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プロローグ

まだタイトルは未定。

ファンタジー世界を旅する半鬼の青年の逃亡劇。の予定です。



──それが恋だと自覚したにはいつの頃だったか。


気付けばその背を目で追いかけ、萌える若葉のように深い新緑のその双眸がこちらを向けば、気まづくなって視線を逸らす。

困ったように息を吐き、それでも慈しむように頭を撫でるその大きな手が、泣くたくなるくらいに優しいのに胸を締め付ける。


魔王 アシャル=ノト・シグナス


みながシャルと呼ぶその人は、既に1000年以上の時を生きる魔族の王であり、かつて巻き起こった人族と魔族とを分かつ大戦においてその間に立ち終息をもたらした英雄であり、今現在に至るまで人魔共存に力を尽くす生きる伝説。

そしてこの俺、シャルが『安曇』と呼ぶ出来損ないの半鬼の養い親である。


容姿端麗、眉目秀麗、どんな言葉を並べても陳腐に思えてしまうほどの美貌を持ち、腰まで伸びた白銀の長い髪も、深い新緑の瞳も、その身に宿る膨大な魔力を称えてキラキラと輝いて見える。

両手にいくつも嵌る指輪も腕輪も、形のいい耳に輝くピアスの数々も、どれも溢れる魔力を抑える役目を持つ魔道具だ。

そんな美しい人が、傍にいて、慈しみ、大切にしてくれるのだ。好きにならない方が無理というもの。それでも、その視線を一身に受ける俺だからこそ、気づくこともある。

彼が俺を通して、別の誰かを見ているということを。



「安曇?どうした、眠れないのか?」

夜中、シャルの寝室に訪れる。

気配を察知しベッドから身体を起こすシャルにとっては、未だに嫌な夢を見てはベッドに潜り込んでいた、子供の頃の俺と同じなのだろう。シャルに拾われ、一緒に暮らし始めてもう、100年は立とうとしているというのに。


鬼族の成長は精神性に依存するという。年数ではなく個々の精神的成長に合わせて肉体年齢も上がるのだそうだ。

半分ではあるが鬼族の血を継ぐ俺も、どうやら成長が不安定らしい。

物心ついた時には裸で森を駆け巡り、動物たちと洞窟に暮らしていた。両親の顔は覚えていない。半鬼である上に片角ということで、出来損ないとして捨てられたのだろうと、教えてもらった。

おそらく赤子の期間が極端に短く、急速に成長し幼児期に至れたことで、生き延びることが出来たのだろうと。

シャルにはその時に拾われ、今に至る。それから100年。俺は未だに、少年と青年の間とも言える年齢で成長が止まっていた。

そんな見た目だからこそ、シャルにとっての俺はまだまだ、庇護すべき子供なのだろう。


首を横に振り、視線を向ければベッドの彼は、困ったようにその美しい眉をひそめて短く息を吐く。

その所作に俺は胸を締め付けられた。無意識なのだろう。俺を通して他の誰かを見て、その誰かとの違いに落胆するかのように息を吐く仕草。身体が成長するにつれ、そんな仕草が目に見えて増えていることに、本人はおろか他に誰も気づいてはいない。


「シャル・・・・・・俺」

息が詰まる。それでも視線を合わせる為に顔を上げた。大好きなその顔。大嫌いな俺を素通りするその目線。困った子を見るように微かに眉を寄せてこちらを伺いみる仕草。全部全部愛しくて、苦しくて、哀しくて。

俺を見て!って、全力で叫びたくなったんだ。


だから俺は、ベッドに腰を下ろしたシャルに近づいて、その左耳に下がる紅い宝石に視線を向けた。魔力を封じる魔道具。その中でも紅は俺の魔力。幼少期から、身体に負荷がかかる分の魔力を吸収し、保管してくれている俺の力。

顔を寄せ、そのままガブリと噛み付いた。


「ーーッ!!??」

驚くシャルに構わず紅い宝石を耳から引きちぎり、即座に離れると口の中でガリンと砕いて飲み込む。飴玉のように口に中で溶けて消える宝石の中に宿る、俺の魔力に全身が引き裂かれんばかりに軋んで傷んだ。

「っ!・・・・・・馬鹿者!何をしている?!」

耳から血を流しているのにそれに構わず、うずくまる俺に駆け寄るシャル。あぁ、もう。ほんとに、嫌になる。

「うる・・・さいっ!」

「なっ・・・・・・安曇?!」

シャルの手を跳ね除け、身体を起こして距離をとる。急激に成長していく身体。焔のように熱く燃える魔力が身体から漏れ出ているのがわかる。

困惑の表情を浮かべながらも、俺の魔力暴走に対応しようと魔力を練るシャルの姿を視界におさめながら、俺は立ち上がりニヤリと酷薄そうな笑みを浮かべる。

魔王への宣戦布告だ。胸を張らないでどうする。


「シャル・・・・・・さよならだ」

パチンと指を鳴らせば、それだけで全身を巡る魔力が炎の玉となってシャルに襲いかかる。当然、そんなもので彼を傷つけられるとは思っていない。狙いはその背後。魔王の寝室に相応しい、ベランダへと続く豪奢な窓。大きな音を立てて砕け散ったその窓か外に出て、ベランダの手すりに足をかけて振り返る。爆発の余波の中、防御結界を張ったシャルの姿が目に映る。美しい白銀の髪を靡かせて、驚きに顔を目を見張るその姿を目に焼き付け、さらに炎の玉を繰り出してその爆発の衝撃に身体を預けて空へと跳んだ。


何処まででも追いかけてこい、魔王アシャル=ノト・シグナス。地の果てまでも逃げてやる!!


こうして、俺の長い長い逃亡劇は幕を開けた。


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