本当は怖い『桃太郎』~二人の桃太郎~
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがおりました。
おじいさんは山へシバ狩りに、おばあさんは川へ洗濯へいきました。
「チィッ…さすが氷神シヴァ。硬いわ…」
「ふふふ。人間にしてはなかなかやるではないか」
「若い頃はバハムートを狩って歩いた(?)ものさ」
「人間はそうやってくだらぬ嘘をつくから好かぬ」
「これ、お守り代わりに持ってるバハムートの牙」
「!! この純粋かつ強烈な魔力…!間違いなく竜王バハムートの牙…!」
「最近、戦いのカンなまっちゃってるからシヴァ相手でもしんどいわ。一ヶ月くらい特訓して出直そうかな」
「待って待って!参った!」
「えー。遠慮しなくていいのに」
「お前の強さを認める!だから許して!褒美をあげるから!」
「じゃあ、ばあさんにかき氷食べさせてやりたいから氷がほしい」
「やさしい!ていうか割と欲薄いな!」
「あ、まだ戦る?」
「ウソウソ!氷くらいなら欲しいときにいくらでもあげるから堪忍して…」
一方おばあさん。
「ばあちゃんごはんマダー?」
そう言うのはおじいさんとおばあさんが親代わりに育てている孫の喪太郎です。
「はいはい。もうちょっとで洗濯が終わるでな」
上流から大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきました。
「でっ…」
「でっ…」
おばあさんと喪太郎は、二人がかりで大きな桃を家に持って帰りました。
「というわけで持って帰ってきました」
「でか!わしが取ってきた氷で桃のかき氷が腹いっぱい食えるな!ハッハッハ…」
「それもいいですねえ」
「とりあえず二つに切りましょう」
「喪太郎も手伝って」
「うい」
3人がかりで桃を切ると、中から可愛い男の子の赤ちゃんが出てきました。
「えええええええ なんだってー!?」
「ばあさんや…」
「うむ、じいさん…」
「これは…喪太郎が赤ん坊のときにそっくりじゃ…」
「うむ………」
桃太郎はすごいスピードで成長し、数か月で喪太郎と同じサイズになりました。
身長・体格・声・喋り方・立ち居振る舞い、全てが鏡写しのようにそっくりで、
おじいさんとおばあさんにも正直見分けがつきません。
喪太郎もまた、桃太郎が自分の癖や口癖を自然に真似していることに気づき、
まるで自分がもう一人いるような気味の悪さを感じていました。
そして何よりも問題だったのは、食い扶持がひとり増えたことで家計が苦しくなったことです。
ある日の夜、おじいさんとおばあさんは喪太郎だけを呼び出して話をしました。
「喪太郎、実はな。お前は私たちの孫ではなく実の子で」
「ふーん。まあそれはそんなに問題無いような」
「私たちが若い頃、鬼は退治したんじゃ。それから村に戻った二人の間に生まれたのがお前で」
「ふんふん」
「実はお前は一卵性の双子の兄がおってな…。それは生まれてすぐ死んでしまったのじゃ…」
「えっ」
「鬼の怨念の復讐だろうか…桃太郎は…」
「じゃが言うておく!喪太郎も桃太郎も私たちにとっては優劣付けられぬ大切な子供じゃ…!」
「………。」
それからまたしばらくして、桃太郎は喪太郎を呼び出しました。
「…ボクは両親の愛情を独占してきたキミが憎い」
「…お、おれだってお前が来てからじいちゃんとばあちゃん…じゃなかった、
父ちゃんと母ちゃんががおれのほうみなくなったと感じる!」
「一人増えて、生活も苦しくなったよね」
「そうだ!お前のせいだぞ!」
「………ここにいるのはどちらかひとりでいいとは思ないか?」
「同感…上等だ…!」
「刀をやるよ。村はずれの墓地まで来い」
「おもしれぇ…」
『本当にそれでいいのか?』
それはどちらの太郎が言ったのでしょうか…。
「ただいま…」
返り血を浴びた少年が帰ってきました。
「おかえり…”もう一人”は帰ってこないのかい…?」
おじいさんとおばあさんは全てを察しているようでした。
「うん…」
「夕飯ができたぞ。食べようか」
「うん…」
3人は仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
それからまたしばらくして、村はずれの墓地には新しい墓標が建てられました。
桃の種が一粒だけ、お供えのように置かれていました。
『………太郎 ここに眠る』
(完)