第3話
どんよりとした灰色の空模様。今にも雨が降ろうとしていた日だった
「レオン君!レオン君ッ!」
いつものようにコハクと一緒に畑へと向かっているとムー婆さんが血相を変えて駆け寄ってくる。
「どうしたんですかムー婆さん。そんなに走ったらコケちゃいますよ」
「そんなこと言っている場合じゃないよ!あんた知らないのかい!?」
「え?なんのことですか?」
のほほんと聞き返すレオンにムー婆さんは堪忍袋の緒が切れたようでブチっという音がしたと思ったら、バチンッという衝撃音とともに頭部に痛みが走る。
「痛ッ!ちょ、何するんだよ!」
「ローランが死んじまったんだよ!あんたこそ、何呑気にしているんだい!!」
「ぇ……」
シンダ?死んだ?誰が?なんで?
「い、いや、いやいやいや。何言っているんですかッ!いくらムー婆さんでも言っていいことと悪いことがありますよ!」
「ッ!?」
思わず荒げた声に驚いたコハクが萎んだ尻尾を垂らし、縮こまる。レオンはハッと我に返る
「……本当に、本当なんですか?」
一呼吸置き、もう一度聞きなおす。その声は自分でも分かるほど震えていた
「確かな話だよ。王都を出入りする何人もの行商人たちから聞いた話だ。」
「………コハク」
「な、なぁに?」
いつもと様子の違うレオンに少し不安を感じ取ったコハクは恐る恐る返事をする。
「今日は、雨が降りそうだ。畑仕事はやめにしよう。家で温かいミルクを飲もう」
出来るだけ穏やかな口調で、コハクを怖がらせないように注意しながらそう告げる
「うん、かえろ」
その日は、何にも手がつかなかった。本当ならやるべきことはいくつもあったが、ただ椅子に座り呆然とするだけで体を動かす気力など出なかった。コハクは何も言わず、一人で絵本を読み始めた。気が付けば外は嵐が吹き荒れ、風や雨が家を打つ音だけが部屋の中に響き渡る
気が付けば嵐も去って、空には朝日が昇り始めていた。机の上にはパンの食べカスがボロボロと落ちていた。コハクが夜に食べたのだろう。そう考えたら、自然と体が動き始めた。まずは、恐らくひどいでその顔をどうにかするため外へ出て顔を水で洗う。そして、パンを焼き、自家製の焼きベーコンを乗せる。しばらくすると匂いにつられてコハクが起きてくる。
「お、おはよ……パパ様」
恐る恐る、といったように。どこか怯えながらも挨拶をしてくれる。昨日の自分のせいでコハクに怖い思いをさせてしまったことを悔やみ、それでも挨拶をしてくれるコハクに思わず涙が出そうになる
「おはようコハク。ごめんな、昨日は何も作ってあげられなくて。俺はもう大丈夫だから。心配するな」
「……」
返事は返ってこなかった。しかし、コハクはゆっくりと近づいてきてポフッっとレオンに抱き着き、顔を服に埋める
(忘れるなよ。お前は一人の命を預かる大人だ)
自分に言い聞かせるように心の中で唱えるのだった。




