■第10話 『誰にも言えなかった“ありがとう”を、いま――』
■Scene:ある平日の朝・社内会議室にて
四児の父となり、就職して1年。
佐伯瞬は、仕事と家庭を両立するため、日々全力で走っていた。
大学時代とは違い、今はチームの中核を担う存在として、部下に指示を出し、取引先との交渉もこなしている。
そんなある日、社長から突然、別室に呼び出された。
「佐伯くん、少しだけ話がある」
そこにいたのは、社長と直属の上司――
上司の田中課長は、以前から“綾瀬ほのか推し”を公言していた男だった。
瞬:「お疲れさまです……」
社長:「実はね、ちょっと驚いたことがあってね」
課長:「……綾瀬ほのかさん。君の“奥さん”なんだって?」
瞬:「っ……! ……はい。秘密にしていたつもりですが……申し訳ありません」
社長と課長は顔を見合わせ、そして少しだけ沈黙が流れた。
課長:「……好きだったんだよ。彼女の作品。インタビュー記事は全部切り抜いてたし……
でも……なんか、納得したよ。君が旦那なら、しょうがないなって」
社長:「あのさ。驚いたのは確かだけど、もう一つあるんだ。うちの会社、来期から新しいCMを出す予定でね。
“家族”をテーマにした映像を打ち出したい。……できれば、奥さんを起用できないかと思ってる」
瞬:「えっ……!」
社長:「直接ではなくていい。まずは、君の口から彼女に“打診”してみてくれないか」
課長:「こっそりでいいんだ。俺も現場には絶対顔出さないからさ……頼む!」
瞬は少し戸惑いながらも、深くうなずいた。
「……分かりました。一度、相談してみます」
⸻
■Scene:夜・リビングにて
子どもたちが寝静まったあとの静かな時間。
ほのかはソファに座って、台本を読んでいた。
瞬は冷蔵庫からふたり分の炭酸水を取り出して、彼女の横に腰を下ろす。
瞬:「ねえ、ちょっといい?」
ほのか:「うん? どうしたの?」
瞬:「今日、会社で社長に言われた。……来期のCMに、出演してほしいって」
ほのか:「……私に?」
瞬:「うん。“家族”がテーマで、社内でも君の名前が最初に挙がったらしい。……もちろん、無理にとは言わない」
しばらく考えるように沈黙したあと――
ほのかはふっと優しい笑みを浮かべた。
ほのか:「“家族”がテーマ、なんだよね?」
瞬:「うん」
ほのか:「だったら、私だけじゃなくて――あなたも、出てくれない?」
瞬:「えっ……!?」
ほのか:「私ひとりの“綾瀬ほのか”じゃなくて、“あなたと一緒の私”を、映してほしい。
そうすれば、あなたが誰なのかを知らないままでも、“私のいちばん大切な人”って、伝わるでしょ?」
その言葉に、瞬の胸が熱くなる。
言葉よりも、伝わってくるものがある。
彼女はいつも、見えないところで愛をくれている。
瞬:「……ありがとう。俺、ずっと君のファンだけど、今はそれ以上に……君の夫であることが、誇りなんだ」
ほのか:「私も。“あなた”がいてくれるから、演じ続けられる。……あの日、出会ってくれてありがとう」
ふたりは静かに顔を寄せ合い、
ゆっくりと、深く、甘くて長いキスを交わした。
言葉はもう、いらなかった。
⸻
■Scene:翌朝・家族の始まり
いつものように、陽翔と紬が制服で家を走り回り、
奏と蒼が保育園のバッグを背負ってはしゃいでいた。
朝食を並べるほのか。
ランドセルを背負って手を振る子どもたち。
出勤前の瞬。
この家は、普通じゃない。
けれど――世界でいちばん“ふつうで特別”な家族だった。
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