■第7話 『バレたら、終わり』
春の終わり、週刊誌《TOUCH!》編集部の一室。
「ほら見ろ、これが証拠写真だ」
記者の男が、満足げにカメラの画面を指差す。
そこには、変装した綾瀬ほのかと、
学生服姿の少年――佐伯瞬が、
マンションの裏口からこっそり入っていく様子が映っていた。
「ただの知人って言い訳は通じねえな。この時間、この場所、この距離感――どう見ても“恋人”だ」
「いや、待て。俺はもっと強烈なのを持ってる」
別の記者が取り出したのは、
瞬の地元での写真。実家近くを並んで歩くふたりの姿。
「これ、一般人の男の実家らしい。“国民的女優”が、相手の実家に通ってる――これ、普通の恋愛じゃないよな?」
会議室の空気が一気に変わる。
「……まさか、“結婚”してるって線は……?」
その瞬間、編集長が静かに言った。
「動け。今週のトップだ。“綾瀬ほのか、極秘結婚”。相手は一般人高校生、しかもファンだった――これ、世間は確実に燃えるぞ」
⸻
同じ頃。
撮影の合間に控室へ戻ったほのかのスマホに、一本の電話が入る。
「綾瀬さん……やばいです」
マネージャー・藤堂の声が、震えていた。
「《TOUCH!》が動きました。
あなたと“彼”の写真が、複数。
来週月曜、特集記事を組むと連絡がありました。もう止められません――」
沈黙が落ちる。
その知らせを受けた瞬、
彼女は、ゆっくりと鏡を見つめた。
疲れた顔。笑顔が引きつっていた。
「……やっぱり、限界だったんだね、秘密の結婚なんて」
⸻
夜。
マンションに戻ってきたほのかは、真っ先に瞬のもとを訪れた。
今は別居していたが、合鍵はまだ互いに持っていた。
「……瞬くん、話があるの」
「うん、知ってる。週刊誌、出るんだろ?」
「ごめん……私がもっと用心していれば」
「違う。悪いのは、俺たちの幸せを“スキャンダル”にしたがる世間だよ」
一瞬、二人の視線が重なり、そして沈黙する。
やがて、ほのかが口を開いた。
「このままだと、あなたの人生にも傷がつく。大学生活も、就職も……“女優の夫”ってだけで、全部色眼鏡で見られるかもしれない」
「でも、君と出会って、君を守りたいと思って――
俺、初めて“生きててよかった”って思えたんだ」
「……瞬くん」
「この結婚がバレたら終わり、なんじゃない。
バレたからって、俺たちが終わるって決めるのは、“他人”じゃない」
彼の言葉に、ほのかの目に涙がにじむ。
「……じゃあ、私たちの口で、世間に伝えよう。
誰かに書かれる前に、“私たちの言葉”で、話そう」
⸻
数日後。
SNSに、一つのポストが投稿された。
【綾瀬ほのか・公式コメント】
「私は、ある一般男性と結婚しています。
彼はかつて、私のファンでした。
でも今は――私にとって、いちばん大切な人です」
「秘密にしていたこと、お詫びします。
ですが、これは演技ではなく、本当の愛でした」
⸻
世間は騒然とした。
ネットは賛否であふれ、ニュース番組は一斉に報道を開始。
《推しと結婚とか夢ある》《裏切りだ》《応援する》――
感情は錯綜した。
だが、ほのかの言葉には、嘘がなかった。
彼女の目を見た人々は、静かにそれを受け止め始めていた。
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