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「顔が好み」で勇者にしてあげたのに、裏切られたのでラスボスになります  作者: さらん
第二章『神に見捨てられた国』

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第五十話:刃(やいば)の雨、砕く一閃


「グググ……!」


四天王ベルセルクは、全身の刃を擦り合わせ、不快な金属音を鳴らした。


「東のロキが敗れただと……? あの老骨、女神の結界まで持っていながら、貴様ごときに!」

「あいつは道具ギミックに頼りすぎた」


ミナトは、白銀の剣をだらりと下げたまま、ベルセルクを見据える。


「お前はどうだ? その体も、女神のドーピング頼りか?」

愚弄ぐろうするか!」


ベルセルクが激昂する。


「我は『斬撃』の化身! 女神の『神の雫』は、我が刃を絶対切断の神具へと昇華させたのだ!」

「見よ!」


ベルセルクが腕を振るう。

ヒュンッ!

見えない斬撃が走り、ミナトの背後にあった巨大な岩山が、音もなく斜めにズレ落ちた。

断面は鏡のように滑らかだ。


「ヒッ……!」


高橋たちが悲鳴を上げて縮こまる。あんなものを食らえば、防御など意味がない。


「勇者よ! 貴様の剣ごと、その体、薄切りにしてくれるわ!」

「……下がってろ」


ミナトは、高橋たちに短く告げると、一歩前へ出た。


「来いよ。なまくら」

「死ねェェェェッ!!」


ベルセルクが突進する。

その全身から無数の刃が飛び出し、回転し、まさしく「歩くミキサー車」のような殺戮兵器となってミナトに襲いかかる。


四方八方、逃げ場のない刃の嵐。

だが。

ミナトの目には、その全てが「止まって」見えていた。


(……遅い)

洞窟の中で、自分自身の幻影と戦った時の絶望感に比べれば、目の前の刃など、ただの物理現象に過ぎない。


ミナトは、嵐の中に身を投じた。

キンッ、キンッ、キキキンッ!

火花が散る。


「な、なに!?」


ベルセルクが驚愕する。

ミナトは、嵐のような斬撃の全てを、最小限の動きで「弾いて」いた。

剣の腹で、刃の側面を叩き、軌道を逸らす。

あるいは、紙一重でかわす。

数千の刃が彼を襲っているのに、ミナトの服のすそひとつ、切り裂くことができない。


「バ、バカナ……! 我が神速の刃を、目視しているというのか!?」

「言ったろ」


ミナトは、ベルセルクの回転する刃の隙間に、スッ、と踏み込んだ。


道具チートに頼った力じゃ、俺には届かない」

「ヌオオオオオッ!! ならばこれだ!!」


ベルセルクは、全身の刃を一点――右腕に集中させた。

女神の神聖力が赤黒く輝き、空間ごと断ち切るような、巨大な一本の「魔剣」を形成する。


「『断界の大剣ワールド・スライサー』!!」


防御不能、回避不能の最大火力。


「ミナト、逃げろ!!」


高橋が叫ぶ。

だが、ミナトは逃げなかった。

逆に、さらに踏み込んだ。


「……合わせるぞ」


ミナトの剣に、静かな、しかし膨大な魔力が収束する。

派手な光刃レイ・ブレードではない。魔力を極限まで圧縮し、剣の強度と切れ味だけを極限まで高める。


「『一閃いっせん』」


振り下ろされる巨大な魔剣と、ミナトの白銀の剣が、正面から衝突した。


キィィィィィィィィィン……!!!

甲高い音が、鼓膜をつんざく。

一瞬の拮抗きっこう

そして。


パキッ。

乾いた音が響いた。

砕けたのは――ベルセルクの「魔剣」の方だった。


「ア……?」


ベルセルクの腕が、刃ごと粉々に砕け散る。

ミナトの剣は、そのままの勢いでベルセルクの胴体を駆け抜けた。


ズバァァァァン!!

衝撃波が背後に抜け、雲を割る。


「ガ……ア……ッ!?」


ベルセルクは、自分の体が左右にズレていく感覚に、言葉を失った。


「我が……刃が……負け……」

「お前の刃は軽すぎる」


ミナトは、剣を振って血糊を払い、さやに納めた。


「背負ってるもんがない剣じゃ、俺の『意地』は切れない」


ベルセルクの上半身が地に落ち、爆散して消滅した。

南の脅威、排除完了。


「…………」


圧倒的な静寂の中、ミナトは振り返った。

そこには、口をあんぐりと開け、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした高橋たちがいた。


「……無事か?」


ミナトが尋ねる。

高橋は、へなへなと腰を抜かし、それでも必死に頷いた。


「あ、ああ……。すげえ……。お前、マジですげえよ……」

「お前らのおかげだ」


ミナトは、ボロボロになった高橋の肩に手を置いた。


「お前らが時間を稼いでくれなかったら、村の人たちは助からなかった。……よくやったな」


その一言に、高橋だけでなく、他の元クラスメイトたちも、せきを切ったように泣き出した。

恐怖からの解放と、そして何より、「自分たちが役に立った」という事実が、彼らの腐っていた自尊心を救い上げたのだ。


「……あと一箇所だ」


ミナトは、西の空を見上げた。


「西の港町には、まだ敵がいる。……ここを頼めるか?」

「お、おう! 任せとけ!」


高橋が、涙を拭って立ち上がる。


「残りの魔物の掃討と、避難誘導は俺たちがやる! お前は……行ってこい!」

「ああ」


ミナトは頷き、再び空へと舞い上がった。

東と南を制圧。残るは一つ。

西の港町リゼル。そこには、四天王最後の一人、妖艶な策士『幻惑のカーミラ』が待ち受けている。

だが、ミナトはまだ知らなかった。


最後の敵が、「力」や「刃」ではなく、人の心を操る「幻惑」の使い手であることを。

そして、その西の戦場には、まだミナトが再会していない「あの大切な人」がいる可能性があることを。


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