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「顔が好み」で勇者にしてあげたのに、裏切られたのでラスボスになります  作者: さらん
第一章『寵愛(ちょうあい)の勇者、憎悪(ぞうお)の反転』

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第十八話:『英雄』の乱戦


国王アルトリウスとの「決裂」から二日。

神崎湊は、自室にこもり続けていた。

侍従のセバスが食事を運んでくるが、ほとんど手をつけていない。

リリアーナ王女が心配して何度も訪ねてきたが、「一人にしてほしい」と、ドアを開けることすらしなかった。


ミナトの頭の中は、開拓地のこと、そして国王の嘘でいっぱいだった。


(なぜだ。なぜ、俺に隠す)

(俺がそんなに信用できないのか? それとも、知られたらよほど都合が悪い事実が、あの開拓地にはあるのか?)

(今すぐ、城を飛び出して、確かめに行きたい。だが……)

彼の部屋の外には、国王の「配慮」という名の、見張りが立つようになっていた。

騎士団長直属の、近衛騎士だ。


「勇者様は連戦でお疲れだ。何人たりとも、お休みを妨げてはならぬ」


という名目で、ミナトの行動は、王城によって完全に監視下に置かれていた。


(……俺は、飼われているのか)

『勇者』という名の、都合のいい『剣』として。

その疑念が確信に変わった時、ミナトの心は、王家に対して完全に冷え切った。


三日目の朝。

ついに、国王自らがミナトの部屋を訪れた。


「ミナト殿。顔色が優れんな」

「……陛下」

「十分休めただろうか? 実は、君にしか頼めぬ、緊急の任務が発生した」


ミナトは、国王の目をまっすぐに見返した。


(まだ、俺を使う気か)

(俺が何も気づいていないとでも?)


「……承知しました」


ミナトは、感情を殺して頷いた。

任務は、「王都近郊の山道に、大規模なハーピーの巣が発生。Aランクの『ハーピー・クイーン』が率いており、騎士団の先遣隊が苦戦している」というものだった。


「ミナト殿。先日のような『ミス』は、許されんぞ」


国王は、釘を刺すように言った。


「……わかっています」


山道には、すでに騎士団が防衛線を張っていたが、空からの無数のハーピーの攻撃に、防戦一方だった。


「勇者様! お待ちしておりました!」


騎士団長が、盾で空からの攻撃を防ぎながら叫ぶ。


「ミナト様、敵の数は100を超えます! クイーンはあの岩山の頂上に……! まずは、我らと共に雑魚を掃討し、道を……!」


ミナトは、その指示を、無視した。


「……邪魔だ」

「え?」

「そこをどけ、騎士団長」


ミナトは、馬から飛び降りると、一人でハーピーの群れのど真ん中に躍り出た。


「ミナト様!? ご無謀な!」


(うるさい)

(うるさい、うるさい、うるさい!)

ミナトの頭の中は、苛立ちで満ちていた。

国王への不信感。クラスメイトへの罪悪感。そして、身動きが取れない自分自身への焦燥感。

その全てが、目の前の「敵」に向けられた。


「Kiiieeee!!」

数十羽のハーピーが、獲物ミナトを見つけ、一斉に急降下してくる。


『白銀の勇者』の戦いは、常に「華麗」だった。

最小の動きで敵を屠り、最適な魔法で一掃する。それが彼の戦い方だった。


だが、今のミナトは違った。


「『ファイアボール』」


ミナトは、中空に向かって、ただ、呟いた。

放たれたのは、彼が初陣でゴブリンを焼いた時のような、小さな火球ではない。

スキル『全属性魔法適性(最上級)』によって極限まで増幅され、圧縮された、家ほどの大きさの、灼熱の「火球メテオ」だった。


「――ッ!?」


騎士団長が、息を呑んだ。

ミナトは、味方(騎士団)がまだ防衛線を張っている、そのすぐ上で、躊躇なく、最大火力の魔法を放ったのだ。


ゴオオオオオッ!!

空が、焼けた。

急降下してきたハーピーの群れは、悲鳴を上げる間もなく、その半数が一瞬で蒸発した。


「ば、馬鹿な……!?」

「防げ! 爆風が来るぞ!」


騎士たちは、敵ではなく、味方ミナトが放った魔法の余波から身を守るために、必死で盾を構えた。

岩肌が溶け、熱風が吹き荒れる。


「KIIIIAAAAA!!」


岩山の頂上。生き残ったクイーンが、怒りに震え、ミナトめがけて突進してくる。


「……」


ミナトは、それを、冷たい目で見上げていた。


(……まだ、足りない)

ミナトは、剣を抜かなかった。

ただ、両手を空に掲げる。


「『雷槍ライトニング・スピア』」


それは、一本の槍ではなかった。

空が、ミナトの魔力に呼応し、数十、数百の雷の槍を形成する。


「死ね」


ミナトの言葉と共に、雷の豪雨が、ハーピー・クイーンと、生き残った全てのハーピーに降り注いだ。


雷鳴が、山道に轟く。


数秒後。

そこには、黒焦げになって墜落していく魔物たちの残骸だけが残った。

ミナトは、一度も「ミス」はしなかった。被弾も、していない。


だが、その戦いは、あまりにも「乱暴」だった。

味方への配慮を一切欠いた、感情的な、力のゴリ押し。


それは、Sランク魔獣を倒した時の、あの神業のような「技術」や「冴え」――『精彩』――を、完全に欠いていた。


あれは、戦いではなく、ただの「破壊」であり、「八つ当たり」だった。


騎士団長は、震えていた。

魔物の強さにではない。

目の前で、冷たい瞳のまま、圧倒的な破壊を撒き散らした『勇者』の姿に。


「……任務、完了。戻る」


ミナトは、誰に言うでもなくそう呟くと、騎士団に背を向け、一人で王城への帰路についた。


王城、玉座の間。

騎士団長からの報告を受けた国王アルトリウスは、顔から血の気を失っていた。


「……味方の防衛線の上空で、最大火力の魔法を?」

「は。……一歩間違えば、我が騎士団もろとも、山を吹き飛ばすところでした」

「……」

「陛下。勇者様は……確かに、お強い。強すぎます。ですが……」


騎士団長は、言葉を選びながら、最大の懸念を口にした。


「今のあの方は、『剣』ではありませぬ。いつ、どこで、誰に向かって爆発するかもわからぬ、『爆弾』でございます」


国王は、玉座で深くうなだれた。

先日の「ミス」は、疲労ではなかった。

そして、今日の「乱戦」は、油断でもない。


(……『勇者』は、壊れた)


ミナトの精神は、国王の「嘘」と「拒絶」によって、決定的に損なわれたのだ。

王家と勇者の間に生まれたズレは、もはや、修復不可能な「断絶」となっていた。


その夜。

国王が、ミナトの部屋の見張りを、近衛騎士から「影」と呼ばれる暗部組織の者に入れ替えた、まさしくその時。

自室で、ミナトは静かに白銀の鎧を身につけていた。


(……もう、待てない)

国王あんたが何と言おうと、俺は行く)

ミナトは、音もなく窓の鍵を開けた。


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