

こうなればヤケだ!どうせ教会に戻るんだからコソコソしたって仕方が無い。

「ほう…?てっきり逃げ出したと思ったが、仲間を助けに来たと言う事かな?」

「そ、そうだ…っ!」

「だが、その仲間ならそこで我が軍勢に媚びておるぞ?」

「な、なにィ~…!?」

俺が思ってた以上にパンジーは生きる事に対してプライドが無かった。

「その…残念、だったな。」

「魔王に言われても悔しくないぞ!」

「ほう?なぜ私が魔王だとわかった?さては貴様…」

「いや、さっき"我が軍勢"って言ったから。」

「あっ…」

魔王の顔が真っ赤になった。どうやらドジっ子らしい。そして、よく見たら女の子だった。


ヒソヒソ…ヒソヒソ…

魔王のリアクションを見た町人たちがざわめき始めた。魔王も心成しか涙目になっている。

マズイ、俺のせいで町が壊滅するかもしれない。

「わ、悪かった!俺が全部悪いっ!この通りっ!」

俺は必死に頭を下げた。

「…許すっ。我は寛大な、魔王だからな…っ!」

ズズッと鼻水を(すす)りながら魔王らしさを見せていた。

もう緊迫した空気は吹き飛んでいた。


「あのぉ~?魔王様?そろそろお時間が~…」

お付きの骨が魔王に何かを知らせた。

「おぉ…そうだったな…うん。今日はこの辺にしといてやろう!」

魔王の軍勢は一瞬にして姿を消した。結局、何しに来たのかわからない始末だった。

「何だったんだ?」

「さぁ?」

俺もパンジーも、町の人たちも呆気に取られていた。

「あっ。」

「ん?何?」

「逃げるぞ…!」

俺はパンジーの腕を掴んで町を出た。


ふたりは町を出て魔王城から更に遠ざかった。その辺に居る魔物(モンスター)も弱そうな見た目なのが増えた。

「見付からずに出られたな…」

少し呼吸を整える。体力の無さも実感してる。

「そうね。ナイスタイミングだったわね。」

「それで、パンジーはこれからどうするんだ?」

「そうだなぁ…アンタとなら一緒に旅してあげてもいいよ?助けてくれたしね。」

踊り子の魅力的な衣装でそんな事を言われると町から追い出されて良かったとさえ思えてくる。俺が居た町にこんな美人は居なかった。

「そ、そうだな…!ひとりで旅ってのも寂しいし、な!うん!」

「プッ…もしかして照れてんの?」

「なっ…!」

「あ、経験ないんだ?女の子と一緒とか!」

「うるさいっ!」

俺はひとりで歩き出した。

「町には、お前みたいな美人居なかっただけだよっ!」

「っ…!ねぇ!それ口説いてんの?ねぇ?ねぇってば!」

腕に当たる感触はきっと気のせいだ。

「ま、まずは旅費を稼がないとな!」

「ちょっと!誤魔化さないでよぉ!あたし美人?ねぇねぇ、ちょっとぉ♡」

若干ウザさを感じつつ俺…たちは新しい街についた。


「大きな街だなぁ…」

そこは人の行き来も盛んで、都会って感じがした。

「この辺じゃここが一番大きな街だよ。冒険者や商人の為の組合(ギルド)もあるから短期とか単発の仕事には困らないけど…」

「そもそも俺、初期の技能も無いから仕事受けられないと思うぞ?」

「え?なんで?」

「だって俺、魔王城から離れるように冒険してきたし。」

「あっ。そっか。最後の町の出身だっけ?」

「そう、それ。目の前に魔王城があって出てくる魔物(モンスター)も歴戦の猛者すぎるから経験なんて積めない町。」

「よく生きて来れたね?」

「生きては来れて無いぞ。」

「…そっか。そうだったね。」


「これからどうすんの?」

「…頼む!手伝ってくださいっ!」

俺は未だに初心者冒険者だ。対してパンジーはベテラン…だよな?少なくとも俺より経験が上なのは確かだし、色々と教わりたい。

「パンジーのレベルで受けられる仕事を手伝う形で…頼むっ!」

「わかった。わかったって!そんな(すが)りつかなくても協力するってばぁ!」

俺は、通算三つ目の街で(ようや)く冒険者としてスタートする事ができた。

この後も…俺だけ教会に転移してパンジーが野盗にぐへへされかけたり、装備を溶かすタイプのスライムに襲われて葉っぱを装備する羽目に遭ったり、宿屋に泊まる時に勘違いした女将さんがダブルベッドの部屋を用意したりしたけど、短編だから書くスペースが無いな!残念ッ!



ちょっとだけ登場人物紹介

・俺…町を追い出された男。父親の形見の剣のお陰でちょっとだけ勇者っぽい。現在レベル3。

・踊り子パンジー…自称踊り子の遊び人。ちょっとだけ魔法が使える。現在レベル18。

・魔王…あらゆる魔法を極めた天才魔族。ちょっとだけドジでポンコツ。現在1100歳(人間年齢だと11歳)。

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