第29話
レオンはナターリリアと意識を失っているライカを先に天空雲城に送り届けたのち、アレスと女王の案内によりとある場所へと向かっていた。
「この先に世界樹ユグドラシルから生まれた苗木が保管された部屋がある。貴様にはその苗木をとある場所で魔力を与えてもらおう」
「わかった」
「しかし、君は随分自分の力に自信があるようだけれど。今ここでオイラと母様が同時に襲ってきたらどうするつもりなんだい?流石の君でもオイラ達二人の攻撃は防げないでしょ?」
「一つ。それをするメリットがない。するとしてもその後だ。それに君らはエルフだ。自分たちが見下し蔑む人間にあろうことか数的有利を取るなんて屈辱的な行為をするとは到底思えない。」
「へぇ~、他には?」
「俺が死ぬときは世界から魔族が居なくなった時だけだ」
そんな他愛もない会話をアレスとしていると一つの部屋にたどり着いた。そこは一件なんの変哲もない部屋だが、よく目を凝らしてみると何重にも折り重なって出来た結界魔法とさらにその上から張られた超高度な隠蔽魔法があった
「うわぁ~………」
思わずレオンの口から声が漏れる
「ほぅ、これを一瞬で見破るか。まぁ、それ程の魔力を内包しているのだ。不思議ではない」
そういうと一つの鍵を懐から取り出す。それをドアに取り付けられた鍵穴にはめ込むと一つ、また一つと結界が解けていく。
「それ一つですべての結界魔法。隠蔽魔法が解けるようになっているのか……」
「そうだよ。そして、その鍵も母様が肌身離さず持っているから盗まれる心配もない」
「さぁ、中へ入れ。この中に世界樹の苗木はある」
部屋の中は暗く、開けられた扉のみがこの部屋と外界とを繋いでいることが分かる。レオンがその中へ足を踏み入れ、数歩奥へと進むと扉はしまり光源を失った部屋は光の無い暗闇と化してしまう
(閉じ込められたッ)
そう感じた瞬間、思わず目を閉じてしまう程の光がレオンを覆いつくす
「―ッ⁉なんだ!」
「大丈夫。もう目を開けて大丈夫だ」
不意に耳元でアレスの声がする。
「なんだったんだ……って、これは」
目の前には苗木と呼ぶには立派過ぎる木が中へと浮かび上がっていた。
「これこそがユグドラシルの苗木。我らエルフ族の新たなる守護神である」
「これがそうなのか……」
前の時間軸でもレオンはそれを目にすることはなかった。
「これから一週間かけてこの苗木と魔力の波長を完全に同化してもらう。そして、さらに一カ月かけて同調させた魔力を苗木へと送り込み苗木の成長を促進。苗木が守護神としての力を発揮できるようになるまで魔力を送り込んでもらう」
「いッ⁉……オイ、マジですか」
レオンの考えではそんな長ったらしい工程をすっ飛ばして苗木に死ぬほど魔力を込めれば終わるかなぁ~と、とてもガバガバのプランを練っていた。そんなに長いので天空雲城で待機してる皆にその事を伝えなければならない
「そういう事なら一度拠点に戻って諸々の用意をしておきたいんですが。いいですか?」
「ならぬ。そう言って逃げぬとも限らぬ。」
先ほどまでそんなそぶりを見せなかった女王が五つの属性精霊を周囲に待機させ、魔力を練ってドアの前で臨戦態勢を取っていた。
「じゃあ、お目付け役として女王陛下かそこの第一王子がついて来るっていうのはどうですか?一応歓迎しますが……」
「ほぅ……」
食いついた!
レオンの提案に反応を示したのはエルフの第一王子であるアレスだ。コイツはエルフでありながら人の文明。文化を知りたいと欲する大変な変わり者であり、外の世界に飛び出す機会を虎視眈々と見計らっている。しかし、第一王子という立場がそれを許してくれない。そんな時にこの提案はアレスにとって喉から手が出るほどのもの。お目付け役の名目でエルフの国の外に出られる。これを見逃すアレスではない。
「なら、オイラがその任引き受けましょう」
アレスはレオンの肩に手を置くと、笑顔で女王に進言する。
「オイラがお目付け役なら母様も安心でしょ?」
「……はぁぁぁ。お主だから安心できんのだ。しかし、余も貴様の拠点とやらに興味がある。貴様は先ほど天を操った。その術は人間種が受けた恩恵。人間はそれを天啓と呼ぶらしいが……それも興味深い。余も共に同行しよう」
「あのねぇ、一国の頭がそんなホイホイ護衛もつけず外に出て言い訳ですか?」
アレスひとりでいいはずがどんどん雲行きが悪くなり始め、レオンは内心で少しだけ焦り始める。
「わかりました。お二方共々連れていきますよ………はぁ」
こんなことならナターリリアには一緒にいてもらった方が良かった。転移があれば二人を担いで行かずに済んだのに
心の中で悔やみながらレオンは部屋の外へと出るのだった
「危険です!どうかおやめ下さい。母上‼」
「そうですッ!この男。我々エルフの命を交渉に持ち込んだそうではないですか!そんな輩の懐にお母様自らが赴くなどなりません!」
そして今。女王は二人の娘、息子に全力で止められていた。
(まぁ、そうなるよなぁ。だって一国の女王だもん。流石にこれは想定外だ。)
「なら、お二人も一緒にご招待しますよ?フィオナ王女様。ハインケル王子様」
「なッ……貴様!気安く私の名前を呼ぶ出ない。この下郎ッ!」
「そうだッ!多少魔力の量に自信があるからと人間如きが調子に乗るでないッ!」
そんな提案に二人は今にも噛みつきそうな勢いで拒絶する。そんな二人にレオンは大きく一度ため息を付き、アレスと女王に視線を向ける
「仕方がありません。」
「子供たちよ……いい加減にしなさい」
静かに告げられたその言葉には先ほどまでは消されていたプレッシャーが再び女王から噴き出す
「「―ッ……しかしッ!」」
(お、流石は女王の直系。この程度であればまだ言葉が出るのか)
レオンの中で二人の評価が上方修正される
「これは決定事項である。それとも余が人間如きに遅れを取るとでも?」
「………い、いえ。そのようなことは」
「ふむ、これも良い機会だ。貴方達も一緒に来なさい。」
(えっ⁉何?一緒に来るの?)
「なんだ?駄目なのか?」
レオンの微細な仕草から動揺を察知したのか鋭い視線がレオンを射抜く。
「い、いえぇ~」
本当に先行きが悪くなってしまいレオンは頬を引きつらせ苦い笑みを浮かべることしかできなかった。
はぁ……それでは皆さん行きますね『雲よ』」
その言葉に呼応してレオンの足もとに十人は余裕で乗ることの出来る雲を出現する
「これに乗ってください。安全性は保障します。」
「ほぅ……これの貴様の能力なのか」
女王はレオンが出現させた雲を注意深く観察し、アレスは躊躇なく雲に飛び乗る。そんな二人とは対極的にフィオナ王女とハインケル王子は懐疑的な眼でソレを見る
「あの……早くしてくれませんか?じゃないと置いて行きますよ?まさか怖いんですか?」
ブチッ!
その一言に二人はキッと目を見開き、レオンを射殺さんばかりの視線を送ると躊躇しながらも雲に乗った。
「それでは行きます」
そんな掛け声と共に皆が乗った雲は動き出すのだった




