■第8話『光の主演舞台、裏方の瞬』
――“表”と“裏”。
舞台に立つ者と、それを支える者――
その絆に、名前はいらなかった。
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晩夏。
東京・日比谷の名門劇場で、俳優・佐伯光の主演舞台が幕を開けた。
タイトルは――
『ユリシーズの誓い』
亡国の王子が、記憶を失った恋人との約束を探す幻想劇。
そしてその舞台裏には、もう一人の“佐伯”の姿があった。
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■Scene:裏方としての瞬
舞台美術補助、照明調整、タイムキーパー補佐。
瞬は、大学時代の舞台制作経験を活かし、
兄・光の舞台スタッフの一員として働いていた。
瞬:「兄貴、袖の位置、少しズレてる。あと20cm左寄り」
光:「おー、さすが弟。よく見てんな。……頼りにしてるぞ、舞台裏の相棒」
観客の誰もが知らない。
そこに“兄弟”が並んで立っていることを――
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■Scene:ほのかの客席
観客席の中央に、
マスクと帽子で目立たぬように姿を潜めた女性がいた。
綾瀬ほのか――
夫・瞬の“裏方としての姿”を見るため、密かに来場していた。
幕間、彼女はそっと呟いた。
「……表で輝く光さんの裏に、あなたがいる。
それって、すごく“佐伯家らしい”光景だね」
瞬は決して舞台には立たない。
でも、その情熱と誠実さは、光を支える力になっている。
それがほのかには、たまらなく誇らしかった。
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■Scene:終演後の袖
スタンディングオベーションの中、
幕が下りた舞台袖――
光:「なあ瞬……俺さ、今日の演技で何点だったと思う?」
瞬:「85点」
光:「ちょ、兄弟なんだからもうちょい盛れや」
瞬:「あとの15点は……“素の兄貴”の部分をもう少し出せたら満点」
光は少し黙って、ふっと笑った。
光:「そっか……お前は、俺の一番“素”を知ってる人間だもんな」
瞬:「うん。そして……俺の“素”を知ってるのは、あの人だ」
舞台袖の奥――
小さく手を振る、帽子の女性の姿。
光:「……また、内緒で来てたのか」
瞬:「あの人、昔からそういうとこあるんだよ」
光:「ま、お似合い夫婦だな」
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■Scene:帰り道、肩を並べて
舞台が終わり、会場をあとにした瞬とほのかは、
夜風の中をゆっくりと歩いていた。
ほのか:「今日のあなた、すっごくカッコよかったよ。
表に出ないのに、誰よりも頼られてる。……それって、凄いことだよね」
瞬:「ありがとう。……でも俺は、君にそう言ってもらえるのが一番嬉しい」
ふたりはそのまま、手をつなぎながら、
都会のざわめきの中を歩いていった。
誰も知らない“夫婦の帰り道”。
それは、舞台よりも美しいシーンだった。
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