表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/35

■第6話 『私、あなたのいちばんのファンでいたい』


春が終わり、初夏の風が吹き始めたある日。

綾瀬ほのかのスケジュール帳は、すべてのページが“撮影”で埋め尽くされていた。


主演ドラマの人気は右肩上がり。

SNSでも“再ブレイク”と騒がれ、雑誌やバラエティの出演オファーがひっきりなしに届く。


一方、佐伯瞬は高校を卒業し、大学生活が始まったばかり。

理工学部の課題、実験、オンライン授業――慣れない環境に疲れながらも、誰にも言えない「既婚」の肩書きを隠して過ごしていた。



「……最近、帰りが遅いね」


夜10時過ぎ、マンションのリビング。

ようやく帰宅したほのかに、瞬はぽつりとそう言った。


「ごめん。今日も撮影、巻けなかったの」


「ううん、わかってる。君が忙しいのは、すごく誇らしいし……嬉しいよ」


瞬は笑ってみせたが、コップを持つ手は少しだけ震えていた。


「ただ、ちょっとだけ……寂しいなって思っただけ」


ほのかはハッとした表情を浮かべた。

すぐにソファの横に座り、彼の手を取る。


「ごめん……ほんとは、瞬くんのこと、ちゃんと見てたいのに」

「でも、“今しかできない仕事”があるって言われると、どうしても……」


沈黙。


互いにわかっているのだ。

“今のこの結婚”が、どれだけ奇跡の上に成り立っているかを。



翌日、ほのかは事務所に呼び出された。


マネージャー・藤堂が、深刻な面持ちで口を開く。


「綾瀬。次のドラマが決まった。なんと、地上波ゴールデンタイム・3クール主演だ」


「……!」


「でも、ひとつ条件がある。“プライベートの一切を制限する”こと」


「つまり……結婚してることも、全部?」


「そうだ。カメラマンが最近、お前の私生活を嗅ぎまわってる。

これ以上噂が出れば、スポンサーが黙っていない。

綾瀬、もう一度聞く。

……“一般人の旦那”との関係、本当に続けるつもりか?」


ほのかは、拳を握りしめた。


一緒にいたい。でも、瞬を巻き込むわけにはいかない。

――このまま一緒にいれば、彼の未来をも壊してしまうかもしれない。



その夜。

彼女は静かに切り出した。


「瞬くん……少し、距離を置かない?」


「……え?」


「仕事が、本格的に忙しくなるの。家に帰れない日も多くなる。

私がいることで、あなたの大学生活にも影響出るかもしれない。だから――」


「それって、“別れたい”ってこと?」


「違う。……違うの。

一緒にいるために、離れることを選びたいの。

いまの私には、君を守れる力が足りない。

でも、諦めるわけじゃない。

いつか堂々と、みんなの前で“妻です”って言える日まで、待っててほしいの」


瞬は、その言葉に何も言い返せなかった。


涙がこぼれそうだったけど、彼女の瞳にはそれ以上の決意が宿っていた。


「わかった。……待つよ」


「ありがとう」



数日後。

ほのかは撮影のため、地方のスタジオへと向かい、

瞬は、大学近くのアパートへと“別居”のかたちで一時移住した。


新婚生活は、わずか数ヶ月で、いったんの終わりを迎えた。


けれど、心の中には確かに残っている。

あの夜、交わした“約束のキス”と、

「いちばんのファンでいたい」という彼女の言葉。


たとえ、離れていても。

“心だけは、そばにいる”と信じているから。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ