第42話
「で、本命なんだが、天使族を味方につけようと思う」
絶句
あまりにも突拍子もないその言葉に皆大小さまざまではあるがとても愉快な反応を見せる。
先ほどまで鬼の形相でこちらを見ていたローランさえ驚愕の表情を浮かべる。しかし、その中でも聖職者であるユーティアがとんでもない顔になっていた。
だが、意外なことにレオンの中で強烈なリアクションをしてくれると期待していたナターリリアの反応がイマイチだったことが腑に落ちなかった。ナターリリアもレオンの様子から何かを察したのだろう。何か言う前にあきれた様子でその理由を突き付けてきた
「私は前に一度エルフの女王様に会いに行ったときにあなたを世間一般の常識で見ることを辞めました。全世界を探し回ったとしてもあなたのような規格外の人間いないでしょう。そんなことしてたら心臓が何個あっても足りませんからね」
半笑い気味にそういうとどこか遠い目で真っ青な空を見上げた。その姿に周りにいた皆も『あぁ~……』と何かを納得したような目になった
「なんだお前ら……変なの」
「いや、あなたが原因でしょう」
ルーチェの言葉に全員が『うんうん』と同意する。
(なんだこのアウェイな感じは)
へんな空気に一瞬たじろいでしまう
「コホンッ……ま、まぁソレはもういいとしてだ。今から天使を味方にするわけなんだが、天使とは皆も知っての通り恐らく世界中の文献を漁ってもその生息域はわからないだろう。人間であればそこら辺を探せばうじゃうじゃいるんだけど」
「うじゃうじゃって……あなたも私も人間でしょ?」
レオンの言い方にルーチェが思わず窘める。しかし、それをレオンは無視し、話を続ける。
「確かに。叡智の魔女と呼ばれた妾も天使という存在は知っているが、どこにいるのかは知らぬ。あ奴らはどこにでも現れる。出現する分布が少ない上に不規則過ぎる故に絞り切れぬのだ。」
「そうなんだよなぁ。だから、俺たちはこれから天使についての恐らく何かしらの情報を持っているであろう国に行きます」
「え……いや、だからそれが分からないから困っているんじゃないんですか?」
レオンの頓珍漢な言葉に皆怪訝な表情を浮かべ、全員の相違をナターリリアが代弁する。ルニエルすらも意図が読めず困惑の表情を浮かべる
「叡智の魔女であるルニエルだって国家機密まで全て知っているわけじゃないだろ。国が慎重に管理しているような重要な情報なんかはルニエルでも知らないんじゃないか?」
「うむ、確かに。そもそも国家機密などにはあまり興味が湧かん。他種族の国事情を安易に知ってしまえば後々厄介ごとを引き込んでしまう可能性もある。故にそういった情報は収集しなかったな」
今まさに思い出した。とでも言いたげな様子で手をポンッと叩く。その様子に思わずコイツ本当に叡智の魔女かと心の中で突っ込んでしまう
「というわけで、これから俺たちは聖教国イェルセシスの国家機密を盗む。ケホッケホッ……ちょっと拝借しに行くわけなんだがここで一つ問題が出来ました。」
「聖別の加護ですわね」
「正解」
そこで漸くユーティアが口を開く。相変わらずの、その射殺すような鋭い視線レオンはあえておどけたような口調で答える。『聖別の加護』と聞き、この場にいるほとんどの者は納得する。尚、本の虫であるハイドランジーは性別について多少の知識はあるようだったが、一方で鍛錬ばかりしているライトロンや世間に全く興味のないローズマリンには初耳の言葉なので、頭に『?』マークを浮かべる。そんな二人にルーチェが説明する。
「聖別の加護っていうのはね、聖教国イェルセシスを建国し、各地に聖教を伝え解いた偉人。イェルが国を守る為に張った聖なる結界のことなの。良き行いをしたものには加護を悪しき事をしたものには罰を与える。この結界があるから聖教国には魔物は一切侵入できないし、悪事を働けばその瞬間何かしらの罰が与えられる」
「その通り。つまり世間一般から見れば俺は一国を滅ぼし、何千もの人の命を奪った大罪人。勿論俺はソレを懺悔するつもりは毛頭ないんだがな」
聖別の加護は犯した罪の重さによって罰の重さも変わる。窃盗や暴行ならまだしも大量殺人に加え一国を滅ぼしたとなると聖別の加護がどんな罰をレオンに下すかは想像がつかない。下手したらルーチェ達にも火の粉がとぶ可能性もある。そこでどうするのか………
「俺が聖教国に入れないことから今回は俺以外のメンバーで国家機密を奪取してもらいたい。ルーチェにナターリリア。そして、荒事になった時の為にルニエル。そして、あまり気は進まないが聖なる杖を所持し、聖教国の大司教以上の回復魔術の使い手であるユーティアに任せたいと考えている」
空気が一瞬引き締まる。ユーティアはレオンを敵視している。それがこの場にいる全員の共通意識。それなのにこの重要な任務を任せようとするレオンに大きな疑問を抱く
「貴様巫山戯ているのかッ⁉何故貴様に協力しないといけないんだッ」
そこで我慢の限界が来たのかローランが一カ月ぶりに口を開く
「至って真面目に言っている。何もユーティアを人質にしようなんて言っているわけじゃない。いや、そもそも今のユーティアを人質にしたとしても国は動かない。」
「言っただろ。聖杖を持ち、最高クラスの回復魔術を扱う。今はまだ認知されていないだけだが、ソレを知れば皆祭り上げるだろう。さらにその後ろにエルフの女王がいるとなればなおさらだ。」
「でも問題があるわ。聖別の加護の中では悪事は働けない。つまり国家機密の奪取なんていう大罪も不可能なはずじゃないかしら?」
「いや、言っただろ。結界は壊すことが出来る。結界を破壊してから完全に再生するまでの時間で奪取してほしい。」
つまり作戦はこうだ
ユーティア含む四人は先にイェルセシスで情報収集。その後、準備が整えばルニエルが開発した長距離通信機で作戦進行の合図。レオンが結界を破壊し、四人は必要な資料を奪取する。
「な、簡単だろ」
「言うは易く行うは難し、よ。こんな自殺粉いなこと」
「でも、あまり時間もかけたくないし、最短でするならこれしかないと思うんだが、他に案があるなら教えてほしい」
そう言うと皆黙り込んでしまう。
「最悪結界の破壊だけなら何とかなるから失敗の合図を決めてナターリリアの空間転移で逃げればいいと思う。情報を得るための出費はいとわない。だから頼む」
レオンは深々と頭を下げ希う。
「……私はあなたの案に乗ります。母を助け、私もまた助けられた。その恩はしっかり返すわ」
「まぁ、妾も反対はせぬ。お主の行く道も見てみたいしのぅ。」
ナターリリア。ルニエルが一歩前に出る。そして、それに続くようにルーチェも賛同した。しかし
「お断りします。あなたのような人間に協力する理由がありません。」
(まぁ、当然と言えば当然か……仕方がない。これはあまり言いたくなかったが……)
「俺は未来を知っている。俺がこの力を持たず、ただの凡夫だった場合の未来だ。ローランは勇者となり、君は聖女となり人々の希望になった。そして、魔王を倒すべく進み続けた結果。君たちは死んだ。君たちでは無理なんだ。その役はだから俺が引き継ぐ。そう言ってるんだ。それでも嫌だ。そんなこと知るかというのであればこうしよう『君が協力しないのであればそこの無力な男を殺す』」
それは己の心を抉り、ユーティアを動かせる最大の武器。クソほど最悪の気分になるのと引き換えに最大の切り札を切ったのだった




