最終話(エピローグ):名もなき世界で、君と
女神の消滅と、システムの崩壊から一年。
世界は、劇的に変わった。
最初の数ヶ月は大混乱だった。食料不足、疫病、暴動。
だが、人間は強かった。
魔法に頼っていた文明が崩れると、人々は泥にまみれ、知恵を絞り、自らの手で畑を耕し、家を建て直した。
その復興の中心にいたのは、かつて「無能」の烙印を押され、辺境に捨てられた高校生たち――ミナトのクラスメイトたちだった。
「おーい! 高橋建設! 西区の用水路工事、終わったかー?」
「おうよ! コンクリの配合、完璧だぜ!」
王都アルカディアの下町。
作業着姿の高橋が、汗を拭いながらサムズアップする。
彼らが地球の知識(と、農奴時代の経験)を活かして作った「上水道」と「コンクリート」は、魔法なき世界の新たなインフラとなっていた。
「……たくましいな、あいつらは」
丘の上からその様子を眺める、一人の青年がいた。
神崎湊だ。
かつての黄金のオーラも、圧倒的な魔力もない。
今はただの、少し剣が上手いだけの青年。背中には、大量の荷物(復興資材)を背負っている。
「サボってると、リリアーナ様に怒られますよ?」
後ろから、おにぎりを差し出す少女がいた。
田中美咲だ。
彼女もまた、ギルドの制服ではなく、動きやすい作業服を着ている。今は、孤児院の先生兼、ミナトの補佐役だ。
「分かってるよ。……でも、悪くない景色だろ?」
ミナトはおにぎりを受け取り、頬張った。
「スキルがあった頃より、みんな良い顔をしてる」
「ええ。……神様の『役』じゃなく、自分で選んだ生き方ですから」
美咲は、ミナトの横に並び、風に吹かれた。
「ミナト様は、これからどうなさるんですか? 国王陛下は『宰相になってくれ』って言ってますけど」
「勘弁してくれ。俺はガラじゃない」
ミナトは苦笑した。
「俺は、世界を見て回ろうと思う。……システムが消えて、まだ混乱してる国がたくさんある。俺の『知識』と『剣』で、少しは手助けできるかもしれない」
「……ふふ。やっぱり、『勇者』様なんですね」
「よせよ。ただの『便利屋』だ」
ミナトは荷物を背負い直した。
「田中さんはどうする? ここに残るか?」
美咲は少し驚いた顔をして、それから悪戯っぽく笑った。
「置いていく気ですか? ……私の『状態異常』を治せるのは、世界で貴方だけなんですよ?」
「……それ、もう完治してるだろ」
「心の傷がまだなんですー。責任取ってください」
美咲は、ミナトの腕にギュッと抱きついた。
その体温は、確かに温かい。
システム上の数値ではない、生きた人間の温度。
「……しょうがないな」
ミナトは、まんざらでもなさそうに笑った。
「おーい! 神崎ー! 田中ー!」
下から、高橋たちが手を振っている。
「行くのかー! 土産話、期待してるぞー!」
「死ぬなよー!」
「達者でなー!」
ミナトは振り返り、一度だけ大きく手を振り返した。
空は青い。
かつて赤紫の雲に覆われていた空は、今はどこまでも透き通っている。
神はいない。
レベルもない。
正解のルートも、約束されたハッピーエンドもない。
だけど、道はどこまでも続いている。
「行こうか」
「はい!」
二人は歩き出した。
ステータスのない、名もなき世界へ。
自分たちの足跡(物語)を刻むために。
(『「顔が好み」で勇者にしてあげたのに、裏切られたのでラスボスになります』 ――完)
最後まで『「顔が好み」で勇者にしてあげたのに、裏切られたのでラスボスになります』をお読みいただき、本当にありがとうございました!
ミナトたちの物語は、ここで一旦の完結となります。
理不尽な神による支配を、バグ(裏技)でひっくり返すというテーマ、楽しんでいただけましたでしょうか?
彼らが勝ち取った自由な世界が、これからどう発展していくのか、想像していただければ幸いです。
そして……ここで【重大発表】です!
ミナトが異世界で派手に暴れ回り、神様を倒してしまった件。
実は、これを見ていた「別の神様」がいました。
それは、ミナトを勝手に連れ去られた「地球の管理者(神様)」です。
「ウチの大事な人材を勝手に引き抜いて、しかも返さないとは何事だ!」と、地球の神様はブチギレました。
その怒りの矛先は、同じように地球人を無断召喚している、別の異世界の神へと向けられます。
「二度と地球に手出しできないよう、貴様の世界を”内側”から崩壊させてやる」
地球の神が刺客として選んだのは、理を変える勇者ではありません。
ゲームの最速クリアを目指す、「RTA走者」です。
【新連載予告】
『地球の神様、ブチギレにつき。 ~RTA走者は、完璧主義の神の世界を”最速”で攻略(荒ら)します~』
来週、12月26日(金)より連載スタート!
今度の敵は、自分の作ったストーリーに絶対の自信を持つ「完璧主義の神」。
そんな面倒くさい世界を、効率厨の主人公が「イベントスキップ」や「バグ技」で台無しにしながら爆走します。
ミナトの物語と世界観がつながっている新シリーズ。
ぜひ、楽しみにお待ちください!




