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「顔が好み」で勇者にしてあげたのに、裏切られたのでラスボスになります  作者: さらん
第二章『神に見捨てられた国』

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第五十九話:星の管理者、システム・セレスティーナ


光の扉を抜けた先に広がっていたのは、無機質な塔の内部とはかけ離れた光景だった。

色とりどりの花が咲き乱れ、清らかな小川が流れる、美しい「天空の庭園」。

その中心に、優雅なティーテーブルが置かれている。

そこに、彼女はいた。

黄金の髪、透き通るような白磁の肌、背中には虹色に輝く六枚の翼。

この世界を創造し、支配し、そして玩具おもちゃにしてきた神。

女神セレスティーナ。

彼女は、血と泥にまみれたミナトを見ても、眉一つ動かさず、ティーカップを傾けていた。


『ようこそ、わたくしの箱庭へ』


鈴を転がすような、美しい声。


『思ったより早かったですね。……ゴミ掃除(教皇殺し)、ご苦労様でした』

「……ゴミ、か」


ミナトは、ギリッと歯を噛み締めた。


「あいつはお前の信者だった。お前のために怪物になって、死んだんだぞ」

『ええ。ですから「役に立った」と褒めているのです』


女神は、きょとんとした顔で言った。


『道具は使ってこそでしょう? 壊れたら捨てる。……何かおかしくて?』


話が通じない。

魔王ギルガメスが言っていた「諦め」の意味が分かった気がした。

この女にとって、生命はデータや部品と同じなのだ。


「……もういい」


ミナトの全身から、凄まじい魔力が噴き上がる。


「お前の理屈なんて聞きたくない。……ここで終わらせる!」


ドンッ!!

ミナトは初手から全開だった。

スキル『身体能力超強化』×『神速』。

音速を置き去りにする速度で、ティーテーブルごしに女神へと肉薄する。

必殺の距離。


「『一閃』!!」


白銀の刃が、女神の細い首をねる軌道を描く。

当たれば終わる。

だが。


キンッ。

硬質な音が響き、ミナトの剣が「空中で」止まった。

女神の肌に触れる数センチ手前。

見えない壁があるわけではない。まるで、そこだけ「空間が固まっている」かのような感触。


『……野蛮ですね』


女神は、ため息をつきながら指先を振った。


『「物理攻撃」――削除デリート

「なッ!?」


ミナトの剣から、衝撃と運動エネルギーが「消失」した。

勢いを失った剣は、ただの鉄の棒のように力なく垂れ下がる。

直後、見えない力でミナトの体が弾き飛ばされた。


「ぐっ……!?」


花畑を転がり、受け身をとる。


(なんだ、今のは? 防御魔法じゃない……ルールそのものをイジられた!?)


『勘違いしないでくださいね、ミナト』


女神が椅子から立ち上がる。


『貴方が今まで使っていた「スキル」も、「魔法」も、「ステータス」も。……すべて、わたくしが作ったシステムの上で動いている「プログラム」に過ぎません』


女神が手をかざすと、空間に無数の「ウインドウ」が出現した。

そこには、羅列された文字列――この世界の法則を記述したコードが表示されている。


管理権限アドミニストレータ。……わたくしが「当たらない」と設定すれば、貴方の剣は永遠に届きません』

『わたくしが「燃えろ」と記述すれば、火種がなくても世界は燃えます』

「……そんなの、無敵じゃないか」


「チート」どころの話ではない。

ゲームのキャラクターが、ゲームマスターに勝てるわけがない。


『ええ、無敵ですわ』


女神は微笑んだ。


『だからこそ、退屈だったのです。……何度世界をリセットしても、同じ結末。魔王が勝ち、人間が滅び、また作り直す』


彼女の瞳が、冷酷な光を帯びてミナトを射抜く。


『ですが、貴方は違いました』

『わたくしの想定を超えて成長し、本来ありえない「バグ(不具合)」を起こした』

『だから、ここまで導いたのです。……鍵を渡し、殺させ、絶望を与えて。貴方がどこまで「システム」に抗えるかを見るために』


女神は、右手を高く掲げた。

その掌に、極大の、太陽のごとき光球が出現する。

魔法ではない。純粋なエネルギーの塊。

これ一発で、大陸の一つや二つは消し飛ぶだろう。


『さあ、見せてごらんなさい?』

『管理者(神)の権限か、バグ(貴方)の意地か』

『テストプレイは終わりです。……ここからは、「削除デリート」のお時間ですわ』


ゴオオオオオオッ!!

光球が膨れ上がり、天界の庭園が震える。

圧倒的な「次元」の差。

ミナトは、剣を握り直した。

勝機は見えない。理屈も通じない。

だが、彼には一つだけ、女神が計算できていない「武器」があった。


(……プログラムだって言うなら)

(そのバグで、システムごと食い破ってやるよ)

ミナトの瞳が、黄金に輝く。


『ステータス改竄リライト』のさらに先。

自身という存在を賭けた、最後のチートが発動しようとしていた。


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