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「顔が好み」で勇者にしてあげたのに、裏切られたのでラスボスになります  作者: さらん
第一章『寵愛(ちょうあい)の勇者、憎悪(ぞうお)の反転』

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第十三話:陽(ひ)の当たる場所のデート


佐藤健也たちが、光の届かない地下で黒い復讐心を燃やしていた、まさしくその時。


王都は、抜けるような青空に包まれていた。


「――素晴らしい! ミナト様、今度の討伐も見事なものでしたわ!」


王城のミナトの私室(もはや彼専用の豪華な執務室と化していた)に、リリアーナ王女が弾むような声で飛び込んできた。

ミナトは、ここ数日続いた「グリフォン亜種」の討伐任務から戻ったばかりだった。


「ありがとうございます、リリアーナ様。少し手こずりましたが、街道の安全は確保できました」

「まあ! それなのに、すぐにまた訓練をなさるおつもりでしたの? 少しはお休みになりませんと!」


リリアーナは、ミナトが鍛錬用の服に着替えようとしているのを見て、頬を膨らませた。


「……ミナト様。よろしければ、今日一日は、剣を置いていただけませんか?」

「え?」

「その……王都の皆さんが、ミナト様にどれほど感謝しているか、ご自分の目で確かめていただきたいのです。……わたくしが、ご案内いたしますわ」


それは、紛れもない「デート」の誘いだった。

ミナトは一瞬戸惑ったが、リリアーナの期待に満ちた翠色の瞳に見つめられ、断ることはできなかった。


「……わかりました。お供させていただきます」

「本当ですの!? やったあ!」


リリアーナは、子供のようにはしゃいだ。


「ミナト様、王女殿下。お忍びでの外出となりますゆえ、こちらのお召し物を」


侍従のセバスが、どこからともなく、目立たない(しかし、仕立ては最高級の)平民風の服と、リリアーナのためのフード付きケープを用意した。


久しぶりに王城の外に出たミナトは、その活気に目を見張った。

以前、国王に「皆も元気にやっている」と聞いてはいたが、街はそれ以上に活気づいていた。


「すごい……人が多いですね」

「ふふ。ミナト様がオーガや盗賊団を討伐してくださったおかげで、街道の物流が完全に復活したのですわ。見てください、あのお店!」


リリアーナが指差す先では、様々な露店が軒を連ね、威勢のいい声が飛び交っている。

ミナトとリリアーナは、身分を隠し(とはいえ、二人の抜きん出た美男美女ぶりは、道行く人々の注目を集めていたが)、その雑踏の中を並んで歩いた。

あちこちから、楽しそうな会話が聞こえてくる。


「聞いたかい? 今度の『白銀の勇者様』のご活躍!」

「ああ! あの空飛ぶグリフォンを、魔法で撃ち落としたんだって?」

「おかげで、北の村への荷物も安心して運べるよ。勇者様には感謝しかねえな!」

「本当に、女神様が遣わしてくださった希望の光だわ……」


ミナトは、気恥ずかしさを感じながらも、胸が熱くなるのを感じていた。


(俺がやったことが……こうして、みんなの笑顔に繋がってるんだ)

教室の隅で、誰からも必要とされず、ただ消えることだけを願っていた自分が、今や、これだけ多くの人々の平和な日常を守っている。

その実感は、何物にも代えがたい高揚感をミナトにもたらした。


「ミナト様、あちら!」


リリアーナが、甘い香りに誘われて、串に刺した果実飴(この世界風のリンゴ飴だ)の露店に駆け寄った。


「お店のおじさん、これを二つくださいな!」

「あいよ! おや、嬢ちゃんたち、仲睦まじいねえ。デートかい?」

「え!? あ、ええと……」


ミナトが慌てて否定しようとするのを、リリアーナが「そうですの!」と笑顔で遮った。

真っ赤な果実飴を受け取ったリリアーナは、幸せそうに一口かじり、そして、もう一本をミナトの口元にそっと差し出した。


「ミナト様も、どうぞ。あーん」

「えっ、リ、リリアーナ様、ここで!?」

「いいですから。ほら、あーん」


周囲の市民たちが「若いっていいねえ」「お似合いの二人だ」と微笑ましく見ている。ミナトは観念して、照れながらもその果実飴を小さくかじった。

シャリ、という食感と共に、蜜のように甘い味が口に広がる。


「……美味しいです」

「ふふ、よかった!」


ミナトは、自分の隣で無邪気に笑う王女の横顔を見た。

太陽の光を浴びて輝く蜂蜜色の髪。心の底から幸せそうだ。


(守りたい)

ミナトは、強く思った。

この笑顔を。この活気ある街を。自分を必要としてくれる、この世界を。


(俺が、守るんだ)

その決意は、もはや女神の依怙贔屓えこひいきや、過去へのコンプレックスから来るものではなかった。


『勇者ミナト』として、このの当たる場所で生きる者の、確かな誓いだった。


――その同じ太陽が、遥か北の山脈に閉ざされた鉱山の、わずかな換気口から差し込んでいることなど、ミナトは知る由もなかった。

そして、その光も届かぬ地下深くで、自分への殺意だけを糧に、ツルハシを振るう同級生がいることなど、想像だにしていなかった。


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