表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「顔が好み」で勇者にしてあげたのに、裏切られたのでラスボスになります  作者: さらん
第一章『寵愛(ちょうあい)の勇者、憎悪(ぞうお)の反転』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/22

第九話:『白銀の勇者』の凱旋


初陣で命を奪うことへの一線を越えた神崎湊は、堰を切ったようにその才能チートスキルを開花させていった。

ゴブリン討伐から三日後。


「王都近郊街道に出没する、オーガの群れの討伐」


ミナトは騎士団と共に現場へ急行した。


「ミナト様、オーガはゴブリンとは比較にならぬ怪力を持ちます! 魔法での撹乱を……!」


騎士団長の言葉が終わる前に、ミナトは馬から飛び降り、オーガの群れへ単身突っ込んでいた。


『身体能力超強化』。

常人の何十倍もの速度で疾走するミナトの姿は、オーガたちの鈍重な目には捉えられない。


「『雷槍ライトニング・スピア』」


詠唱破棄で放たれる中級魔法が、一体のオーガを貫く。


「GUOOOOH!?」


仲間が倒れたことに気づいたオーガが巨大な棍棒を振り回すが、ミナトはそれを嘲笑うかのように身をかがめて回避し、すれ違いざまに剣を一閃。オーガの太い脚を腱ごと断ち切った。


『超速成長』スキルは、戦いの中でさえミナトの動きを最適化していく。初陣での戸惑いは完全に消え失せ、そこにはただ、効率的に敵を無力化する「戦士」の姿があった。


騎士団が到着した時には、十体近くいたオーガの群れは、ミナト一人によって無力化され、積み上がっていた。


その一週間後。


「北の山道に立てこもる、盗賊団の壊滅任務」

「ミナト様、今回は敵も人間です。殺さず、捕縛を……」


国王の温情ある指示だったが、ミナトは冷静に首を振った。


「いえ、陛下。彼らはすでに商人や旅人を何人も殺めています。抵抗する者は、斬ります」


その瞳には、もはや高校生だった頃の面影はなく、命を背負う者としての覚悟が宿っていた。

アジトへの突入。


「なんだテメェ!」

「ヒャッハー! 女かと思ったらガキじゃねえか!」


下品な笑みを浮かべた盗賊たちが襲いかかるが、彼らの錆びた剣がミナトに届くことはない。

ミナトは、もはや魔法すら使わなかった。ただ、圧倒的な剣技のみで、盗賊たちを次々と打ち倒していく。


峰打ちで気絶させる者もいたが、殺意を持って向かってくる者には、容赦なく白銀の剣が閃いた。

騎士団が突入した時には、アジトは静まり返り、ミナトが血振り(ちぶり)をしているところだった。


「ワイバーンの撃退」「リザードマンの巣の掃討」「アンデッドの浄化」……。


ミナトは、国王から出される任務を、まるでゲームのクエストをクリアするかのように、完璧に、そして驚異的な速度でこなしていった。


『超速成長』スキルは、戦闘経験値(EXP1000倍)を吸収し、ミナトのレベルを爆発的に上昇させ、それに伴い、彼の身体能力と魔力は底なしに増強されていった。


彼の活躍は、もはや王城の中だけで収まるものではなくなった。

ミナトが救った村人たち、彼に同行した騎士たち、そして任務の報告を受ける冒険者ギルド。それらの場所から、噂は燎原りょうげんの火のごとく王都中に広まっていった。


「おい、聞いたか? 最近現れた『白銀の勇者様』の話を」


王都の酒場。冒険者や商人たちが、興奮気味にグラスを傾ける。


「ああ、知ってるぜ! あのオーガの群れを、騎士団が着く前に一人で全滅させたって話だろ?」

「いやいや、俺が聞いたのはもっとすげえ。北の盗賊団『赤蛇』を、たった一人で壊滅させたらしい。あの騎士団長殿が『我々は後片付けに行っただけだ』と苦笑いしてたそうだ」

「なんでも、女神セレスティーナ様が直々に遣わされた、本物の『勇者』様らしいぞ」

「しかも、とんでもない美男子だとか!」


噂は噂を呼び、ミナトの活躍は尾ひれがついて英雄譚へと変わっていった。


『白銀の勇者ミナト』

(彼が振るう白銀の剣と、上質な白い戦闘服に由来する)


その名は、当初の「王城に来た客人」という扱いから、急速に「王国最強の守護者」「魔王を討伐する希望の光」へと変わっていった。


「ミナト様、素晴らしいご活躍ですわ!」


王城に戻るたび、リリアーナ王女は瞳を輝かせてミナトを出迎えた。


「あなた様の噂で、王都は持ちきりです! まるで、建国神話の英雄のようですわ!」

「……大げさですよ、リリアーナ様」


ミナトは、自分の名声が広まっていくことに戸惑いを覚えつつも、悪い気はしなかった。

むしろ、心地よかった。


(俺が……英雄?)

教室の隅で、存在を消すことだけを考えていた自分が?

人々から称賛され、感謝され、希望の象徴として語られている。


「……もっと強くならなきゃな」


ミナトは、腰の剣を強く握りしめた。

自分を虐げた者たちへの復讐心ではない。自分を依怙贔屓えこひいきする女神のためでも、熱烈な視線を送る王女のためでもない。


ただ、自分に向けられるこの「期待」と「称賛」が、彼を突き動かす新たな原動力となり始めていた。

神崎湊は、もはや完全に『勇者ミナト』として、この世界に覚醒していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ