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「顔が好み」で勇者にしてあげたのに、裏切られたのでラスボスになります  作者: さらん
第二章『神に見捨てられた国』

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第四十八話:『理(ことわり)』の抜け穴


「ガ……ッ、ア……ッ!」


ミナトの体は、地面を転がり、泥と血にまみれていた。

四天王ロキが放つ魔弾は、骨を砕き、肉をえグる。

スキル『自動回復』も『身体能力超強化』もない生身の肉体にとって、それは耐え難い激痛だった。


「フォッフォッフォ! どうしました、英雄殿!」


ロキは、空中から愉悦ゆえつに満ちた声を降らせる。


「踊れ、叫べ! その無様な姿こそ、人間にはお似合いですぞ!」


ドシュッ!

魔弾が左肩を貫く。ミナトは悲鳴を噛み殺し、岩陰に滑り込んだ。


(……クソッ)

息が上がる。視界がかすむ。

これが、ただの人間であることの「痛み」と「もろさ」か。


(魔法は使えない。体は鉛みたいに重い)

(剣で斬りかかろうにも、あいつは空にいる)

(……詰み、か?)

いや、とミナトは奥歯を砕けんばかりに噛み締めた。


(諦めるな)

(俺は、開拓地で誓ったんだ。女神あいつのシナリオをへし折ると)

ミナトは、必死に思考を巡らせた。

この『神縛りの檻』は、完成品だ。物理的な隙間はない。

だが、その効力は「女神由来のスキルとステータスを封じる」こと。


(……逆に言えば、それ以外は封じられていない)

ミナトは、震える手で、虚空に触れた。


「……『アイテムボックス』」


亜空間が開く。


(……開いた!)

これはスキルの一種だが、女神のギフトではなく、勇者が携行する「道具」に近い扱いなのか、あるいは空間魔法の亜種だからか、機能は死んでいなかった。


(中にあるのは……食料、水、ポーション、着替え……)

(そして、王城の宝物庫から拝借した、予備の武器と防具)

だが、武器を取り出したところで、ロキに届かなければ意味がない。ポーションを飲んでも、この結界内では回復効果が阻害されるのは経験済みだ。

その時。

ミナトの指先が、アイテムボックスの奥底にある「ある物」に触れた。

それは、彼が王城の倉庫を整理していた時に、「何かに使えるかも」と放り込んでおいた、何の変哲もない生活雑貨だった。


(……これだ)

ミナトの脳裏に、一つの賭けがひらめいた。

成功率は低い。だが、ただ殺されるのを待つよりはマシだ。


「……出てきなさい、元・勇者」


ロキが、岩陰に隠れたミナトに向かって杖を構える。


「隠れても無駄ですよ。この一撃で、岩ごと消し飛ばして……」

「隠れてなんか、いない!」


ミナトは、岩陰から飛び出した。

その手には、剣ではなく、何も握られていない。


「ヤケになりましたか。……死になさい!」


ロキが、最大級の魔弾を放とうとした、その瞬間。


「食らえッ!!」


ミナトは、アイテムボックスを全開にし、中身を「解放」した。

彼が取り出したのは、武器でも、魔法道具でもない。

大量の「小麦粉」の袋だった。


「は……?」


ロキが呆気にとられる間に、ミナトは剣で袋を切り裂きながら、空中にばら撒いた。

白い粉塵ふんじんが、爆発的に舞い上がり、ロキの視界を白く塗り潰す。


「粉!? ……馬鹿な、目くらましのつもりですか!」


ロキは嘲笑あざわらい、風魔法で粉を払おうとした。

だが、ミナトの狙いは、目くらましではなかった。

ミナトは、粉塵の中に、小さな「火種」――火打ち石で着火した布切れを投げ込んだ。


物理法則。

それは、女神のスキルが支配するこの世界においても、決して揺るがない絶対の法則。

密閉された空間(結界内)。充満する可燃性の粉塵。そして、火種。

条件は、揃った。


「――『粉塵爆発』」


ズガアアアアアアアアアアアンッ!!!!

凄まじい爆発音が、戦場を揺るがした。

魔法による爆炎ではない。化学反応による、純粋な熱と衝撃の暴力。


「な、グオオオオオッ!?」


予期せぬ至近距離からの爆発に、ロキが吹き飛ばされる。

魔法障壁を展開していたが、爆風の衝撃までは殺しきれない。

そして。

ロキの手から、あの紫色の水晶――『神縛りの檻』の核が、衝撃で弾き飛ばされた。


「しまっ……!」


ロキが手を伸ばす。

だが、その一瞬の隙を、ミナトは見逃さなかった。

爆風に煽られ、地面に転がりながらも、ミナトは、右手に握りしめた「ミスリルの剣」を、渾身の力で投擲とうてきしていた。

狙うは、ロキではない。

宙を舞う、紫色の水晶。


「――砕けろォッ!!」


剣は、回転しながら空を切り裂き、吸い込まれるように水晶へと直撃した。


パリーンッ!!!

硬質な破砕音が響き渡る。

紫色の光が霧散し、空を覆っていたドーム状の結界が、ガラス細工のように崩れ落ちていく。


「……あ」


ロキの顔色が、絶望に染まる。


「……戻った」


ミナトは、地面に伏せたまま、拳を握りしめた。

鉛のように重かった体が、羽のように軽い。

枯渇していた魔力が、奔流となって全身を駆け巡る。

背中の傷が、肩の傷が、一瞬で塞がっていく。


『神縛り』は、消滅した。

そこにいるのは、手負いの人間ではない。

Sランク魔獣すら瞬殺する、最強の『勇者』だった。


「ひ……」


ロキは、震えながら後ずさった。


「ば、馬鹿な……! 魔法もスキルも使えない人間が、粉と火だけで……!」


ミナトは、ゆらりと立ち上がった。

その瞳は、冷たく燃えていた。


「……女神おまえらのボスに教わらなかったか?」


ミナトは、瞬時にロキの背後へと移動した。


「人間は、道具を使う生き物だ」

「ヒッ!?」

「『知恵』と『泥臭さ』を、舐めるなよ」


ミナトの手刀が、閃く。


「『一閃』」


ロキの首が飛ぶのと、彼の体が崩れ落ちるのは、同時だった。

東の戦場。

絶望的な罠を、ミナトは「人間の力」だけで突破した。


だが、まだ終わりではない。

西と南には、まだ仲間たちが残っている。

ミナトは、休む間もなく、次の戦場――西の空へと飛び立った。


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