■第6話『すれ違いの朝と、名前を呼ぶ夜』
――すれ違う日々の中でも、
“あなた”と呼べる人がいるだけで、救われる。
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春が終わりを告げ、街に夏の匂いが混じり始めたころ。
佐伯瞬の職場では、新年度の大きなプロジェクトが立ち上がっていた。
その責任者に、若手のホープとして白羽の矢が立ったのが――瞬だった。
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■Scene:仕事と家庭のはざまで
「佐伯くん、明日のプレゼン頼めるか? 資料まとめ、今夜中でお願い」
「……わかりました」
深夜のオフィス。
PCの画面を睨みながら、瞬は背筋を伸ばした。
(あと3ページ。今日中に仕上げないと……)
時計は22時を回っていた。
スマホを見ると、未読のメッセージがひとつ。
綾瀬ほのか:
「今夜は子どもたち、早く寝たよ。
ちょっと寂しそうだったけど、“パパ、おしごとがんばってる”って言ってくれた」
瞬はその文章に、小さく笑った。
(俺は、今なにのために頑張ってる? 答えは明確だよな)
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■Scene:すれ違いの朝
翌朝――
珍しく、ほのかの方が先に起きていた。
「瞬くん、朝ごはん、作っておいたよ。冷蔵庫に入ってるからね」
「ありがとう……でも今日は早出だから、先に出るね」
「……そっか」
2人とも、言葉に詰まりそうになるのを堪えて、
静かにキスを交わした。
けれどそれは、ほんの一瞬で――
すぐに“仕事の顔”へと切り替えられていった。
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■Scene:ほのかの撮影と孤独
一方で、ほのかも再び映画の撮影が本格始動していた。
現場では笑顔を浮かべながらも、
ふとした瞬間に目を伏せることが多くなった。
(家に帰っても、あの人はいない)
(でも、待つことが“妻”としての役割だと信じてる)
心音が差し入れを届けに来た日、
控室でそっと尋ねた。
「……お義姉様、無理してませんか?」
「ん? なんで?」
「“強がってる”時の目、私たち姉妹で似てるんです。
私、あの目を……よく鏡で見てましたから」
ほのかは目を細め、優しく言った。
「心音ちゃん。あなたも、私たちの家族なんだね。
ちゃんと、見てくれてる」
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■Scene:夜の帰宅、そして“名前”
深夜1時。
瞬はようやく家に帰宅した。
リビングの電気は消えていたが、寝室のドアだけがうっすらと開いていた。
ベッドの上。
寝息を立てる双子たちの隣で、ほのかがうつ伏せになって眠っている。
瞬はそっとその隣に腰を下ろし、
彼女の髪を撫でながら、小さな声で呟いた。
「……ほのか」
呼ばれたその名前に、
彼女の肩が微かに震えた。
眠っているふりをしていたほのかは、
ゆっくりと目を開けて、微笑んだ。
「……瞬くん。
おかえりなさい」
その言葉だけで、
今日という一日が救われた気がした。
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