第8話
「いつまで寝ているの?起きなさい」
心地よく眠っていると、もう長い間聞いていない懐かしい声が聞こえてくる。
「ぅ~ん、嫌だよ、母さん。もう頑張ったんだ。これ以上どうすればいいんだよ……ッて、え?母さん?」
寝ぼけ眼で言い返すが言い終わってから、異変に気付く。それは20年以上前に魔物行進で死んだはずのレオンの母。ティーニャだった。それが夢だとわかっているはずが思わず目頭が熱くなる
「なん、で……母さんは、死んだはず」
「はぁ?何言っているの?お母さんは生きているでしょ。あ、さてわ、悪い夢でも見たわね?」
「悪夢?いや、いい夢だよ……死んだはずの母さんとまたここで会えるんだから」
「はぁ……あんた。これでも夢だって言える?」
母さんはため息をつくと右手を高々と上げ、頬めがけて振り下ろされる
バチンッ!
(イってッ!?)
部屋中に鳴り響くほどのビンタを食らったレオンは思わず叩かれた頬を両手で抑え、目を見開き、母へ視線を向ける
「目が覚めたでしょ。さっさと顔を洗っておいで。ご飯はできてるよ」
(夢じゃ…ない)
・・・・・・・・
状況を整理するとこうだ。
俺は現在5歳になったばかり。つまり、母さんの死の原因である魔物行進が起こる半年前。そして、ローランとユーティアと出会うのは母さんが死んで親族が俺をたらい回しにした結果、最後に行き着いた母の昔からの友人だったローランの親に引き取られた時だ。そして、コハクは30年後では11歳だったから、生まれるのは19年後というわけだ
(つまり、こういうことだ。俺は今から鍛錬して、強くなる。手始めに半年後にこの村を襲う魔物行進から母さんを守り通すことだ。)
作戦が決まったところで、レオンはベッドの上から飛び降り外へ駆け出した。それからレオンが返ってきたのは夕日が完全に沈んだ後だった
・・・・・・・・・
「それで、なんでこんな遅い時間に、それも、ボロボロの服で帰ってきたのか説明してもらえるのかしら?私はそんな風に育てた覚えはないのだけれど」
現在、正座をさせられ、何故こんなに遅い時間に帰ってきたのかを母さんに問いただされていた。
「えっと……遊ぶのに夢中で時間を忘れちゃってぇ~」
アハハハ、とごまかそうとするが母さんの表情はより一層険しくなる
(ま、まずい)
「ご、ごめんなさいッ!次からはちゃんと夕方までには帰ってくるから!」
そう言って、レオンは正座をした状態で、両手を床につき頭を下げる。要するに土下座というわけだ。
「…………」
(だ、駄目か……?)
時間にして数秒。しかし、レオンに数時間に感じられた。固唾をのみ、土下座の状態から微動だにしない。
「ハァ……これだけは覚えておきなさい。あなたが帰ってくるまで私は気が気じゃなかったの」
「……わかっているよ。母さん。これからは気を付けるから」
一呼吸置き、そう答えると母さんは納得してくれたようで冷めた夕ご飯を温めなおしてくれた。
(ごめん。母さん……でも、今の俺にならあの惨事をなかったことに出来るかもしれないんだ。俺になら……)




