第36話
「ハァ、ハァ、ハァ……お兄さん強いね。オイラってエルフの国の中でも5本の指に入る実力があるって自負してたんだけど。ヘコむなぁ」
かろうじて致命傷は避けているものの全身切り傷まみれの状態で呟く。そして、そんな様子にひどく落胆した様子を見せるサムライ
「残念だ。お主でも某を殺すことはできぬか………」
「君は死にたいのかい?」
「ただ死ぬだけではない。某より強きものと死闘をしたうえで堂々と殺されること。それこそが某の願い。主君を失いのうのうと生きることは本来この上なき屈辱。しかし、それが死は生き残ってしまった。この身もはや何者でもないただの肉塊同然」
(ふぅ、なんて人間だ………自分は空っぽだと言っている割に触れたら火傷どころか灰にされかねない熱量の殺気ふりまいてるじゃないか)
言葉とは裏腹に燃えるような何かを振りまく目の前のサムライにアレスは身をすくませる
「もったいないな。そんなに死にたがるならいっそオイラ達の下に付かないか?そこまで誇りを持った君にこんな薄汚い場所は似つかわしくないと思うんだけど」
「裏切りなどもっての外。それ以上に某が主君と仰いだお方はただ一人。それ以外を認めるつもりは毛頭ない」
「はぁ、それならいいや。でもそうなるとやっぱりオイラは君を殺さないとダメなんだよね。じゃないとここにいる三人とも待っているのは奴隷か死かだけだ」
「まるで某に勝てるかのような言い方ではござらぬか」
「勝てるって言ってるんだ。おいで『風の精霊』」
エルフ語で唱えられた風の上位精霊の真名。それを知ることが出来るエルフはアルヴヘイムの中でもごく少数のみ。さらに……
「オイラに力を貸しておくれよ『水の精霊』」
風の上位精霊に加え、水の上位精霊を呼び出す。
本来人間如きが目にすることなど敵わないその二体の上位精霊。対敵した瞬間男の全身が『これとは戦うな』と警告音を発し、全身から緊張の汗が噴き出す。
「これは……少々お主のことを過小評価していたようだ。謝罪しよう」
己の震える手を見つめる。再度アレス見た時、その瞳には先ほどのひどく落胆し、興味の失った表情から一片。死の恐怖の所為かひどく不格好な笑みと餓えた獣の様にギラリと怪しく輝く瞳をアレスへと向ける。そして
「シッ!」
「ッ!」
(消えたッ)
アレスの視界から一瞬で消えたサムライはその刃を無防備にさらされたアレスの首元目掛けて横に薙ぎ払う……が
「ッ⁉な、なんだこれはッ」
その刃は首元にあたることはなく風と水の防壁により完璧に防がれてしまう。
「水風魔法『トゥルボモニエラ』参ったなぁ……ここまで早いとは。その速力だけならオイラの大将とタメ張れるんじゃないかな?」
「大将?お主の主君。エルフの女王のことであるか?」
「いや、オイラの大将はこの屋敷の主……君の雇い主と戦闘している人だよ」
「あぁ……ヤツの獲物か。しかし、あの一撃を見切るとは。先ほどまではその可能性すらなかったはずだが……いや、お主というより」
「そう、オイラが見切っているわけじゃない。この二人がオイラを守ってくれる。オイラの視界から外れてもオイラを惑わしてもオイラに向けられた攻撃は全て無意味だ。そして、これは奥の奥の手。これを出したのは母様……エルフの女王を相手にした時だけだ。誇っていいよ。オイラに本気を出させたんだから」
「あぁ、あの世で主に良い土産話が出来る」
どんどん高められてゆくアレスの魔力を見つめ男は刀に込めた力を緩める。そして、天を仰ぎ微かにほほ笑み一言呟くと
「 」
その瞬間。世界が一瞬揺らいだ
・・・・・・・・・・・
「?……これは」
「よそ見してんじゃねぇ―ぞ!墜ちろ『雷神の一撃』」
通常波状攻撃として使用する『雷鳴時雨』。それを一点に集約して放つレオンの即興の一撃。攻撃範囲は狭くなるがその分一撃の威力は何十倍にも飛躍する。
「軽い」
しかし、それを蚊でもはらうかのように叩き逸らす。
「チッ……」
「それでは次は私の番ですね。まずは小手調べです。《斥力》+《引力》+《重力力場》+《魔剣化》」
「ッ!」
それは小さな黒い球体だった。空間を捻じ曲げ、光を吸収する。本来であれば星が消滅するときにおこる現象
「魔剣『崩壊星』」
顕現したその片刃の魔剣をヒトラスは横一文字に空を割く。
「………」
『何かが起こる』本能がそう語り掛けてくる。レオンはどんな攻撃にも対応できるよう身構える。
(何が来る?斬撃、刺突、バフデバフ……あるいは召喚か。あの雷の魔剣の男のようなものか………一回で見切って反撃だ)
ヒトラスの攻撃を避ける。あるいは受けきる前提の次の攻撃。一連の動きを脳内で速攻構築。しかし、それは次の瞬間無に帰してしまう。ヒトラスが創成した魔剣で割いた虚空からわずかな歪みが発生する。それは瞬く間に膨張を始め、大きさを増すごとにその中へ吸い寄せる力が増す。
「チッ!」
それに気づいた時にはすでに手遅れだった。レオンは床に足を埋め込みその場に留まろうと足掻くが………
「チックショォッ!」




