■第8話『心音からの手紙――“逃げない背中”を見せる時
■Scene:心音から届いた手紙
春の陽光が差し込むリビングのテーブルの上に、一通の封筒が置かれていた。
「……心音?」
瞬は差出人の名前に一瞬だけ戸惑いながら、封を切った。
丁寧に綴られた文字――そこには、彼女の真っ直ぐな決意が詰まっていた。
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瞬兄ちゃんへ
この前、握手会で見た義姉様の姿――
あれが、私の“なりたい姿”でした。
たくさんの人の前で、堂々と立ち続ける姿。
でも、その裏で、ちゃんと“ひとりの妻”であり、“母”であり、“姉”でもあるほのかさん。
正直、ちょっと悔しかった。
私も、ちゃんと誰かを支える“表現者”になりたい。
今回のお仕事で、正式に芸能事務所に所属することになりました。
これからは“女優・佐伯心音”として、兄の背中に恥じないように頑張ります。
だから、兄ちゃんも――
迷ってるなら、踏み出してみて。
芸能界じゃなくてもいい。
でも、“好き”で始めたことから逃げない兄ちゃんでいてください。
佐伯 心音 より
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「……そうか、心音も、前を向いてるんだな」
瞬は深く息を吐き、手紙を握りしめた。
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■Scene:少人数のイベント会議
後日、社内の特別会議室。
そこには社長、副社長、専務、常務に加え、黒崎課長、そして選ばれた若手社員たち――
25歳の男性社員・桐谷、28歳の女性社員・高嶺、38歳の男性社員・安田の3人が座っていた。
「なんで私なんですか…」と戸惑う彼らの視線がほのかへ向く。
そして登場したのは、綾瀬ほのか本人と、藤堂マネージャー。
「はじめまして、綾瀬です。本日はどうぞよろしくお願いいたします」
一礼するその姿に、会議室内は一瞬で張り詰めた空気に包まれた。
そして、司会役の黒崎課長が進行を始める。
「……ええっと、今回のイベントは、当社のブランドイメージ刷新の一環として――」
議題は、社のキャンペーンイベントと、それに紐づくCM制作。
社員も参加する形で、実際の職場や商品が登場するリアルなプロモーションを打ち出す案だ。
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■Scene:ほのかの隣で
会議の合間、藤堂マネージャーが瞬の元へ歩み寄る。
「……また今回も、彼女楽しみにしてますからね」
笑顔で肩を叩かれた瞬は、少し照れたように頭を掻いた。
「分かってます。責任もって、やりますから」
その言葉を聞いた藤堂は、小さくうなずきながら去っていった。
瞬の中に芽生えた、ひとつの答え――それは“芸能界”という表舞台に立つことではなく、“会社の顔”として責任を持つという、新たな覚悟だった。
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■Scene:社長への報告
会議が終わった直後、瞬は社長室へと足を運ぶ。
「……社長、ひとつ、報告がありまして」
社長は腕を組みながら微笑を浮かべる。
「なんだ、急に改まって」
「今回のプロジェクト、正式にお引き受けします。ただし…僕は芸能人じゃありません。
でも、“この会社の一員”として、責任を持って参加させていただきます」
瞬の真剣な瞳に、社長はしばし黙ってから――
「……いい目をしてるな、佐伯。心音さんの手紙に背中を押されたか?」
「えっ、なぜ…?」
「黒崎課長から聞いたよ。“妹から手紙が来た”って。……大切にしろよ、そういう想い」
社長は静かに頷きながら、背もたれに寄りかかると一言。
「イベントの成功は、社員の未来にもつながる。頼んだぞ、“うちの顔”」
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