第26話
「レ、レオンさん。それは名付けといってドラゴンのような知能を持った高位の魔物が生まれたばかりの子を外敵から守るため急激に成長させる行為です。本来……内包する魔力がドラゴンの百分の一以下の人間がそんな事をすれば干からびて死んでいるはず。それなのにあろうことか三匹も……あなた。本当に人間ですか?」
声を震わせながら化け物でも見るかのような目でナターリリアはレオンを見る
「まぁ、魔力が底をつくことは絶対ないからな……でも急激な成長といっても今のところ言葉が通じるだけだ。急激な成長とは言い難くないか?」
「それについてはなんとも……私も王城内にある司書室で過去の資料をチラッと読んだだけですから。そもそも人がドラゴンを卵から孵化させること自体前例のないことです。ドラゴンの孵化には大量の魔力が求められます。人間の魔力では到底成せることではないんです。それを……」
レオンがドラゴンを三匹も孵化させることが出来た最大の要因。ソレは言うまでもなく魔神の心臓である。尽きることのない魔力がこの三人を育てたのだ。
「お前らの家は別に用意している。案内してやるから弟二人も連れて来い」
「え、ここに家?あなたが創ったんですか?」
「は?そんなわけないだろ。完成した家をそのまま担いでここに運び込んだんだ。」
「はい?」
レオンの言葉にナターリリアは理解が及ばず首をかしげる。
そう、この男地上で作らせた家を強化した身体で丸ごと担ぎ上げ、この天空雲城へと運び込んだのだ。平然とソレを言い放つレオンにナターリリアは遅れてソレを理解し、絶句するのだった
そこから数日が過ぎ、三匹の子竜について分かったことがある。三匹の子竜はそろって感情の起伏がそのまま魔力特性を放出するトリガーになっていた。エルトロンは怒りや悲しみを感じると体中から高電圧の電気を放出し、ローズマリンは鍛錬場全てを吹雪へと変えた。ハイドランジーは泣き虫なようで何かあるたびに泣きわめき周囲を洪水並みの水浸しにする。三匹とも抱っこが大好きなようで俺はほぼずっと誰かを抱っこしている状態となった。幸いというべきか三匹ともとても従順……とはいかないまでも俺のいう事を聞いてくれるので最悪の事態には至っていない。そして、三人とも成長速度が人とは比べられない程早く、すでに十一~十二歳程度まで成長していた。
「エルトロンッ!動きが直線的過ぎだ。もっと地形を活かせ。お前の長所はその速度だ。」
「わかったッ!父ちゃん。ハァッ‼」
エルトロンとレオンが戦っている。体から常に雷を帯電し、常人では視認することが出来ない程の速度で攻撃を仕掛けるエルトロン。魔纏を使用し、エルトロンの攻撃を綺麗に受け流すレオン。そして、鍛錬場の隅ではハイドランジーが絵本を読み、ローズマリンがウトウトしていた。
(流石古竜種。エルトロンの魔力特性『雷』による超速度と雷を纏った打撃は魔纏で全身を保護している俺でなければまず無事ではない。それに教えたことをすぐにインプット。そして、アウトプットしてくる。この分じゃ、すぐに体術では教えることはなくなるかも………ただ、魔力の使い方がとても稚拙でまだまだ危ない。)
エルトロンの帯電は無意識で行っており、レオン以外が近くにいると感電してしまう。それを危惧したレオンはエルトロンに常時自身の魔力を極薄に伸ばし、エルトロンに纏わせている。そうすることで雷は魔力に妨害され周囲に拡散されることはない。同様の理由で常時周囲に冷気を放つローズマリンの角にもレオンの魔力を纏わせている。ハイドランジーに関しては周囲を水浸しにするだけで特に害はないのでそのままにしておこうと考えていたが、エルトロンとローズマリンの二人だけにずるいと何故か泣いて手が付けられなくなったためローズマリンの角にもレオンは魔力を纏わせることになった。
「よし、今日はこのくらいでいいだろう」
「うぅ~、今日も全然だめだった」
「いや、昨日よりも動きが断然良くなってる。体術に関してはあと少しで教えられることはなくなるな。」
「ほんと⁉」
「あぁ、本当だ」
その言葉にエルトロンは『やったぁ~』と飛び跳ねて喜んだ。そんなエルトロンの頭を撫でてやると嬉しそうに頬を緩める。それを見ていると産まれたばかりの子竜なのだという事を実感できる。そんなことをしていると
「あぁ~、お兄ちゃんだけズルいぃ~!」
「……うん。ズルい」
そういって、鍛錬の邪魔にならないようにと隅にいたはずの二人がやってきて頭を撫でてと言わんばかりに頭を突き出して催促してくる。
「はいはい、二人も偉いぞ」
望み通り二人の頭を撫でてやるとエルトロンと同じようにとても幸せそうな顔をする。それを見ているとレオン自身も幸せを感じられるようになっていた。
「―ッ!」
しかし、その瞬間あの日のことがフラッシュバックする。あの日見たコハクの姿を………
「と、父ちゃん……だいじょうぶ?」
何かを感じ取ったのだろう。三人がこちらを不安そうな目で見つめる。
「あぁ、大丈夫。気にするな」
心の中で渦巻くどす黒いこの感情を三人に悟られぬよう笑顔を作る。
あの時と一緒だ。ローランが死んだとムー婆さんに教えられた時、コハクも俺の何かを察し、とても不安そうな表情をしていた。子どもには何かそういったことを察知する能力があるのだろうか。厄介なものだ。
「大丈夫だ」
再度同じ言葉を吐き、三人を抱きしめる。
内に秘める力は人間と比較するまでもないが、それでも生まれたばかりの赤子であり、その精神は未熟なのだ。生きているからこそ感じる三人のぬくもりを感じながらレオンは再び自分に言い聞かせる。
―忘れるな―
と




