第27話
それから更に一カ月。レオンたちは時折地上へ降り、生活に必要な物資の調達と周辺の魔物の討伐をしながら空中での旅は続いた。そしてついに目的の地であるエルフの国アルヴヘイムへとたどり着いたのだった
「こ、ここがあのおとぎ話の国アルヴヘイム………初めて見ました。」
目の前に広がる大自然。しかし、それがただの大自然でないことはナターリリアには理解できた。
「正確には、この森はアルヴヘイムに続く森だ。この森の中心にアルヴヘイムはある」
そして、本来この地は人間にとって到達不可能領域と呼ばれ、文字通り何者にもたどり着けぬ地と認定された場所である。一度この森に入るとエルフが扱う魔法によって、方向感覚を奪われる。そして、最後には森の栄養と化してしまうのだ。この森を抜けエルフの国にたどり着く為にはエルフの招待を受け、エルフに導かれる必要がある。前の時間軸ではこの方法でレオンはローランたちとエルフの国へと訪れた。
しかし、今回はそうではない。レオンとナターリリアの二人だけで正規の手順を踏まず、エルフの国の戸を叩かなければならない。では、どうやってそこへ至るのか。それは至って単純。エルフの魔法を寄せ付けないほど高濃度の魔力場を、二人を中心に半径数メートルで展開すればいい。
「エルフの塔の地下にあった書庫。その中の一冊によればエルフの魔法は精霊を介して発動するらしい。そして、魔法発動には人間の魔術と一緒で魔力が必要なのだと書かれていた。つまりだ、この方向感覚を狂わせる魔法に用いられた魔力以上の魔力で打ち消してやれば魔法は意味をなさない。そう結論付けたということだ……って、ん??」
森を歩きながらつらつらとレオンは自身の考えを、隣を歩くナターリリアに語る。しかし、それを聴くナターリリアは顔を青くし、額から大粒の汗を流しながら歩いていた
「どうした?」
「あ、あなたの……高濃度な、魔力に……あ、あてられて。頭が痛いの」
息も絶え絶えと語る彼女は今にも倒れそうだった。
実際レオンが展開した高濃度魔力場は禁足地帯『スノー』の魔力場の数倍はある。禁足地でさえ通常の人間には数秒で失神。そして、その土地の特性によって絶命する。そして、その数倍となるともはや国王を守護するエリートのナターリリアでさえ立っているのがやっとなのだ。そんな魔力場を涼しい顔で展開し、平然と歩いているレオンとは一体何者なのかと朧げな意識の中ナターリリアそう思うのだった
「あ、気絶した。」
レオンが放つ高濃度の魔力にあてられ気絶したナターリリアを担ぎ上げ、深いため息を付きながらレオンは再び歩き出す。
・・・・・・・・・・・
「ぃ……ァ、ぉい……リリア……おいッ!」
ペチペチと頬を何かで叩かれる痛みと遠くから聞こえる誰かの声
「起きろッ!ナターリリア!」
「―ッ⁉……こ、ここは?」
「ようやく起きたか。まぁいい。お前が寝ている間に着いたぞ。エルフの国アルヴヘイムに」
そう言って、レオンが振り向いたその先にナターリリアもつられて視線を向ける。その瞳に映ったのは王都に聳え立つ王門以上に立派な門だった。
「さぁ、起きたのなら自分の足で立て。ここからが本番だぞ」
「ッ、はい!」
「よし、それじゃぁ……フンッ!」
ドォォォォンッ!!!
「へ……はぃぃぃ⁉」
凄まじい音を立て土煙が立ち上る。突然のレオンの奇行にナターリリアに目が飛びだす。
「ちょちょちょッ!何やってるんですか!」
「何って、ノックだよ。人様の御家にお邪魔するときは戸を叩くだろ?」
そう言って首をかしげるレオンにナターリリアは絶句する。そして、先ほどの高濃度魔力を浴びた時のような頭痛が再びぶり返す
「まぁ、ソレは冗談なんだが……フンッ!」
そして、再び門を強化した拳で殴りつける
「こうしないと多分門を開けてくれないだろ」
「もし開いたとしてもそれは襲撃してきた敵に応戦するためです!そんなことになったら印象最悪じゃないですか!何してるんですか!」
「いや、だから……ッ。ハァ!」
瞬間レオンは周囲に高濃度の魔力を展開し、降り注ぐ魔法の雨を防ぐ。
「ヒッ……」
「……おい、お前」
「…………それ以上は言わないでください」
小さく短い悲鳴を聞き、レオンが其の方向を見ると真っ赤な顔で俯くナターリリア。そして、水音がその真下から聞こえる。視線を落とすと地面に小さな水たまりが……
「はぁぁ~、あとで服でも空間転移で替えのものを取り寄せなさい」
「うぅぅ、はい……」
消え入りそうな声でそう言うと一瞬でその場から消えてしまう。
もう一度大きなため息を付く。そして、
「大層な歓迎痛み入る!エルフ族の者たちよ‼」
そう言って、大きな門の上を見上げる。そこには十を超えるエルフ族の者がレオンを射殺すような眼をする
「早速で悪いが貴殿らの女王に面会を所望する!この門を開けてもらおう‼」
そう言い終わるや否やさらに複数の魔法が展開、レオンを殺そうと降り注ぐ。その一つ一つが数百の軍隊を容易く滅ぼすことが出来うるのもばかりだ
「はぁ、やっぱりこうなるか……まぁ、エルフって人間大嫌いだし目に見えてたが。これじゃあ、らちが明かない……仕方ない。眠ってもらうか『集え』」
レオンの号令に集まりだす黒い雲。その異変に気付くエルフはいない。全員目下の敵を排除せんと躍起になっているのだから。
「最後忠告だ!この門を開けろ。さもなければ貴殿らにはここで沈んでもらう!」
声を張って最後忠告を試みるもエルフたちは絶え間なく魔法を打ち続ける。
「いいだろう。なら、喰らって沈め!時雨の槍!」
瞬間遥か上空から放たれるソレは門の上に立ちはだかるエルフを打ち抜く。降りやむことがなかった魔法も全て解除され、周囲は木々が風で揺れることのみとなる。
「ぜ、全員殺したんですか?」
後ろからいつ戻ってきたのかナターリリアの声がする
「いや、致命傷は避けたから死ぬことはないだろう。流石に殺しまでしてしまうとまずい。」
「この状況もそれなりにまずいと思うのは私だけでしょうか」
「そうだなぁ、オイラもそう思うね」
「「ッ!」」
その時、レオンでもナターリリアでもない第三者の声が二人の会話を遮る。その声が聞こえる先。門前へと素早く視線を向け、臨戦態勢を向ける。しかし、レオンはその声の主を見た途端魔纏を解除する
「なんだ、アレスか……」
「おや?君はオイラを知っているのかい?オイラの記憶では君とは初対面のはずだが」
「その記憶は正しい。気にしないでくれ、俺が一方的に知っているだけだ。」
(この時間軸ではな)
そう、この男。正式な名はアレス・フィ・レウス。エルフ女王の一人目の息子。つまりは第一王子様ということだ。
前の時間軸では、一時的ではあるがレオンたちと仲間になり一緒に敵に立ち向かった仲である。アレスは王子でありながら、それには似つかわしくないエルフで人間のことを知りたがるエルフの中でもとても稀有な存在だ。
「それよりも君の母上の元に案内してほしい。頼めないか?」
「―ッ⁉あのレオンさんが……お願いを⁉」
すごい勢いでこちらに振り向きギョッとした目を向けてくるナターリリア。その目はまるでありえない化け物でも見る目だった。
「おい……一体お前は俺の事をなんだと思ってるんだよ」
「横柄で粗雑で誰に対しても礼儀を弁えないくせに人助けを心情としているらしいとても矛盾している人だと思っています」
「……最後の部分。誰から聞いた?」
「ルーチェさんに伺いましたが」
「あいつかぁ~……」
「アハハハッ!お兄さんたち、面白いね!」
そんな会話をしていると門の上から降りてきたアレスが腹を抱えながら盛大に爆笑をする。その目にはかすかに涙が浮かんでいた。
「はぁ……お腹痛いぁ~。母様に合わせるのは別にいいよ。でも、理由は?一国のトップに会うんだ。それ相応の案件なんだよね?」
「あぁ、俺の仲間が魔穴不全を起こして常時魔力欠乏症になっている。症状はかなり重い。すでに内臓にまで影響を及ぼしている。これを直すことが出来るのは俺の知る限りエルフの女王しかいない。勿論ただでとは言わない。それ相応の対価は払おう」
「ふぅ~ん……対価、その意味を君は理解しているのかい?」
「もちろんだ」
そう言ってレオンは体内で練り込んだ魔力の一部を解放する
「ちょ、ちょっとッ!レオンさん‼」
「へぇ~」
その魔力にナターリリアは後方に押し飛ばされ、アレスは感嘆の声を挙げる
「これはまだほんの一部に過ぎない。これでも不満か?」
「いや、十分だよ。君たちに母様への謁見を認めよう」
「それは重畳」
やはりというべきだろうか。第一王子という肩書は伊達ではなかった。エルフの国アルヴヘイムにアレスの案内のもと入国することが出来た。そして、現在レオンとアターリリアの二名は客室で謁見の準備が整うのを待っていた。
「こんなにあっさり女王陛下との謁見が叶うなんて……夢にも思いませんでした。」
「俺も半分は賭けだった。アレスが来てくれなければあのまま門を飛び越えてそのままエルフの国に入国。向かってくる敵を屠りつつ女王の元まで向かうつもりだった」
「へ、へぇ~~……そ、そそ、そうだったんですねぇ~」
震える声で相槌を打つナターリリアは内心アレス
(ありがとうございます。アレス様!)
と心の底から泣いて感謝していた。
「それよりもだ。ここからが本番だ。わかっているな?」
「はい……でも、もしこの交渉に失敗したとしても私はあなたに付き従います」
「大丈夫だ。絶対に成功させて見せる。最終手段もしっかり用意してあることだしな」
「………念のために確認しておきますがその最終手段っていうのは―」
「聞きたい?」
ニッコリと満面の笑みを浮かべながら問いかけるとナターリリアは顔を真っ青にしながら拒否するのだった。
「お初に御目にかかります。エルフ国女王陛下。此度の謁見の機会を設けてくださったこと大変ありがたい所存です。」
「…………」
そして今、エルフ国女王ル二エル・フィ・リーフ・アウリエとの謁見が始まる




