第9話
翌日
昨日と同じように朝食を取るとレオンは家を飛び出し、誰も足を踏み入れない森へと入っていった
「昨日は魔力感知と操作まではうまくいった。初級魔術も問題なく扱える」
魔術には、火、水、風、土の基本属性があり、それぞれ初級から最上級まで発動に必要な魔力と構成の難しさに応じて、階級分けされている。俺は魔術を扱うための才能が皆無なため、唯一扱える火属性の初級魔術とオリジナルのオーバードライブしか使えない。
そして、オーバードライブは魔力回路だけでなく強化する筋肉にもかなりの負荷をかける。したがって生半可な肉体では発動した瞬間肉片だ。その為、筋トレも欠かさずこなさなければならない。
(それに、ベルゼブブとの戦闘時……明らかに今までのオーバードライブとは違う何か、こう…別の何かだった。死の際で掴んだ何か。それを確実に俺のものにするんだ)
「98……99…100ッ!」
(う、腕と腹が……死ぬ)
腕立て伏せと腹筋をそれぞれ100回済ませる。本当であれば次に山の上り下りのトレーニングをしようとしていたが。昨日までの俺は運動などやっていなかったので全身筋肉痛の満身創痍である。休憩中は座禅を組み、瞑想をする。
—お前に我の力の全てを与えよう
不意にあの空間の中で言われた言葉を思い出す
(天啓……もし、あの空間での会話が本当のことだったなら俺には天啓が与えられたはずだ。)
そういって意識を己の内側へと集中させる。
(これまでは俺の中には魔力しかなかった。でも、今は違う……はず)
魔力以外の何か、未来《過去》時点ではなかった何か。それをレオンは感じ取ろうとしていた。
しかし、そう簡単にいくはずもなく、その日の訓練は筋トレと瞑想のみで終了となった
・・・・・・・
あれから半年が過ぎた
(今晩だ。)
夕日が見え始める時間帯。母さんに少し無理を言って早めにご飯を済ませる。そして、半年間休まず魔術の練習をした結果。精密性は悪いが布団を被れば俺に見えなくもない人形を形成することが出来るようになった。その人形をベッドに置き上から布団を被せる
「じゃあ、行ってきます。」
小さな声でそういうとこっそりと部屋の窓から外へ出る。外にはまだ村の人が何人かいるが、見つからないように慎重に屋根伝いに移動する。
しかし、あと一歩というところでソレは現れる。
「ママに黙って夜遊びとは感心しないな。坊主」
「ッ!?」
背後から突然話しかけられたレオンは心臓を素手で掴まれたような。そんな感覚に陥る
「とっととおうちに帰んな!」
「あ、あんたは……グリッドのおっちゃん!なんでここに!?」
「なぁ~に、飲み過ぎたんで酔い覚ましにちょいと散歩よ。それより、普段のレオンは俺のことをグレッドのおっちゃんなんて呼び方しないんだよな。なぁ~んて言ってたっけな。なぁ、偽物さんよ!」
(ヤベッ!つい過去の口調がッ)
「さっさと正体表しやがれ!この偽物!!」
そういってグレッドは装備していた両刃の短剣をレオンに向け、臨戦態勢を取る。
(まずったな……忘れてたぜ、グレッドのおっちゃんは、昔は冒険者の中でもそれなりに高いランクだったんだよな。隠居したとはいえ、その勘は健在ってことか)
「まった!俺は確かに子供のレオンではない。でも、あんたたちが知っているレオンではある!村に危害を加える気はない。だから、何も言わずに見なかったことにしてくれ!」
レオンは、あれこれと策を講じるのをやめ、両手を上へ上げる。
「……フッ。アイツと同じ目をしおって。」
「え......今なんて?」
レオンにも聞き取れないほどの小さな声でつぶやくと腰に携えられた一本の短剣をレオンへと放り投げる
「ッ!」
渡された短剣を受け取ったレオンはその柄に掘られた名をみて目を見開く
「あいつのことを教えてほしかったら、やることしっかりやって帰ってこい!そうすりゃ教えてやるよ。なんせ俺はあいつの相棒だったんだからな」
そういうとグレッドは持っていた両刃の短剣をレオンに放り投げ、去ってしまった
(あぁー、せっかくこの戦い終わったらどっかに旅しようと思ったのに……帰る理由が出来ちまったじゃねぇーか!)
投げ渡された短剣の柄は掠れた文字でこう書かれていた
『レピュード』と




