第32話
(クソッ……まずい。今生の不覚だッ!なんであの女を生かしたまま利用しようなんて考えたんだ⁉あの女さえこの場所に居なければ……いや、ナターリリアは悪くない。俺の注意不足の所為だ。怒りの方向を間違えるな。すべての可能性を考えろ)
あれから一晩が過ぎ、エルフ女王は一時国へ帰還。アレス達は女王の命で天空雲城に残ることとなった。エルトロンは竜化の影響か今は人型に戻ってはいるが意識が戻らずベッドで寝たきりとなっている。ルーチェはその付き添いをしている。
レオンはというとルーチェから事の顛末を聞き、今は誰も居ない雲の上一人。膝を抱えうずくまり、自分の不甲斐の無さに腸が煮えくり返っていた。その影響は周辺一帯に広がっており、レオンがいる位置を中心に半径数キロが大雨、雷、竜巻……など様々悪天候が地上の人間に襲い掛かっていた
(早く助けに行かねぇと……絶対に助ける。絶対にだ……まずルーチェに居場所の補足。その後真正面から突撃しても無謀甚だしい。上空から隠密に行動。あの時は天空雲城だったから俺の天啓は使えなかったが、次こそは本気で……いや)
脳裏に浮かぶあの結界。エルフの女王が張ったあの結界とは若干の違いはあるが侵入不可能という意味では負けず劣らない結界。レオンのオーバードライブ:魔纏を進化させた燐でも壊すことが出来なかった。これを攻略できないと現実問題どうすることもできない
(あの結界の攻略法……燐以上の破壊力を持つ攻撃技が必要。白雷蛇は燐と同等。雷鳴時雨と時雨の槍は広範囲制圧には優れていても威力は数段落ちる。もう一つ……あるにはあるがそれも広範囲制圧に特化している。現状あの強固な結界を打開できる必殺の一撃足りうるものがない。)
同時に複数の場所を襲撃……いや、俺一人で乗り込むのに複数もクソもあるか。それに相手はナターリリア自身に加え、その天啓である空間転移を強制的に発動させることが出来る。結界は術者であるあの男がいなくなってからも完全に壊すまでは残り続けた。つまり、発動後は術者の有無は関係なく存在し続けるわけだ。解除の命がないと永遠にあり続けられるっていうのは現実的じゃない。つまり何らかの消耗は絶対にあるわけだが……
「クソッ!万策尽きそうだ……力を得たはずなのになんなんだ⁉この無力感はッ‼」
不甲斐なさで胸が満たされ、怒りが頂点に達しようとしたその時。それはなんとも間の抜けた情けない声を挙げながら一人の男が飛んでくる……いや、吹き飛ばされてきた
「あぁぁぁ~~、助けてェェ~ッ!これ、任意で止められないんだぁぁぁ~~」
(何やってんだ?あのエルフは………)
「雲よ、我が声に応じここに集え」
雲はレオンの声に呼応し、放物線を描きながら落下してくるアレスの機動を予測する。
「微調整は自分でやれ。そのくらい出来るだろ⁉」
「オーケッ!」
そう言うとアレスはレオンでは聞き取れない言語で何かを唱え始める。これこそがエルフが扱う魔法。エルフの膨大な魔力と精霊と会話することが出来るエルフ語。この二つを掛け合わせて織り成される奇跡をエルフは精霊魔法という
「はぁッ!」
若干のズレを見事に修正して見せたアレスはレオンが生成した雲の上に綺麗に着地して見せた。
「精霊魔法の精度はこの頃からずば抜けているわけだ。流石エルフ国の第一王子」
「それほどでもないよ。でもその口ぶり……やっぱり君僕のこと知ってる感じだよね?気になるなぁ」
「聞いても理解できないだろうから教えてやらない。それよりもなんで俺のいるところにドンピシャでぶっ飛んできたんだよ」
どうせルーチェにでも聞いたんだろ。俺がいる保証がなければこんな危険なことはしない。俺が居なきゃ上空数百メートルから落下死は必至だ
「ルーチェ?あぁ、あの人間の女か……違うよ。あんな人間に聞かなくてもオイラ達エルフは魔力に敏感に反応できる。そこに精霊たちも合わさればより精密な感知が可能なのさ。それに君は感情が高ぶって魔力が駄々洩れてる」
あぁ、そういうことか……確かに。地上がやべぇことになってる。まずい
アレスの指摘で天啓がレオンの感情に呼応して周辺一帯の天候があれていることに気付く。もはや、地上では阿鼻叫喚と化しており、後々の処理に頭を悩ませるレオンであった。
「それで、何の用だよ。こんなところまで飛んできやがって」
「そう言うなよ。さっき母様から連絡がきたんだ。オイラ達三人は全力で援護するようにと」
「ハァッ!?なんだって?エルフが人間の俺に?見返りは?何を要求してくるつもりだ?」
「さぁ?そこまでは聞いてないけど全力で君の援護をするようにって……オイラとしてはむしろラッキーなんだけど……どうする?君の判断次第だけど」
でもこれで複数を同時に襲撃することが出来る……正直後々何を要求されるか分かったもんじゃないが娘二人の安否に比べれば安いか……
「助かる。遠慮なくエルフ国の助力を借りさせてもらう。」
「決まりだね。そうと決まれば一度君の城に戻ろう。作戦会議だ。」




